D.I.Y.出版日誌

連載第131回: インディ書店と作家

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
05.09Wed

インディ書店と作家

日本の電子書籍はまず版権切れ作品と素人のゴミからはじまりついで漫画で規模を拡大した電子書籍で読める小説はいまだ分野が限られていてたとえば海外文学はごくわずかに留まっている客層がはじめから偏っていたしいまだに偏っていて出版社もおそらく意図的にそのような戦略をとっているAmazon は雪だるま式に売れたものが売れやがてそればかりがほかを押しのけて売れるような仕組みになっているのではじめがどうであったかが重要になるましていまだに偏りが強固に保持されているのであればなおさら歪みは再生産されつづけるなんらかの要因でゴミが売れることは多々ありひとたび売れてしまえばそれが絶対の正義として優先的に表示されその表示機会は鼠算式に拡大されつづけるある傾向のものが独占的に表示されればそうでないものは表示領域外に押しやられ売れる機会を失いつづける結果として日本の電子書籍は偏ったものばかりが売れそうでないものは淘汰されるそこに品質は関係ない

環境に最適化されたものが売れそうでないものは淘汰されるとはいえるけれども偏った環境に最適化することと作品として優れていることは関係がないせいぜいがごくまれにひとつの因子として作用することもあるという程度でしかないそれをすり替えて喧伝するのは卑劣な詐欺だ表示のからくりも表示されない本の存在も知らない読者は論理のすり替えに気づかず見せられた狭い世界を正しいと信じ込むしかないいま現在この国の電子書籍のユーザはいまだ明らかにガジェット好きでアニメ・ゲーム好きで性差別的な傾向のある男性に偏っているそれらの属性はそれぞれ別個のものだけれども結びつくと現在のストアの状況になる嘘だと思ったらランキングの表示を眺めてみればいい女性を人間ではなくモノとして扱う少なくともそのような内容を示唆する表紙や謳い文句の作品はそうでない作品よりもはるかに目につくつまり売れているし目につくことでこれからもますます売れるそれは環境における優位性ではあっても品質の優位性ではない

そのような状況をいかに改善するか小説は本来時間をかけて読まれるものだ性急に変化を求めることはできない大規模モールのアルゴリズムはあくまで効率的な利潤の追求に最適化された設計になっていて文化や人間性といった因子は顧慮されないもちろん利潤は求められるべきで商売の姿として正しくはあるのだけれど読書のありようとは切り分けて考えられるべきで、 「という商品の持つさまざまな意味を俯瞰的に捉えれば決してそればかりが正義ではないまして小説は本来周縁の視点に立つものでありひとりに寄り添うものであって、 「みんな同じ」 「それだけが正しいシステムに何かを期待するほうが筋違いだそういう店もあればそうでない店もあるさまざまな客のさまざまな好みがそれぞれあっていいように自分に合った客筋を見出さねばならないしそれができる店もあるはずだ確かに既存のシステムに乗っかるほうが簡単だ最適化されるほうが簡単だという意味ではないそうすれば正義を主張することもできるけれどもそれが小説のやることなのかいや当然そういう小説もあっていいのだけれどもそうでない小説が淘汰されるのを正しいと見なしたりそのように言いふらしたりするのはまちがっている偏った声だけを正義としそうでないものが淘汰されるのを当然と喧伝するのはたとえば性暴力に抗う声が黙らされるくらいおかしなことだ

八年前からずっと書いてきていることだけれどもやれることがあるとすればやはり独自性のある書店兼レーベルが存在感を発揮することだそのレーベルの作品をその書店で買うことがアップルやナイキの製品を愛好するように何か気の利いた生活様式であるかのように思わせねばならない台湾の独立音楽レーベル兼 CD ショップ小白兔唱片のような存在が理想だ数カ国語で書かれたポップに相当する何かをウェブサイトでどう実現するかを考えている90 年代の HMV やタワレコにもあのような何かがあったのだけれどひとや文化よりも効率を優先するようになり独自性も存在感も喪った余談だけれど某書店で起きたこともそういうことではないのか⋯⋯と検索したらどうもそう簡単ではないらしい)。 作品を買って読むばかりではない読書体験そのものを買って味わうのだそういうものを提供する場がほしい作家ひとりでやれることではない作風に似た傾向をもつ作家が集まらねばならないただ寄り集まって餌を待つだけではだめだそこには選ぶという要素すなわち編集がなければならないそして何より作家はひとりひとりが主体的に活動せねばならないしかし仲間を集めようにも淘汰によって彼らは目につかないそしてもっとも重要であるレーベルカラーを実現するのは選別する編集することでありだれかが優しい終身の独裁者としてふるまうことが求められる一方でそれと個人の主体性をどう両立するかという問題もある他者という要素が介在する試みは自分の手には余る現実的ではないけれどもこのままの状況を是とするわけにはいかない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。