D.I.Y.出版日誌

連載第125回: ずっと同じじゃいられない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
04.06Fri

ずっと同じじゃいられない

ソーシャルメディア偏重の時代はいつまでつづくのか実際の内容ではなくつながりにおける立ちまわりで本の売れ行きが決まるのはおかしい出版社もマスの広告をあきらめて著者の自助努力に頼るようになったいいものを書く力ではなく世渡りに秀でていることが評価の条件になりソーシャルで成功した実績がなければ取り上げられなくなった

個人が情報を発信するなどといわれながらこの二十年はソーシャルの時代だった今後おそらく三十年以内にほんとうに個人の時代が訪れるだろう個人の趣味嗜好に最適化された情報が気分の変化に応じて提供されるようになるその好みはユーザ間で最適に関連づけられゆるい連帯が網の目のように張り巡らされるあらゆるサービスは好みの相互接続を予測して提供されるだろう好みによって——つまり何を選択するかそのときどきで生じた可能性の総体と実際の選択とによって個人や関係性が規定されるそんな時代が訪れるはずだ

ハローマックを廃業に追い込んだトイザらスは Amazon に駆逐された一世を風靡したタワレコや HMV はまず iTunes にそれから Spotify のような定額制ストリーミングサービスに負けた同様に Amazon があと二十年で何か別のものに取って代わられ没落するだろうことにはほとんど確信を持っているAmazon は当初個人の好みを予測するサジェストによって人気を集めたしかし彼らのサジェストは実際には個人の好みにそれほど寄り添っていない情報の総量が不足している場合にはまるで機能せずAmazon 側の都合をあなたの好みとして一方的に押しつけてくる

日本の読書家の多くはまだ電子書籍に親しんでいないコンテンツ数も印刷版に較べて充分とはいえない結果Kindle のおすすめは Amazon 側の都合で一方的に決められる本ではなくガジェットに親和性のある消費者がたまたま目についた粗悪な商品を買いそのようにして売れたものが優先的に表示され利用者の好みを無視した売れ行きはやがて雪だるま式に膨れ上がる好みに応じて個別の提案をするよりも売れたものを売るほうが効率がいいからだしかしたとえば youtube などは個人の好みに最適化された提案を実現しているいますでに存在する機能が Amazon では充分に提供されていないいずれは飽きられる

Spotify のような定額ストリーミングサービスやGoogle 検索は電気水道ガスのような公共のインフラとして今後も残るだろうGoogle についていえば彼らのサービスのすべてではなく検索のような単純なものだけだGoogle+ など開始当初から失敗を運命づけられていた)。 それによって彼らは見せたいものだけを見せることができ世界における認知の枠組みを管理できるAmazon はドローンを研究したり拠点を増やしたり実店舗をつくってみたりしているようだが物流は手強いウェブ上のパケットのやりとりのようにはいくまいおそらく有望そうな実験にあいついで失敗し革新的かつ本質的な変化は起こせないまま終わるだろう

トイザらスやタワレコも次の一手を考えなかったわけではあるまいパソコンの原型を考案したのはゼロックスだしデジカメを発明したのはコダックだ両社は現在でも存続しているがだからといって Amazon も安泰とはいえないそして E ストア以上に変わりようがないのがソーシャルメディアだあたかも個々人の趣味嗜好を受け入れ同好の士を結びつけるかに見えるが実際にはそのようには機能せずつきあいを強要するものでしかない強要を感じないのはたまたま規定通りの人生に恵まれソーシャルに最適化された好みを持ち得ているからだ

ソーシャルが規定するテンプレートは多様性を排除する同化できなければ疎外され排除されるあるジャーナリストの言葉を借りれば淘汰されるそのような仕組みが繁栄を誇るのは未熟なアルゴリズムがまかり通る時代だけだそれぞれの人生が異なるという当たり前の事実が広く受け入れられそれぞれの違いに寄り添わねばならないそのことに社会的合意がなされ当然と見なされるようになればその真逆を指向するサービスは時代遅れになるそうなれば Amazon もソーシャルメディアもいずれ滅びる変化は遅々としているが着実に近づいている


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。