D.I.Y.出版日誌

連載第137回: パターソン氏のように

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
06.05Tue

パターソン氏のように

サイト上で小説の連載から epub 化までを行いさらに ASIN を入力するだけでランディングページを自動生成させるそのすべてをフロントエンドで完結させたいBuddyPress と連携したフロントエンドのブログ投稿機能知るかぎりプラグインが三種類ほど存在する)、 ランディングページは WP User Frontend と Amazon.js との組み合わせepub と PDF の生成は PriPre で技術的には実現できるしかし PriPre はフロントエンドで使えない記事数が増えると編集が極端にやりづらくなるし生成される epub の品質も悪いそもそもひらかれた Web とパッケージ化された本とでは見せ方が違う結局なおさねばならないのであれば Hagoromo に貼りつけて編集してから epub 化するほうがいいAmazon.js でランディングページを自動生成する方法はアイキャッチに書影を設定するか否かによって変わるバナー的な画像を別に用意するのなら書影も Amazon.js で表示できる書影をアイキャッチにするのであれば Amazon.js でやれるのは出版社名と価格あとはせいぜいがページ数や判型くらい紹介文も権利の関係で自動取得できないので手入力せねばならないカート機能をつけてデータ販売をすることも考えている個人情報やクレジット情報を預かる責任は重すぎるしかし実際にはだれも購入しないのだからセキュリティに悩む必要はないのかもしれない

現状はサイトにも本にも不満しかないいいと思えるものを何も実現できていない何をやりたいのか。 「このひとみたいになりたいというお手本に出逢えたらめざすところが見えやすくなるかもしれないしかし現実には尊敬できる才能はいてもなおかつ似たようなことをやっているひとにはいまだ出逢えていないたとえば書いたものを WordPress で公開することについて調べると大抵のことは何年も先に破滅派さんが試みているしかし彼らはあくまで開発者の視点で文学同人誌をやっているそれらはインターネットと親和性があるしまたインターネットにまつわる営利企業であるからにはそうでなければならない人格 OverDrive がやりたいのは文学同人誌ではない開発者のような社会的価値のある視点も持ち合わせていない好きな小説がたくさんある個人の視点であるいはわかりやすさ社会のニーズから疎外された個人の視点で読んで書いて出版する手段をめざしているWordPress の標語であるところの出版を民主化するというのはしっくりくるほんとうは読書の民主化ということもいいたいのだけれどこれはわからないわれわれは見せられたものしか見えないからだ政治家やマスコミや広告代理店や Google や Amazon といった連中が見せたいと思ったものしか知り得ない

もしかしたら世間にはジム・ジャームッシュの映画パターソンの主人公みたいな才能がごまんといるのかもしれないパターソン氏は詩人として有名になりたいとか社会的経済的に成功したいなどといったことは考えていないやっているのはそういうことではないかといって書くもの書いたものがどうでもいいわけでもない犬に引き裂かれたら茫然としてしまうほど大切にしているあの映画ではもし彼の詩がインターネットに公開されたら話題になりかねないような気配があったけれども現実のパターソン氏はそうはなるまいインターネットでは本物の才能はまず知られない異質でわかりにくいからだバズるのはわかりやすい言葉政治家や大企業など力のあるひとたちにとってのニーズがある言葉であってそうでないものはどれだけわれわれのニーズがあっても力のあるひとたちにとって無価値であったり都合が悪かったりすればニーズがないということにされ、 「笑いものにされ淘汰される」。 淘汰されたものは知り得ないので知り得ないものについては何もいうことができないただしもしもパターソン氏が書いたものを出版したいと考えたらそうする手段はあっていい自分にとっての小説やサイト出版レーベルはそのようなものだAmazon はその手段にはならない

具体的にどうなれば満足なのか自分でもよくわからないだれにも届かないので不満なのか他者の評価とは関係がない他人に認められるのが目的ではないそもそもがだれに届くはずもないものを書いている他者は異質なものを貶めるだけであり自己肯定感を低下させる要因でしかないプロの作家になりたいわけでもないしたとえば YouTuber のようにストアの仕組みを利用して稼ぐコバンザメみたいな業者になりたいわけでもないましてやそのような社会的成功で賞賛されたいわけでもない自分で自分を OK だと思いたいだけだ突きつめればそのためにやっている自分のなかだけで納得できればそれでいいのだ人生の質というのは案外そういうことにかかわるのではないかそれはたとえばけっして客を招かない部屋の家具に凝るようなものだ本当に自分で納得できるものを実現したい成し遂げたものを眺めていい仕事をしたと満足できるものを実現したい一方で矛盾するようだけれどだれかの心を揺り動かしたり勇気づけたりするためにも書いている何も心に残らないような小説なら書く意味はない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。