Y.田中 崖

部屋 - Rooms

病室、キッチン、浴室、子ども部屋、玄関、茶室、温室、書斎、トイレ、隣室、ダイニング、室内プール、手術室、応接室、中国語の部屋、美容室、視聴覚室、図書室、喫煙室、ウォークインクローゼット(押し入れ)、廊下、階段、踊り場、音楽室、控室、管理人室、地下牢……幻想の部屋へようこそ! ひとたび足を踏み入れたら出られない、気鋭の作家が語る無限の回廊。

第1話: 序/どこでもない場所

 まず正方形の白い床を用意する。隅に白いレンガを積んで壁を作ろう。床を壁でぐるっと四角く囲むんだ。でもこれだとなかに入れないね。レンガをいくつか抜いて扉をつけよう。正方形の白い屋根を載せて完成だ。  今日からここが君の居 […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖

第2話: 血を洗う/玄関

 ストーブがぴーぴーと耳障りな音を立てた。灯油が切れたらしい。 「あたし入れるよ」  妹の千代子がテレビに釘付けのままで言う。画面のなかでは、岩場で女性が自らの罪を告白していた。俺が「まあええわ。炬燵入っとればそんな寒く […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖

第3話: 逆流/トイレ

 帰宅。靴を脱ぎ捨て鞄を放る。そういえば午後は忙しくて一度も行ってなかった。建てつけの悪いドアを開けて滑りこむ。力任せにノブを引っぱったら、ぎゃっと叫び声をあげて閉まった。  ふたを上げてジーパンを下ろし、柔らかいカバー […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖

第4話: しき/浴室

 彼女は浴室が好きだった。僕らは水を張っていない浴槽に潜りこんで、服を着たまま抱き合った。彼女の首筋は土の匂いがした。ぴったりくっついてその匂いを嗅いでいると、幼い頃を思い出して安心した。  茹だるような蒸し暑い日が続い […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖

第5話: サイレン/キッチン

 低く太い笛の音で目覚めた。  下着姿だった。脱ぎ捨てたままのジーンズは湿り気を帯びていて、足を通すと腿がひやりとした。見覚えのない家具。壁紙の染みが藻のようだ。誰の家に泊まったんだったか。  半開きのドアの向こう、薄暗 […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖

第6話: いないいない/寝室

 終電に揺られ最寄り駅で下車する。徒歩二十分の条件で選んだアパートまで、実質三十分かかる。玄関のドアに到達する頃には午前一時を回ってしまう。真新しい家の建ち並ぶ住宅街の一角、すべてが耳をひそめるなかで鍵をさしこんで回す。 […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖

第7話: そこにいる/ダイニング

 学校帰りのバイトを終え、暗い道を自転車で走る。路肩に止まった黒い乗用車のそばを通り過ぎようとすると、エンジンがかかり、低速で後ろをついてくる。遠回りして何度も角を曲がる。コンビニに入り、何も買わずに出る。車はいない。自 […]

Avatar photo書いた人: Y.田中 崖