D.I.Y.出版日誌

連載第114回: 遠くへ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
02.28Wed

遠くへ

嗤われるのがいやなら人目を避けるしかないだれともかかわらずに生きるしかないほんとうは職場で生き恥をさらすのもいやだけれども生きるためには仕方がない書店にはたくさんの本が並んでいるあのなかに自著がならぶ光景は才能や技量のなさを割引いても想像すらできない異質すぎるセルフパブリッシングには短い夢を見たけれども結局はそれもまた場違いだったいずれの場所も健常者のためにある自分の言葉はそぐわない別人にはなれないしまして自分以外のものは変えられないプロの世界にせよ売場にせよコントロールできない物事で悩むのはばかげている

なぜ生きるのか死ぬのが怖ろしいからだ人生から何を奪われたかにこの歳になって気づいた両親の異常なふるまいに台なしにされなければ脳障害が遺伝しなければ当たり前に手にしていたであろう人生を何ひとつ知らぬまま終わるのが怖いどう生きたいのか苦労して這い上がりやっと手にした安定だいまの職にしがみついていたいSpotify と youtube のおかげで音楽を好きなだけ愉しめる本を買う余裕もある仕事ではないのだから一冊を読むのに二ヶ月かけてもいい何かのために読むのではないただそういう人生にしようと思う読んだ本や聴いた音楽の記録をこのサイトに残すそれを拠り所として暮らす映画は読書ほど愉しめなくなった

小説を書くことはまだあきらめていない人生の最終的な目標を書き上げること自体に求めたい成し遂げられなくても構うことはない所詮は心のなかだけの問題だ価値のない人生は空費しても差し支えない生きている以上は何かを残したいそれだけだ向上したい気持さえいまはない。 『悪魔とドライヴ改稿版をどう扱うか考えているいま出ているペイパーバックの中身を差し替えることは可能だしかし前の筆名との関連性は断ちたい書名も変える必要があるほかの本との整合性もあるこれまでに出してきた本をすべて絶版とし新たな ISBN で再出版する装幀も直さねばならないいまの装画を勝手に別な条件では使えないので悩む頼めば許してもらえそうだけれどもそれでは虫がよすぎるようにも思う

極力だれともかかわらず蔑まれることなく穏やかに生きて死にたい身の丈に合った人生を愉しみたいこのウェブサイトをそのための中核にする時間をかけて読書を楽しみ読んだ本を記録するいまの仕事で得た金でその暮らしを成り立たせる若い頃の読書は書くためだったいまはそうではないいずれは引っ越すのだからと書棚を持たなかった今後は心を豊かにするものは所有していい

一日に五人から十人の閲覧があるうち半分は固定読者粗探しに訪れる輩はようやく減った悪意のないひとたちが何を求めて訪れるのかはわからない少なくとも本に関心はないようだ検索経由の一見さんは即座に離脱し二度と戻らない過去に読んだ本は数行のいいかげんな感想しか書かれていないからだ以前は関連本を手動で実現していた手間はかかるが回遊性は確保できたいまは同一著者の一覧しか実現できていないカスタムタクソノミーを付与した記事を関連づけて表示したい付与されていれば新着を五件表示し付与されていなければ表示領域自体を表示しないというふうにしたい。 「特集にアイキャッチを指定できるようにした一覧では呼び出せたが個別のページで取得する方法がわからないもう少し手を入れたら Google や Facebook に広告を出してもいいあるいは趣味はウェブサイト制作ということになるのかもしれないそれでもいい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。