D.I.Y.出版日誌

連載第50回: 「家内制出版業」へ向けて

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
06.07Wed

「家内制出版業」へ向けて

サイトの大規模な改築を進めていました表示が大きく崩れている場合は古い CSS がキャッシュに残っているせいですのでブラウザの再読み込みをお試しくださいこの文章は管理画面ではなくサイトに実装したブログ執筆機能で書いていますこれまではエディタで書いて管理画面のテキストボックスに貼りつけタイトルから自動生成される URL を修正し要約文や OGP を設定し⋯⋯といった手順を踏んでいましたがすべてやめました手軽さだけを求め簡易的な入力画面から設定できないものは無視することに決めました今回の改築はそもそもロリポップのサーバがあまりに重く、 「運がよければたまに表示されるという状態だったので移転を考えたのがきっかけでしたどうせ移転するなら前から気になっていたところを直そうと思い立ち手を加えるうちに欲が出ました

このサイトは七年前日本のセルフパブリッシングの歴史とともにはじまりました当時はわざわざ既存の出版社による営利活動やあるいは自費出版と区別する必要がありましたインディーズなどという言葉を説明に用いたりもしました一時期はインディーズ作家なる単語で検索すると一位に表示されるよう工夫までしていましたインディではなく和製英語の表記を選んだのはそのほうが通りがいいと踏んでのことです七年のあいだに状況は大きく変わりました当初は思いきった誇大広告であったインディーズという単語はむしろ手垢がついて時代遅れになりましたお金がかからないことはセルフパブリッシングの特徴ではなくなりアドビやモリサワなどのツールが使われたりプロに表紙を依頼したりするのが珍しくなくなりつつあります一方でアマチュアの本は親しみを求めて読まれ低品質なものほど喜ばれる傾向が当初からありその傾向は衰える気配がありませんとりわけ Kindle Unlimited 開始以降はストアのアルゴリズムをゲームのようにいかに攻略するかが問われるようになりました自費出版詐欺が横行した時代を彷彿とさせる業者も増え、 「セルフパブリッシングで Google 検索するとすでにレッドオーシャンであるのが見て取れますそのような状況で商業出版物にはセルフパブリッシングを模倣するかのような動きもあります単行本を細切れに分売したり一巻を無料にして最新刊を宣伝するといったやり方はもはや定着していますグレイプスを通じて BCCKS とつながりのある小学館がオンデマンド印刷とおぼしきペイパーバックの叢書をはじめたのもあるいはその流れとも見なせるかもしれませんサミズダートのごとく言葉に自由を取り戻す手段に思えたセルフパブリッシングは評価経済における小遣い稼ぎの手段となり少数派に属するひとりひとりの読者へ誠実に向き合っているのはむしろ資本にかろうじて余裕の残っている出版社だけのように見えます実態はどうか知りませんが⋯⋯)。

出版の世界でプロとして働くにせよアマチュアの世界で小遣い稼ぎをするにせよもっとも要求されるのは世渡りの技術ですしかし誠実に本をつくりつづけるひとたちに共通していえるのはいまもむかしも突きつめれば本が好きというただそれだけなのではないでしょうか彼らの向かう先はソーシャルな人脈づくりやアルゴリズムとの格闘ではなくむしろそれらに背を向けてじた小さな世界へ孤独に向き合うことではないかと思いますかつての出版との大きな違いは必ずしも在庫を抱えなくてもよいという点ですオンデマンド本がそうですし電子書籍なら完全に物流の制約から解放されます必要なのは本をつくる場やツールとしてのウェブです当レーベルは悪魔とドライヴでクラウドにおける出版の可能性を追求し満足のゆく成果を得ました残念ながら社会的経済的な成功には至りませんでしたが出版とはそもそもが失望とセットの行為であり儲けたいなら別の商売を選ぶべきでしょう。 「本をつくるというただその一点においては充分でしたしこの文章でいいたいのはそのことです。 『悪魔とドライヴは Facebook グループ上でブラッシュアップが行われウェブの技術をもとにした電子書籍と大手ストアのサービスとを利用して配信され常時接続を前提とした定額制のアプリケーションで版下が作成され大手ストアのサービスを利用して印刷版が刊行されました編集を経て印刷され製本された本を大きな店に並べるという工程が個人によって完結させられることが実証できたのですそうした出版がウェブの技術によって可能となってみるとそれは単に規模の違いでしかなく技術さえあれば企業による従来の出版となんら変わりない行為であるとわかりますこのことは 2013 年の時点で実はすでに語られていました

http://www.ebook2forum.com/2013/04/how-different-is-self-publishing-from-normal-publishing/

当時はまだ実感に乏しかったのですがFacebook グループを使った編集と CreateSpace によるペイパーバック刊行の経験からアラン・マッギーのクリエイションやジョン・マーティンのブラック・スパロウ・プレスに似たものが立ち現れてくるとしたらこのやり方だと実感しましたそしてそれを確かなものとして継続的に実行し運用するにはそのためのツールであり場でもあるウェブサイトが必要だと感じるようになりました今回のサイト改修はそうした未来を見据えて行いましたここには議論の場フォーラムがあり販促のツールランディングページがあり社交能力のある出版者には情報交換の場となり自己演出ができる著者にはブランディングの場として活用できそのどちらも持たない出版者には思考を整理するツールとなるアクティヴィティ・ストリームtwitter や Facebook のようなものがありますフォーラムでは編集作業や校正を行えるでしょうし画家や編集者と作家とを結びつける出逢いの場にもなるかもしれません実際に公開する予定はありませんが今後の出版にはこのような場でありツールでもあるウェブサービスが使われるようになるはずです宅録カセットテープにおけるダニエル・ジョンストンのような才能が出版においてこうしたサイトから世に出る時代がいつか訪れると信じています

前回は本文が上にずれて印刷されるとお伝えしましたが最初のロットだけの不具合のようでした日本の Amazon で注文して十日から二週間ほどで届きます


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。