D.I.Y.出版日誌

連載第135回: 不適切な扱い

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
05.23Wed

不適切な扱い

Amazon は消費者の嗜好など一顧だにせず商売上の都合ばかり押しつけてくる嗜好性の強い商品ほど専門店で探したほうがいいつまり SEO がモール以上に重要になる音楽については嗜好に最適化された YouTube で教わりSpotify のような定額聴き放題サービスで愉しむといった流れが考えられるけれども読み放題というものが機能していない素人のゴミしかない現状ではあまり参考にならないおそらく Amazon は 10 年以内に栄華のピークを迎えるその後 20 年でびっくりするくらいの凋落が訪れる彼らが謳う顧客第一主義は搾取の口実でしかない顧客は見せられたものしか見えないからそれが正しいように錯覚させられる騙されていられるのはまださまざまなことが未成熟で牧歌的な時代だからだGoogle だって実際にはひとびとが見るものを都合よくコントロールしているしかし彼らでさえ見え方を調整する設定手段を提供している一蓮托生であるインターネットが検閲がもとで廃れて別のものにとってかわられるまでは彼らは存続するだろうかたや Amazon に調整手段はないあってもほとんど機能しない

顧客の嗜好が無視される場で嗜好品をどう売るか目下の悩みはカテゴリ指定だKDP のカテゴリは amazon.com に準じた細かい分類がなされているamazon.co.jp のストア側では日本の実情に合わせた分類がされていて齟齬が生じる機会損失を避けるためサポートに依頼してカテゴリを調整してもらうのが常道だが素人のゴミばかり表示されていて同類に見られるリスクがあるあるいは別の販路をいかに見出すかAmazon でしか買えない本は publish したとはいえない2010 年から 5 年間は自サイトでの無料配布を中核とした多販路を選んでいた黒船来航までは無料 電子書籍」 「無料 epub」 「インディーズ作家」、 来港後はそれらに加えて無料 kindleなどで Google 検索すると上位に表示されるようにしていた当時はだれもそれらの単語で検索しなかったもしそのままつづけていたら違った景色が見えていたかもしれない現在は影響を受けた数々の本と自著を関連づけることで文脈を生成しようとしているが関連づけの施策にも読書感想にも手をかけられずにいるせいで機能していないサイト内の SEO に加えて打てる手としてはディスプレイ広告があるこれまでの経験からいうと広告は売上に直結しない承知の上で少しでも露出を高めればと考えたがそうであってもやはり費用対効果が薄すぎる

モールに対する独自ストアの優位性は顧客情報を管理できる点だとよくいわれるであるならばやはりメール集客をやるしかない海外の著者サイトでは当たり前のことだただしこの国でメール登録は楽天のせいで極端に悪い印象がある代替となる集客法が BuddyPress による著者と読者の交流政治家のパーティやアイドルの握手会に相当するだが自分には向いていない。 『悪魔とドライヴのような暴力的なロマンスの路線をしばらくつづけるつもりでいる。 『砒素と携帯ロックンロールを単行本化までの期間限定でどこかに連載するとかKindle 版をグリーンマイル方式で分冊で連続刊行するとかして表示機会を増やすことも考えたAmazon で売るつもりなら後者が適しているけれども本を細切れにする考えが好きになれないし製本や装幀に手間がかかりすぎるいったんインデックスされた記事を消すのは SEO 的に不利なので借りた場所がいいnote を検討した作品の価値ではなく世渡りの巧みさを求められる場の印象が強く躊躇する

暴力によって人生が損なわれることについて書いている社会生活を成立させるにはその怒りを麻痺させねばならない両立はできないたちの悪い依存症のようなものだそうまでして書くことになんのメリットもない正当に評価されないのが納得できなくなるストアの特性だから仕方ないとわかっていてさえもだ自分が何をやりたいかどんな方向に進みたいか最終的な目的は他人の評価ではない書いて出版しているものの価値を自分に証明するためにやっているしかし適切に扱われる場あるいはそこへたどり着くための道が見いだせないのでは目的が果たせない八年もやっているのに自著にあった売り方をまだ見いだせないとりあえず Facebook ページで砒素と携帯ロックンロールの公開をつづける

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(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。