D.I.Y.出版日誌

連載第133回: 拡張する

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
05.16Wed

拡張する

いろいろ考えたがやはり多販路展開と直販が自分には合っていそうな気がするAmazon でしか買えない本は publish したと称するには不充分だ専売にして読み放題にしなければ収入は得られないけれども収入なんてあったところでせいぜい月に数千円でしかない収入の多い素人は必ずしも作品の実力ではなくAmazon に優先的に表示されたことによる倍々ゲームでしかない優れた作品もなかにはあるが質は成功の要因ではない)。 そしてその優先表示の流れを探ると結局世渡りのスキルでしかないことがわかるもっといえば世渡りのスキルからゲームのスキルへつなげる才覚と量産だ世渡りもゲームのスキルではあるけれどより数値のパラメータの最適化的なスキルになるあとは量産それも要するに表示機会の拡大のためだストア内で商品を探す客が実際にはばかにならないほど多くてそういう客の前にいかに多くの面積で表示するかが鍵となる

Amazon に気に入られなければ表示される機会はないそれが薄々わかっているからだれもが特定の厄介なひとたちに媚びるそのひとたちは Amazon と直接のつながりはないけれども目につきやすく彼らに気に入られることは Amazon の評価に影響する彼らもまた世渡りのスキルと数値パラメータ最適化のスキル量産のスキルに長けていて要するに評価経済においてうまくやっていて中央在住でさまざまなひととのつながりがあるからだ中央の人間が粗製濫造でひとのつながりでゲーム的な才覚で⋯⋯とやるのでは従来の出版となんら変わりない極小規模の出版をやる意味がないしかしそれはあくまで Amazon 礼賛のピラミッドを想定した場合だこれまでのインターネットは何につけてもそのような構造ばかり目についたそのことは四年前に書いた

評価経済の換金装置をハックする

しかし Amazon ばかりが書店ではないインターネットにはもっと潜在的な可能性がありそうな気がするさしあたり Amazon についてだけ考えるならストア内に表示させようとするから媚びるしかなくなるストア内だけで生態系を完結させようとするからだストアの表示をコントロールする力は著者にはない読書と出版という観点だけからいえばそこがそもそもおかしい物事をコントロールするのは読者と著者でなければならないあるいは編集者であってもいい断じてストアやなんだかよくわからない部外者ではないしかしストアはストアのものだからそういう意味で彼らが表示を決めるのは道理だ他人に口を挟む権利はない個人はもちろん国家であろうとだそれはそれでとても重要なことだ

ストアが何をどう売りたいか決める権利をもつように著者にも本をだれにどう売りたいか決める権利があり読者にも好きなものを好きなように読む権利があるAmazon は顧客第一主義と称していながら実際には読者のことなど考えてはいない考えていたならあんな表示にはならない客の好みを無視してストアの都合ばかり押しつけてくる客は見せられたものしか見えないからそういうものだと思っていてその欺瞞をもとに表示の倍々ゲームは加速し利益とともにゴミの表示率も膨れ上がるそういう場を自著にふさわしいと見なし自らを最適化するか否かという話だそうしたければそうすればいいし合わないと思えば別に Amazon にこだわる必要はない自分にぴったりのストアが見つかればそれでよしなければつくるのも手だ

あらかじめ評価経済の勝者でなければ独自ストアが閲覧される可能性は皆無だとなればひとつひとつは自著に合わなくてもとにかく多くの店に出品してなんならディスプレイ広告も書評サイトに出しまくり少しでも多く人目につくようにするという選択肢が残るとにかく目につかなければ話にならないただしそこから先は Amazon に迎合するよりもはるかに困難な作業となるインターネット企業の役員をしていてそうした分野に詳しいはずの著者でさえもわざわざ装幀や販売方法を特殊にして読まれないいいわけをそこに求めるようになってしまった彼の場合は一作目がすばらしすぎたのでその後迷走しているだけだとは思うけれども

多販路展開をするにあたっていくつかの問題があるまず自サイトの UI だASIN を入力するとさまざまな箇所が自動的に表示されるようにしてある多販路にするとその辺の UI を設計しなおさねばならない入力項目が増えるのは困るし自著の商品ページのみ別のテンプレートを当てる必要もあるカート機能をどうするかという問題もあるプレビュー機能もある BCCKS を以前のように利用したい考えもあるけれどもたしか自前の epub をそのまま配布・販売することはできなかったはずだそれに epub は epubオンデマンド用の pdf は pdf でそれぞれ専用のアプリケーションで制作しすべてのストアで共通化したいのに分割されたテキストボックスにはりつけて修飾して⋯⋯の面倒なくりかえしをわざわざ BCCKS のためだけにしなければならないepub アップロード機能は一行空けが無効になるなど使いものにならなかった現実的な選択肢とはいえない

サイトの UI はどうにかなるが無視できないのはプリントオンデマンドのペイパーバックだCreateSpace を利用する以上 Amazon でしか売れない米国では外部ストアとして eBay など複数のストアでも売られるようだけれど日本ではたとえば楽天に出品されることはない少なくとも知るかぎりは)。 加えてバーコードが Amazon 独自のものになる米国のペイパーバックはあのような形状なのかもしれないけれども日本では通用しないどうしても売りたければ二段バーコードのシールをつくって貼りつけるしかないCreateSpace から取り寄せてシールを貼り楽天などのストアに出品するのは理論的には可能だけれども手間がかかりすぎて現実的ではないそもそもだからこそのオンデマンドだったここをどう解決するか

二年ほど前に BCCKS に問い合わせたところ ISBN を使うことは可能だという話だったがよくよく聞いてみると提示されたのは装幀画像に二段バーコードを含めるという原始的なハックのような方法だったまぁそれでもいいのだけれどバーコードが印刷されたからといって配本手段がなければ自己満足の役にも立たないであれば CreateSpace のペイパーバックにシールを貼るほうがまだましだCreateSpace で 5×8 インチを選べば KDP と縦横比が同じなので表紙画像を共通化できるあと考えるべきは量産に変わる手段だけれどもそんなものはない極小出版であろうとそこからは逃れられなかったというのがひとまずの結論だと思う質を落とさずに速く大量に書けるようになるしかないそれは芸の追求であり読者と真剣に向き合うことでありそのような目標においてであるならばAmazon の表示がどのようであろうと関わりなく努めるべきことだしかしジョブズ復帰後から現在に至るまでの Apple が商品点数を絞りハードウェアのアップデートすら頻繁ではないことを思えばそしてそうすることでブランド化に成功していることを思えば、 「速く多くすらも唯一の正解ではないように思える


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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