D.I.Y.出版日誌

連載第129回: 呼ぶ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
04.26Thu

呼ぶ

Amazon へのリンクはクリックされないにもかかわらず広告期間中はわずかながらコンバージョンがあるFacebook 広告を休止すると完全に途絶える広告がコンバージョンに影響したか否かは不明だが広告していない時期にコンバージョンがないのは確かだ明確な傾向が読みとれるのは水曜の落ち込みだけ理由はわからないが水曜だけ広告がクリックされないし KENP のグラフも動かないあとは想像を逞しくしての印象でしかないが広告のクリック率と KENP のグラフは変動がほぼ一致する広告はやらないよりやったほうがいいかもしれないサイト広告とランディングページ広告は同時に走らせたほうがコンバージョンが微増するような気がするしかし持続することを重視するならどちらかに絞ったほうがいい月に三千円なら冗談や酔狂の類いで済むがその倍となるとつい見返りを期待したくなる健全ではないクリックイベントを計測してみたランディングページから Amazon 商品ページへ飛ぶリンクはまったくクリックされていない広告がどれだけクリックされてもランディングページで離脱されていた広告の反応がいちばんいいのは 18-24 歳の女性彼らが Kindle を利用していない可能性も考えられるこの国の女性はガジェット的な玩具から遠ざけて育てられるからだしかしランディングページに訴求力がないと考えるのがまずは妥当だろう

では広告とランディングページを経ずにどんなルートで見出されているのか無料キャンペーンを実施した際に低品質なアマチュア本と関連づけられてしまったのでそういうものを期待するユーザに読まれている可能性は高いだとしたらデメリットしかないコンバージョンには直結しないがランディングページではない記事の自著紹介がクリックされることはあるどの記事なのかはわからないこのサイトにはなぜか読まれやすい記事がいくつかあるもしそういったところから興味を持たれるのであれば望ましい道筋だ関連記事を表示させるなどして回遊性をあげる必要がある。 「いますぐほしい客向けの戦略とじっくり時間をかけて商品について知ってもらって最終的に買って読んでもらうあわよくば感想を共有してもらう戦略をそれぞれ別に考えたほうがいいかもしれない自著はモールと相性が悪い販売機能と汎用性の関係で Amazon は現状使わざるを得ないがそこへ至るまでの導線はなるべく独自でやりたい低品質な本を好むモールの文脈で読まれたくないしそうした価値観で裁かれたら不当な扱いを受ける本好きの読者に長い時間をかけて知ってもらい最終的に買って読んでもらうのがいいサイトのコンテンツを充実させて回遊性を向上させるつもりだがその前にひとが訪れなければ知ってもらいようがない

集客手段を考えたメルマガは顧客の要望にあわせた商品開発や販促展開をすることができる海外の出版情報を読んでいるとどの記事でも集客に効果があるのは E メールだと書いてあるひとりのメールアドレスは SNS におけるフォローやいいねの二十数倍の価値があるというそれは読者の懐に飛び込み私的なつながりを得ることであり熱心なファンを獲得することにつながる海外では登録読者に未出版の短編を配信したり出版予定の表紙をひと足早く限定公開したりといったことが行われている著者サイトやメルマガに登録すれば独自コンテンツが愉しめるそのようにして潜在顧客を呼び集めて囲い込み刊行時に確実に購入してくれるファンを増やす五年ほど前の時点で人気ドラマにも描かれるほど当たり前の販促手法になっているしかしそれはあくまで海外の話だこの国では広告メールといえば楽天の印象がありきわめて迷惑なものとして捉えられている自動的に届くメールはたとえオプトインで求めた情報でさえも遅かれ早かれ読まずに棄てるようになるまして悪名高きオプトアウトに迷惑した経験があればわざわざ棄てる作業を増やすだけの配信登録はしない

にもかかわらず WordPress を利用した日本語の情報サイトの多くがメルマガ登録を促しているであるからにはそれなりの意味はあるのか記事の新着を知りたいというニーズは確かに取りこぼしたくない代替として考えられるのはプッシュ通知だ残念ながらまだ一般に浸透しきっていない見慣れないものに登録するのはだれでも不安だまた利用しているプッシュ通知は多くの閲覧があるスマートフォンのブラウザに対応していないプロフェッショナルな技術者としての登録が必要であるためだ次に考えたのは LINEビジネスアカウントを取得すればやれることが多いと聞いている懐に飛び込むメルマガ的な Facebook 広告といった印象がなんとなくある恋愛小説の販促には適していそうだが個人的に不信感がある最後に考えたのがリスティング広告そんなことに金と手間暇をかけるくらいなら SEO をがんばったほうがいいと考えていたがあるとき恋愛小説で検索しようとしたら恋愛小説 切ないと候補が出てそういう検索が広くなされているのかと目から鱗が落ちるような思いをした。 「いますぐほしい型の集客にはありかもしれない

ただしこの需要につなげるには有料の Kindle は足枷が多すぎるすでに述べたように Facebook 広告で反応がいい層は kindle のようなガジェットに親しみが薄い可能性がある場合によってはクレカすら持っていないかもしれないしAmazon で携帯決済ができるようになったのはつい最近だ)、 そもそもコンテンツに金を払う習慣がないかもしれないむしろ親しみが持てて共感できるからという理由で素人の作品を好む可能性すらあるAmazon のアカウントすら持っていないということはないだろうけれどもそれはおそらく地域差によるだろうこの国は先進国とはいえないほど男女差や都会と地方の差が大きいたとえば Kindle のユーザはほぼ都会にしかいないもしあえてやるとしたら無料配布にあわせて短期間のリスティングだろうただし効果は Facebook 広告より薄そうだ2010 年の時点で時代遅れになっていた金の問題を別にしても学習コストに見合うとは思えない

本の紹介を開放してだれでも書けるようにすることも検討したBuddyPress にはメルマガと SNS のいいとこ取りになる可能性がある著者と読者の交流は販促上有望とされている日本でも村上春樹が期間限定でその試みを行っているしかし彼でさえ著者サイトで恒常的に顧客と交流しているわけではない筒井康隆が三十年前に朝のガスパールで書いたように著者と読者のあいだには隔たりが必要なのだよくも悪くも一方的な関係でなければならないこのサイトが記事にコメント欄すら設けないのはそれが理由だコントロールできない要素は増やしたくないどう考えても他人を招き入れるのは得策ではないまたコンテンツ特性との相性もある広く浅くではなく特定の層に深く刺さる書き方をしているそういう層は埋もれて可視化されない数のなかに身を潜めている彼らの目にとまるにはどうすればいいか効果のあるなしにかかわらずアドワーズのイメージ広告に関心がある実際に試すかどうかはわからない学習コストを考えれば次の小説を書くべきだろうしかし適切に扱われないのを知りながら先に進む気にはなれないもうしばらくは客筋の改善や販促に悩むことになりそうだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。