杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第157回: インプロビゼーション

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
01.27Sun

インプロビゼーション

今年は読まれる文章を書こうと考えていて小説については時間をかけて準備を進めている。夏には取りかかって年内に書き上げる予定で、これはまぁいい。全力で傑作を書くだけの話だ。問題は書いたものをどう売るかで、いくら必死こいて傑作をものしたところでそこへ至る導線が何もない。通常はストア内で関連づけされることで読まれるのだがおれにそれは期待できない。たぶんストアにきらわれているのだ。それもまぁいい、そうした表示が連れてくる客はだいたいにおいて筋が悪い。負け惜しみではなく実際あそこの客はだれも本など読みやしない。美少女アニメやゲームをこそ至高と見なす中年男性ばかりで昭和の加齢臭がする。書名の検索で訪れた客とFacebookページでいいねしてくれた読書家だけが現在のところ理想の客筋だ。しかしたまにしか更新しないのではそのわずかな客さえ得られない。そこで質を問わない日記を毎日書こうと考えた。これまでは少しでも内容のあるものをと心がけ、材料が溜まるまで待って時間をかけて書きなおしたりした。しかし努力したところで自分の技量はたかがしれているし、もし仮にまともな文章を書けたところで、そんなものを月にいちど公開するよりはゴミのような独白をひんぱんに垂れ流すほうがずっと読まれやすい。ひょっとするとまともな文章を毎日書くよりいいかもしれない。ひとは中身の薄いものを短い時間で気楽に楽しみたいのだ。おれだって発売を楽しみにして予約までして買ったウィリアム・ギャディス『J R』は昨年末から積みっぱなしだ。そもそも読まれるためにすべきことは傑作を書くことではない。社交だ。挨拶まわりだ、名刺配りだ。著名人や人脈のある連中にすり寄って名を売ることだ。聞くところによるとコミケや文フリといった同人誌の世界はそのような理屈でまわっているという。長くそのような挨拶まわりで生きてきた有名演歌歌手が、経験を活かしてコミケ文化にはいりこみ、絶大な人気を取り戻したとの逸話を何年も前に聞いたことがある。海外のセルフパブリッシャーのやっていることも突き詰めればそういうことで、さまざまな会合で名刺を配って顔を売るのだそうな。何しろスティーヴン・キングだってソーシャルメディアで愛犬の写真やらバンド活動やらを見せびらかしていいねを集めなければ本を売れない時代だ。あいにく発達障害のおれには人間として最低限の社会性がない。ましてやさまざまな会合に出席して顔を売るとか、力をもつひとびとに貪欲かつ巧みににすり寄って人脈を築き上げるなどといった高度な芸当はできない。できないから小説など書いているのだ。やれるのはせいぜいが独白の垂れ流しだがそれは読まれやすい反面、自分をことさら貶めて晒し者にする性質がある。どうしたってそこからは逃れられないし、そうすることで厄介な客、というか当人はお偉いお客様だと思い込んでいるが、実際はとてもそう呼べない輩を招き寄せることになる。そんなことをしたいのではない。じゃあ何がしたいのか、どんな方法があるのかといった話をこれから少しずつ書いていきたい。とりあえず今夜はここまで。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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