オープン・シティ
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オープン・シティ

マンハッタンを日ごと彷徨する、若き精神科医。彼が街路で目にした風景は、屈託に満ちたナイジェリアでの幼い日々、ブリュッセルで移民たちに聞いた苦難の物語と共鳴しながら、時代や場所を超えた大きな物語を描き始める――。PEN/ヘミングウェイ賞ほか数々の賞に輝き「ゼーバルトの再来」と讃えられたデビュー長篇。

新潮社, Kindle版 289頁
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著者:テジュ・コール

(1975年6月27日 - )2011年『オープン・シティ』でPEN/へミングウェイ賞およびローゼンタール賞を受賞、全米批評家協会賞の最終候補。写真家、美術批評家としても活躍中。

テジュ・コールの本
2017.
09.24Sun

オープン・シティ

ハードボイルド小説から物語と謎を抜いたかのような、都市と記憶の描写が延々つづく小説。退屈な話のはずなのに、文章に魅力があってつい読まされる。どこまで読んでも主題らしきものが見えず、主人公も何がしたいのか、どこを目指しているのかさっぱりわからない。冒頭の弁解のように、散策しているのだといわれたらそれまでなのだが、たとえば祖母を探しに出かけたのかと思ったら、別にそういうわけでもなく、無意味に観光だけして帰ってくる。このままの調子で終わるのかと思いきや、終盤で唐突に主人公の性犯罪歴が明かされる。都合が悪くなった彼はまったく無関係なインテリ臭いうんちくを語りだす、それまでずっとそうしてきたように。まるで予兆のようなオヤジ狩り被害のエピソードの直後に、この大きな転調が訪れる。詩情のように思わされてきたものが突如として禍々しい欺瞞だったかのように思えてくる。主人公はアフリカ系米国人としての社会的文脈に従うよう求められることにひたすら困惑しつづけていて、その違和感への執拗なこだわりがそれまでは都市の描写やら歴史の記憶やら、ルーツやら何やらの話であったかのように装われてきたのだけれども、実は社会的文脈を理解できないサイコパス特有の感じ方であったかのようにさえ思えてくる。精神科医という職業も何かそのことに関連しているのかとまで疑いたくなる。そうして結局この小説が何をいいたかったのか、何を描いているのかはわからないままだ。まるでサイコパスの内面のように。このような読み方を意図して書かれたのかといえば、どうもそうではないような気がする。こういう人物がこんな内面を生きている。それをただ写真のように記録した話なのだ。終盤で唐突に犯罪の話が出てくるあたりも含めてニコルソン・ベイカー『中二階』を連想した。インテリ臭いが、そのままには受け取れない奇妙な本。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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