妄想中年日記

連載第129回: 報せる

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2018.
04.13Fri

報せる

印刷版がまた裏表紙になった。前回はLook Inside! が有効になったのが原因だった。今回は何が原因かわからない。以前の出版でも同じ現象があった。そのタイミングで何かの情報が更新されるのだろう。CreatSpaceはこの現象を把握していない。Look Inside! が原因だと誤った認識をしていて、修正を依頼してもとんちんかんな返事しか返ってこない。Amazon側はもちろん「うちの管轄ではない」と言い張る。CreateSpace側の再出稿によって商品画像が消えることがあり、その場合は著者セントラルから好きな画像をアップロードできる。しかしその手は今回、Look Inside! による不具合のときに使ってしまった。CreateSpace側からの再出稿はすでにさせている。四、五日後には反映されると彼らは主張するが実際にはそうならない。Look Inside! を無効にさせるか、思いきって商品画像を消させるしか打つ手がなさそうだ。ウェブサービスを利用していると客が当たり前に知っているノウハウを運営側が把握しておらず、会話が成立しないことがよくある。やりたいことが明確なら業者をなるべく挟ませず、コントロールできる範囲を増やすのがいい。AmazonとCreateSpaceは現状での必要悪だ。より適した手段が見つかればいつでも乗り換える。

やむを得ず紹介ページのリンク先をKindle版にした。それまで数日おきに発生していた購入が途絶えた。Facebook広告のクリック率は悪くないにもかかわらずだ。ECの常識では画面遷移が少ないほうがコンバージョンするはずだが、自著にかぎっては、逆になるべくまわり道をして商品を知ってもらうほうがいいかもしれない。Kindleストアは客層が致命的に悪すぎるし、そうした客層の価値観に基づいて表示されている。予備知識を得てもらうことなしに直接、売場へ導けば、望ましくない文脈で商品が判断されてしまう。Kindleストアで商品を探す客を遠ざけ、ほんとうの本好きだけを招かねばならない。そのためにはまず読書家に広告をし、人格OverDriveのサイトを見てもらい、本について知ってもらう必要がある。その上であえて印刷版を経由してもらうことで、Kindle版の価格が割安であることを知ってもらう。できればその過程のすべてを愉しんでもらえるようにしたい。この文章もそのための構成要素だ。しかしKOL・KUでは変わらずに読まれているので、Facebook広告のクリックは現状でもコンバージョンしてはいるようだ。広告は趣味としてやっているので元を取ることを考えていないが、少なくとも『悪魔とドライヴ』分は充分に返ってきている。

『悪魔とドライヴ』のFacebook広告は実施してよかった。商品紹介文を改善できた。恋愛小説なのにこれまではアクションが強調されていた。ひとに書いてもらった文章を元にしていて、とても気に入っていたけれども、売るべきものに焦点が当てられていなかった。恋愛を扱った作品として売るべきだとわかっていたはずなのに、実現手段の詰めが甘かった。「どんなひとに読んでもらいたいか」から逆算して売り方を考え、それに基づいて小説を書くのが正しいのかもしれない。たしかに商売のひとたちはそのようなことをよく口にするけれども、彼らの考える「読書」は往々にして、人間の心を単純な装置のように貶めて捉えていて、自分と関わりがあるようには思えなかった。突きつめて考えたとき、ほんとうにやりたいのは商売ではない。売ったり買ったりはあくまで手段でしかない。目的は、ほんとうに追い詰められたひとを励ますことだ。何も持たず、だれもが敵で、自分を不快なよくないもののように見なすしかない、そんな状況にあるひとに対して、ささやかな力になることだ。ソーシャルメディアの同調圧力めいた「絆」ではなく、ひとりの人生を支持する力として、「あなたはひとりではない」とそっと伝えることだ。それが小説であり、作家の、あるいは出版者の仕事であると信じている。

ところが実際には、それと逆をやる本ばかりが店頭に並んでいる。差別や弱い者いじめや、同調圧力や、ずるい立ちまわりを支持する側のほうが圧倒的に数が多く、世の中でうまくやっていて、力もお金もたくさん持っている。商売としてやるならそちらにつくのが当然だ。だからそういう書き手が喜ばれ、そういう本が出版され、「全国の書店員がいまいちばん売りたい本」とポップがつき、平台やランキングや関連書籍やおすすめなど、目につく場所に陳列される。そうでない本は「笑いもの」にされ「淘汰」される。出版の手段が多様化したいま、そういう「多数派」に抗うインディペンデントな出版が出てくるだろうと期待していたのだけれども、実際にはこれまでのありようをより効率化し、先鋭化した動きばかりが突出するようになった。商売としてはそれが「適応」というものだろう。しかし弱者を追い詰めることが正当化されるとき、その欺瞞を受け入れてはならないと個人的には信じている。人格OverDriveは抗う試みだ。


杜 昌彦

(Masahiko Mori, 1975年6月18日 -)著者、出版者。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。