マルチストア配信でも何でもそうだけれど、 仲介業者を挟めば更新にせよ何にせよ手間と金がかかる。 CreateSpace ならグラフィカルなツールで簡単にやれるごく当たり前の作業の、 無数の些細な手順を実現するために、 某サービスではその都度いちいち、 やりたいことを担当者に理解させるために何度もメールのやりとりをせねばならず、 無理に頼み倒して人力でどうにか融通してもらわねばならない。 そしてそのたびに五千から数万の金がかかる。 最初は無料だと告げられていたにもかかわらずだ。 正直かなりのモンスタークレーマーにならずには出版できない。 業者のせいではなく企業向けの Amazon POD を個人が使うことに本来無理がある。 いっそ法人を立ち上げないかぎりは仕組み上どうにもならない。 販売価格も非現実的な高額になる。
CreateSpace なら 400 字詰め原稿用紙 300 枚程度の本を 1000 円ほどに抑えられる。 5×8 インチの判型を選べば縦横比が同じなので KDP の表紙画像をそのまま転用できる。 日本の書籍ではめずらしい縦長の判型が、 ポケミスのような意図したデザインに見えて好印象だ (同じつくりでありながら某サービスでつくる四六版はいかにも粗末に見える)。 こちらは本当に無料だしすべて自動化されているので手間もそれほどかからない。 何より担当者に迷惑をかける負い目がない。 Kindle 版を先に出しているタイトルを POD で出せば自動でリンクされる。 時間がかかっている場合には著者セントラルから連絡すればリンクしてもらえる。 この紐付けに関しては業者のサービスのほうが効力が強いので同じタイトルを CreateSpace で出し直したときには修正に時間がかかった。
CreateSpace の欠点はほかにも商品ページに日本語が使えないこと、 裏表紙を商品画像にされるので CreateSpace のサポートに頼んで修正してもらわねばならないこと、 Look Inside! が有効になるタイミングとその後のよくわからないタイミングで裏表紙に戻るので、 そのたびに根気強く修正を依頼しなければならないこと、 Google やレビューサイトには裏表紙で画像が取得されること、 日本で購入されるまで初回はひと月半かかり、 ついで二週間で届くようになり、 在庫されるまではある程度の受注 (体感では一度に三冊ないし数回の受注) が必要であること、 三菱 UFJ で海外口座を開設しないかぎり報酬を受け取れないことなどが挙げられる。
金なんていくらでも出すし自分では手間をかけたくないから何でも業者任せにしたい、 という向きには某業者のプリントオンデマンドは適している。 おそらく書名に日本語を使えるせいだろうが SEO も業者のほうが優れているようだ。 ストア内でも Google に対しても効力があるようでいまだに絶版にした業者版が上位表示される。 しかし読者のことを考えるのであれば CreateSpace をお薦めする。 価格が安いので自分で何冊も買って名刺代わりに配ることもできる。 Kindle や epub とは較べものにならないほど読んでもらいやすい。 日本人の利用が増えれば CreateSpace も日本語対応を考えてくれるかもしれないし KDP Print の展開もあり得るかもしれない。 現状そうなっていないのはコストに見合わないからだろう。 人材が集まらないせいもあるかもしれないと妄想している。
PDF の作成はいろいろ試した結果、 代替手段を模索するよりも素直に InDesign を使うほうがいいとわかった。 月額数千円の出費はリュウミンが使えることも考えあわせれば安い。 金は業者ではなく道具に使うべきだと八年間の出版経験から断言できる。 他人任せにして自分の思うようにならないよりも、 自分に投資して技術を身につけたほうがいい。 装幀やタイポグラフィにしてもそうだ。 プロに頼んでよかったと心から思えたのは 『悪魔とドライヴ』 の装画と人格 OverDrive のアイコン (本のシルエット)、 それにすべての刊行物に使わせていただいている扉画像だけだ。 くみた柑さんといーブックデザインさんには本当に感謝している。 そのように自分にとってこれしかないと思えるような出逢いがないかぎりは、 アートワークも印刷版の出版もなるべく自力でやったほうがいい。
【追記】
CreateSpace が KDP に統合され日本語での印刷版出版は不可能となった。