D.I.Y.出版日誌

連載第139回: Amazon POD、KDP Print、CreateSpaceの現状

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
06.17Sun

Amazon POD、KDP Print、CreateSpaceの現状

マルチストア配信でも何でもそうだけれど仲介業者を挟めば更新にせよ何にせよ手間と金がかかるCreateSpace ならグラフィカルなツールで簡単にやれるごく当たり前の作業の無数の些細な手順を実現するために某サービスではその都度いちいちやりたいことを担当者に理解させるために何度もメールのやりとりをせねばならず無理に頼み倒して人力でどうにか融通してもらわねばならないそしてそのたびに五千から数万の金がかかる最初は無料だと告げられていたにもかかわらずだ正直かなりのモンスタークレーマーにならずには出版できない業者のせいではなく企業向けの Amazon POD を個人が使うことに本来無理があるいっそ法人を立ち上げないかぎりは仕組み上どうにもならない販売価格も非現実的な高額になる

CreateSpace なら 400 字詰め原稿用紙 300 枚程度の本を 1000 円ほどに抑えられる5×8 インチの判型を選べば縦横比が同じなので KDP の表紙画像をそのまま転用できる日本の書籍ではめずらしい縦長の判型がポケミスのような意図したデザインに見えて好印象だ同じつくりでありながら某サービスでつくる四六版はいかにも粗末に見える)。 こちらは本当に無料だしすべて自動化されているので手間もそれほどかからない何より担当者に迷惑をかける負い目がないKindle 版を先に出しているタイトルを POD で出せば自動でリンクされる時間がかかっている場合には著者セントラルから連絡すればリンクしてもらえるこの紐付けに関しては業者のサービスのほうが効力が強いので同じタイトルを CreateSpace で出し直したときには修正に時間がかかった

CreateSpace の欠点はほかにも商品ページに日本語が使えないこと裏表紙を商品画像にされるので CreateSpace のサポートに頼んで修正してもらわねばならないことLook Inside! が有効になるタイミングとその後のよくわからないタイミングで裏表紙に戻るのでそのたびに根気強く修正を依頼しなければならないことGoogle やレビューサイトには裏表紙で画像が取得されること日本で購入されるまで初回はひと月半かかりついで二週間で届くようになり在庫されるまではある程度の受注体感では一度に三冊ないし数回の受注が必要であること三菱 UFJ で海外口座を開設しないかぎり報酬を受け取れないことなどが挙げられる

金なんていくらでも出すし自分では手間をかけたくないから何でも業者任せにしたいという向きには某業者のプリントオンデマンドは適しているおそらく書名に日本語を使えるせいだろうが SEO も業者のほうが優れているようだストア内でも Google に対しても効力があるようでいまだに絶版にした業者版が上位表示されるしかし読者のことを考えるのであれば CreateSpace をお薦めする価格が安いので自分で何冊も買って名刺代わりに配ることもできるKindle や epub とは較べものにならないほど読んでもらいやすい日本人の利用が増えれば CreateSpace も日本語対応を考えてくれるかもしれないし KDP Print の展開もあり得るかもしれない現状そうなっていないのはコストに見合わないからだろう人材が集まらないせいもあるかもしれないと妄想している

PDF の作成はいろいろ試した結果代替手段を模索するよりも素直に InDesign を使うほうがいいとわかった月額数千円の出費はリュウミンが使えることも考えあわせれば安い金は業者ではなく道具に使うべきだと八年間の出版経験から断言できる他人任せにして自分の思うようにならないよりも自分に投資して技術を身につけたほうがいい装幀やタイポグラフィにしてもそうだプロに頼んでよかったと心から思えたのは悪魔とドライヴの装画と人格 OverDrive のアイコン本のシルエット)、 それにすべての刊行物に使わせていただいている扉画像だけだくみた柑さんといーブックデザインさんには本当に感謝しているそのように自分にとってこれしかないと思えるような出逢いがないかぎりはアートワークも印刷版の出版もなるべく自力でやったほうがいい

【追記】

CreateSpace が KDP に統合され日本語での印刷版出版は不可能となった

夏の終わりに


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。