サイトの大規模な改築を進めていました。 表示が大きく崩れている場合は古い CSS がキャッシュに残っているせいですのでブラウザの再読み込みをお試しください。 この文章は管理画面ではなくサイトに実装したブログ執筆機能で書いています。 これまではエディタで書いて管理画面のテキストボックスに貼りつけ、 タイトルから自動生成される URL を修正し、 要約文や OGP を設定し⋯⋯といった手順を踏んでいましたが、 すべてやめました。 手軽さだけを求め、 簡易的な入力画面から設定できないものは無視することに決めました。 今回の改築はそもそもロリポップのサーバがあまりに重く、 「運がよければたまに表示される」 という状態だったので移転を考えたのがきっかけでした。 どうせ移転するなら前から気になっていたところを直そう、 と思い立ち、 手を加えるうちに欲が出ました。
このサイトは七年前、 日本のセルフパブリッシングの歴史とともにはじまりました。 当時はわざわざ既存の出版社による営利活動や、 あるいは自費出版と区別する必要がありました。 インディーズ、 などという言葉を説明に用いたりもしました。 一時期は 「インディーズ作家」 なる単語で検索すると一位に表示されるよう工夫までしていました。 インディではなく和製英語の表記を選んだのはそのほうが通りがいいと踏んでのことです。 七年のあいだに状況は大きく変わりました。 当初は思いきった誇大広告であったインディーズという単語はむしろ手垢がついて時代遅れになりました。 お金がかからないことはセルフパブリッシングの特徴ではなくなり、 アドビやモリサワなどのツールが使われたり、 プロに表紙を依頼したりするのが珍しくなくなりつつあります。 一方でアマチュアの本は親しみを求めて読まれ、 低品質なものほど喜ばれる傾向が当初からあり、 その傾向は衰える気配がありません。 とりわけ Kindle Unlimited 開始以降は、 ストアのアルゴリズムをゲームのようにいかに攻略するかが問われるようになりました。 自費出版詐欺が横行した時代を彷彿とさせる業者も増え、 「セルフパブリッシング」 で Google 検索するとすでにレッドオーシャンであるのが見て取れます。 そのような状況で商業出版物にはセルフパブリッシングを模倣するかのような動きもあります。 単行本を細切れに分売したり、 一巻を無料にして最新刊を宣伝するといったやり方はもはや定着しています。 グレイプスを通じて BCCKS とつながりのある小学館がオンデマンド印刷とおぼしきペイパーバックの叢書をはじめたのもあるいはその流れとも見なせるかもしれません。 サミズダートのごとく言葉に自由を取り戻す手段に思えたセルフパブリッシングは、 評価経済における小遣い稼ぎの手段となり、 少数派に属するひとりひとりの読者へ誠実に向き合っているのは、 むしろ資本にかろうじて余裕の残っている出版社だけのように見えます (実態はどうか知りませんが⋯⋯)。
出版の世界でプロとして働くにせよ、 アマチュアの世界で小遣い稼ぎをするにせよ、 もっとも要求されるのは世渡りの技術です。 しかし誠実に本をつくりつづけるひとたちに共通していえるのは、 いまもむかしも突きつめれば 「本が好き」 というただそれだけなのではないでしょうか。 彼らの向かう先はソーシャルな人脈づくりやアルゴリズムとの格闘ではなく、 むしろそれらに背を向けて、 閉 (綴) じた小さな世界へ孤独に向き合うことではないかと思います。 かつての出版との大きな違いは必ずしも在庫を抱えなくてもよいという点です。 オンデマンド本がそうですし、 電子書籍なら完全に物流の制約から解放されます。 必要なのは本をつくる場やツールとしてのウェブです。 当レーベルは 『悪魔とドライヴ』 でクラウドにおける出版の可能性を追求し、 満足のゆく成果を得ました。 残念ながら社会的、 経済的な成功には至りませんでしたが、 出版とはそもそもが失望とセットの行為であり、 儲けたいなら別の商売を選ぶべきでしょう。 「本をつくる」 というただその一点においては充分でしたし、 この文章でいいたいのはそのことです。 『悪魔とドライヴ』 は Facebook グループ上でブラッシュアップが行われ、 ウェブの技術をもとにした電子書籍と大手ストアのサービスとを利用して配信され、 常時接続を前提とした定額制のアプリケーションで版下が作成され、 大手ストアのサービスを利用して印刷版が刊行されました。 編集を経て印刷され製本された本を大きな店に並べる、 という工程が個人によって完結させられることが実証できたのです。 そうした出版がウェブの技術によって可能となってみると、 それは単に規模の違いでしかなく、 技術さえあれば企業による従来の出版となんら変わりない行為であるとわかります。 このことは 2013 年の時点で実はすでに語られていました。
http://www.ebook2forum.com/2013/04/how-different-is-self-publishing-from-normal-publishing/
当時はまだ実感に乏しかったのですが、 Facebook グループを使った編集と CreateSpace によるペイパーバック刊行の経験から、 アラン・マッギーのクリエイションやジョン・マーティンのブラック・スパロウ・プレスに似たものが立ち現れてくるとしたらこのやり方だと実感しました。 そしてそれを確かなものとして継続的に実行し運用するにはそのためのツールであり場でもあるウェブサイトが必要だと感じるようになりました。 今回のサイト改修はそうした未来を見据えて行いました。 ここには議論の場 (フォーラム) があり、 販促のツール (ランディングページ) があり、 社交能力のある出版者には情報交換の場となり、 自己演出ができる著者にはブランディングの場として活用でき、 そのどちらも持たない出版者には思考を整理するツールとなるアクティヴィティ・ストリーム (twitter や Facebook のようなもの) があります。 フォーラムでは編集作業や校正を行えるでしょうし、 画家や編集者と作家とを結びつける出逢いの場にもなるかもしれません。 実際に公開する予定はありませんが、 今後の出版にはこのような場でありツールでもあるウェブサービスが使われるようになるはずです。 宅録カセットテープにおけるダニエル・ジョンストンのような才能が、 出版においてこうしたサイトから世に出る時代がいつか訪れると信じています。
前回は本文が上にずれて印刷されるとお伝えしましたが、 最初のロットだけの不具合のようでした。 日本の Amazon で注文して十日から二週間ほどで届きます。