妄想中年日記

連載第128回: 売らない強さ

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2018.
04.10Tue

売らない強さ

人格OverDriveのFacebookページに「いいね」を募る一日100円の広告を出している。長期的な目的のための趣味としては妥当な出費だと思う。一日にひとつから三つは「いいね」を頂いている。「いいね」が多ければ見た目が華やかになるし、第三者によって保証されたかのような印象を演出できる。サイトの閲覧者もいつもより少し増えた。並行して『悪魔とドライヴ』の広告も出している。これは無駄遣いかもしれない。広告はリンク先をサイトにしたりAmazonにしたりしてみている。売るつもりなら画面遷移を減らすべきだが、やりたいのは商売ではない。

『悪魔とドライヴ』は女性に読まれることを意識した本だ。にもかかわらずこれまでは対象の絞り込みが中途半端だった。表紙も暗い写真だったし宣伝文もアクションが強調されていた。男性にしか訴求できていなかった。そこで感情移入しやすい女性キャラクターを描いた魅力的なイラストを表紙にした。赤い色調にしてもらったのはそのほうがコンバージョンしやすいとされているからだ。加えて今回はヒロインの心理に的を絞った宣伝文に変えた。男女すべてを対象とした広告であるにもかかわらず見事に女性ばかりがクリックするようになった。あるいはたまたま女性に何度かクリックされると、その実績がクリックされやすい属性として表示基準に影響するのかもしれない。

十代の女性にインスタ経由でクリックされる傾向がある。おそらく彼らはクレジットカードを持たないだろうし、であればAmazonギフトを登録するしかKindleを読む方法はない。若者に読まれない本は意味がない。無料配布すべきかとも考えたがKUのためにKDPセレクトは必須だ。ePubは読み方が知られていない。印刷版のプレゼント企画をしようにも日本ではギヴアウェイが使えない。全国の図書館に印刷版を寄贈することも夢想した。それだけの財力はないし図書館も受け付けてはくれまい。しかしあくまで夢想するなら、受け付けてくれる図書館を調べて寄贈し、交通手段や利用法をサイトで詳しく説明して、「図書館で『悪魔とドライヴ』を読もう!」キャンペーンを実施するのは愉しいかもしれない。現状は国会図書館に旧名義の本が三冊(『Pの刺激』と『KISSの法則』、それに旧版の『悪魔とドライヴ』)あるだけだ。

だれもが現実逃避したくなる日曜夜から月曜朝にかけて全年齢の女性に反応がよかった。装画の力が大きいが「超いいね」を頂いたおかげでもある。やはり「いいね」は第三者による保証と見なされ、クリックの心理的障壁を取り除くようだ。インスタが強いがFacebookでも反応があった。あいにく定価を250円にしていたせいで売上にはつながらなかった。あわてて99円に戻し、広告のリンク先もAmazonに差し替えたが反応はない。サイトのほうがOGPの画像が大きく、説明文も表示されるのでクリックされやすいようだ。サイト版の広告に戻して継続することにした。Amazon版はせっかく集客できても商品ページの印象で客を逃してしまう。最初の無料キャンペーンにしくじって「この商品を買った人は……」表示が汚染されたからだ。

短期的な成果に焦る必要はない。コントロールできない場所で商品を売ろうとするより、サイトを回遊してもらうほうが遠回りでも目的にかなう。重要なのは自著を売ることではない。読書、ということをまずどうにかしたい。Eストアでは醜いものほどよく売れ、売れたものだけが表示されてそればかり売れる。この国では女性が文化的にガジェットから遠ざけられているし、最近までアーヴィングすらKindle化されていなかった。そのためKindleは偏った客層が売れ方を決める。状況を変えるにはまずいま自分にやれることをやるだけだ。より多くのいい本を読んでサイトのコンテンツを充実させ、回遊性を向上させ、Facebook広告で流入の間口をささやかなりとも広げる。急ぐことはない。金さえ求めなければ何をやろうと自由だ。自分なりの最適解を見出したい。


杜 昌彦

(Masahiko Mori, 1975年6月18日 -)著者、出版者。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。