D.I.Y.出版日誌

連載第178回: 書くことはそこにいないこと

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
03.03Sun

書くことはそこにいないこと

ウェブサイトに手を入れたOGP はプラグインを使わずに設定しているこれまではヘッダに直接 PHP を書いていたカテゴリとタグの OGP を出す方法もわからなかった苦心惨憺してどうにか解決しついでに functions.php に記述を移したいや解決したというのはいいすぎだったカテゴリは指定した画像と要約文ではなく最新記事の画像と要約文が表示されるタグは要約文はなぜか出るが画像はやはり最新記事のものだ実用上機能して見えるだけで本当に正しく機能しているのか大いに怪しいそれでもウェブサイト全体で共通の OGP しか出せなかったこれまでと較べれば大きな進歩だ強迫神経症のようにプラグインを避けたがるひともいるようだがおれはこだわらない使えるものはなんでも使うただし望む用途にピンポイントで対応しているプラグインは少ない無駄な機能が多すぎて使いものにならなかったりするなのでやむをえずぐぐりまくって PHP をコピペしたり闇雲に改変したりして試行錯誤するはめになるAjax のちょっといいメールフォームの作例を見つけたのでコピペした以前はプラグインでやっていたが重すぎた届くメールも詐欺師ならまだいい部類でストーカーやら脅迫者やらばかりだったサイトは日に十人も閲覧すればいいほうだし本だって売れたためしがないなのになぜ悪意ばかりが列をなして押し寄せるのかこの無名人をいじめるとおもしろいぞというリストが悪人たちのあいだで回覧されているのかもしれないそうなるとわかっていてなぜメールフォームを再掲したかといえば単にやってみたかったからだウェブで見つけた作例を試したかったああいった記事を書いて無償で公開している方々を尊敬するなかにはよそからコピペしてきたものを小遣い稼ぎのために並べている輩もいるようだがそういうのは見ればわかるしかしインターネットではおそらくそのほうがわかりやすいと喜ばれて実際に小遣い稼ぎになったりするのだろうどうも現代の社会には馴染めない音楽にしても本にしても古いもののほうが性にあう最近は 60 年代のストーンズばかり聴いているより正確にいえば MONO BOX だ15 枚組を朝起きて仕事に出る支度をしながら聴き出勤中に聴き帰宅中に聴き寝る前に聴いている他人に知られたら危ないやつだと思われるくらい本当にそればかり聴いているなぜこんなことになったのかきっかけは Beatles のホワイトアルバムだあの不自然にドーピングされたような醜いリマスター盤には悪い意味で驚かされたCG で肉体をムキムキマッチョマンにすげ替えられた四人が見えるような気がした同時期に発売されたベガーズバンケットのリマスターは対照的にすごくよくてなんだこれとずっと気になっていたボブ・ラドウィッグという技師の仕事だったこのひとがリマスターした MONO BOX を Spotify で見つけて聴いたらすごくかっこいい音だったこれまで親しんだ 92 年の廉価版とは大違いだその廉価版だってけっして悪くはない2009 年のリマスター盤に較べたらそのリマスター盤を Spotify で試しに聴いてみたらくだんのホワイトアルバムと同傾向の音だったあんな音ではじめて出逢ったら好きにはならなかった考えてみればジャズがかっこいいのはルディ・ヴァン・ゲルダーの音がかっこいいのであって音楽とはそういうものなのかもしれない幸いジャズは RVG が死ぬ前にリマスター音源を残してくれたので Spotify でも愉しめるジャズの音はヴァイナルからストリーミングにひとりの偏屈爺さんの偉業のおかげで引き継がれたわけだロックはどうもそうならないらしいMONO BOX はデッカ時代まで彼らが自主レーベルを興してからの作品はストリーミングでは新しいリマスターのしかない試しにちょっと聴いてみたら現ブルーノート社長がリマスターしたやつは 2009 年のやつよりほんの少しだけましだったでもやっぱり CG でつくられたムキムキマッチョマンが不自然な笑顔で筋肉を照り光らせて演奏している94 年のヴァージン・レーベルから出た盤はボブ・ラドウィッグがリマスターしているらしいおれのなかではもはや神のような名前となったのでそれを聴いてみたいデジタル化されればコンテンツ文化は永遠に継承されるのかと思っていたどうもそうはならないらしい権利者が望めばもしかしたらという程度だしかも権利者がたまたまそのときそういう気分だったかたちでのみ遺されるそれは本来の作品のありようとはかけ離れている少なくとも自分が生きているあいだだけは好きな作品を好きなように楽しみたいそのためにはたとえば 94 年の CD を中古屋で発掘するしかないわけだが残念ながら CD や DVD の寿命は二十年から三十年といわれているポリカーボネートが加水分解したり不充分なアルミ蒸着の隙間に水分が入ってかびたりするらしいつまり 94 年のボブ・ラドウィッグの仕事を味わうにはいましかないいま購入してリッピングすればしばらくは楽しめるはずだそれも権利者の都合でデコーダの利用が禁じられるまでの話でそうなりそうになったらまた別の形式に変換して寿命を延ばすしかないまったくなんて世の中だろう子どもの頃は読みたかった本はいつか大人になって金に余裕ができれば読めるものだと思っていた子どもの頃に読みたかった本はもうこの世に存在しない運がよければ図書館に保管されているがそれも収蔵能力との相談になるだれも借りなければどんなに価値のある本でも処分される評価の定まった古典でさえそうなのだ新しい傑作が読まれるわけがないだれも読まなければその本は消えてなくなる遺したければ読んで広めろおれはそうしているだから本のつながりなんて機能をサイトに実装しているわけだ。 『ぼっちの帝国のつづきだってそうだ読んで広めれば書かれるかもしれないだれも読まなければあれきりで終わるかもしれない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。