杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第153回: キンボート氏の見解

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2018.
12.26Wed

キンボート氏の見解

世渡りに自信がなければソーシャルメディアから遠ざかるに越したことはない多くのひとが憧れるような職業に就いているとか著名人の家族がいるとか変わった場所に住んでいるとかいった特別な暮らしをしているのでなければ書き手は私生活に言及しないほうがいいアクセス解析を見るかぎり本の感想には脇目も振らずアクティヴィティだけを毎日日に何度も見に訪れる輩がいた読書と出版のサイトをわざわざ訪れながら本の記事ではなく他人の私生活ばかり閲覧するのは貶めるためとしか思えないそのことについて言及したとたんに閲覧数が不自然に増えた旧筆名時代からの粘着者がどこかで何かを言いふらしたのはまちがいないと思えた後ろ盾のない無名人はインターネットではしばしばそのような目に遭うこれまで数えきれぬほど経験がある書き手の私生活と小説の内容とをおそらく意図的に取り違えられ実際とまったく異なる筋立てであるかのような誤読を誘導するレビューを投稿されたりした娘を亡くした経験をもとに書いた大切な詩を自己愛的な粘着者から私の作品などと勝手に呼ばれそいつの妄想に感銘を受けて書いたかのように言いふらされる淡い焰の詩人がひとごとに感じられないあるいはわがキンボート諸氏には本当に小説を読む能力がなかっただけなのかもしれないが後述する当時の状況からはありうる話だ)、 いずれにせよ筆名やドメインを変えて再出発したのはそのような変質者たちにつきまとわれたせいもあるだれとも関わらずひっそりやっていたのに嗅ぎつけられた現代の焚書はそのようにして官憲の手によらず善意に満ちた一般市民によって行われるソーシャルメディアは生け贄をつねに求めている

黒船来航当時キンボートの劣化版のようなウェブメディアしか紹介者がなかったことはこの国の電子出版にとって悲劇だった小説を読むのは労力や経験や理解力を要する現代のキンボート諸氏は小説を読む能力に致命的な欠陥がある一方で何がソーシャルメディアで喜ばれるかを熟知している被言及度に基づく評価経済において金を生むのは話題として消費しやすいネタだウェブにおいてはそれこそが唯一絶対の価値であるためストアにこんな奇妙な商品があるといった取り上げ方しかされない劣化キンボート諸氏のわかりやすい価値観においてはゴミであるほどソーシャルな話題になるのでよい本であることになり読書のありようは致命的に歪められるのちに大手により再出版され北上次郎が絶賛した世界文学的な傑作ですら2013年当時は的はずれなレッテルを貼られ卑俗なキワモノであるかのように貶められた風向きが変わったのは KU 開始以降だ初期こそ素人のゴミばかりと不評だったが大手出版社の努力によって読める本が増え加入していれば気軽に試せるため大手による出版物と遜色ない自主作品も知られるようになってストアの表示は徐々に改善されはじめた。 「遜色ない著者がきわめて限られている実質ひとりかふたりではないかため現状はまだ偏った表示に見えるが少なくともミステリー・サスペンス・ハードボイルドの有料ランキングに限っていえば粗悪な本を見かける機会は以前より減った実力のある著者にストア側が適正なてこ入れをしている様子もうかがえる

おすすめの精度もまた体感的には改善されつつあるように感じるフリオ・リャマサーレスやバルガス=リョサが電子書籍で読めることを以前は粗悪な本ばかり並んでいた表示領域で知った記事作成のためストアの閲覧機会が増えたことや図書館に通う余裕がなくインターネットで購入するようになったのが直接の原因ではあるだろうが大手出版社によって電子化される書籍が増えた影響も否定できない元年から八年黒船来航から六年遅々たる歩みではあるがストアへの不満は徐々に解消されつつある自著の商品ページにはげんなりさせられるしアクセス解析を見るかぎり変質者にもいまだつきまとわれているようだが大手ストアの仕組みに頼るからにはそうした弊害は避けられまいまたストアを利用して本気で商売をしている著者の側にとっても商材であることを第一義としない出版を同じ場所で行われるのは目障りなことだろうゆくゆくは出版も棚づくりも販売も人格OverDrive のウェブサイト内で完結させたいと考えている素人でも簡単に利用できる電子取次があればいいのだが現状はアフィリエイトリンクやストアの出版サービスを利用するほかない劣化キンボートよけの対策としてとりあえずアクティヴィティは自分にしか見えない設定にしたURL を指定して訪れると本の一覧ページへ飛ばされる挙げ足とりの監視なんかするより小説を読めという意思表示のつもりだ本を読む能力に欠陥のある自己愛者にはもちろん理解できまいが大切なのは他人にどう思われるかではなく自分がどうしたいか人格OverDrive は読んで書いて出版するくどいようだが Kindle という単語が何を意味しようとも原稿は燃えないものだしただ後をつけてきた能なしから作家はいつだってはみ出しているのだ

淡い焰


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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