Y.田中 崖
部屋 - Rooms
第1話: 序/どこでもない場所
まず正方形の白い床を用意する。隅に白いレンガを積んで壁を作ろう。床を壁でぐるっと四角く囲むんだ。でもこれだとなかに入れないね。レンガをいくつか抜いて扉をつけよう。正方形の白い屋根を載せて完成だ。 今日からここが君の居 […]
第2話: 血を洗う/玄関
ストーブがぴーぴーと耳障りな音を立てた。灯油が切れたらしい。 「あたし入れるよ」 妹の千代子がテレビに釘付けのままで言う。画面のなかでは、岩場で女性が自らの罪を告白していた。俺が「まあええわ。炬燵入っとればそんな寒く […]
第3話: 逆流/トイレ
帰宅。靴を脱ぎ捨て鞄を放る。そういえば午後は忙しくて一度も行ってなかった。建てつけの悪いドアを開けて滑りこむ。力任せにノブを引っぱったら、ぎゃっと叫び声をあげて閉まった。 ふたを上げてジーパンを下ろし、柔らかいカバー […]
第4話: しき/浴室
彼女は浴室が好きだった。僕らは水を張っていない浴槽に潜りこんで、服を着たまま抱き合った。彼女の首筋は土の匂いがした。ぴったりくっついてその匂いを嗅いでいると、幼い頃を思い出して安心した。 茹だるような蒸し暑い日が続い […]
第5話: サイレン/キッチン
低く太い笛の音で目覚めた。 下着姿だった。脱ぎ捨てたままのジーンズは湿り気を帯びていて、足を通すと腿がひやりとした。見覚えのない家具。壁紙の染みが藻のようだ。誰の家に泊まったんだったか。 半開きのドアの向こう、薄暗 […]
第6話: いないいない/寝室
終電に揺られ最寄り駅で下車する。徒歩二十分の条件で選んだアパートまで、実質三十分かかる。玄関のドアに到達する頃には午前一時を回ってしまう。真新しい家の建ち並ぶ住宅街の一角、すべてが耳をひそめるなかで鍵をさしこんで回す。 […]
第7話: そこにいる/ダイニング
学校帰りのバイトを終え、暗い道を自転車で走る。路肩に止まった黒い乗用車のそばを通り過ぎようとすると、エンジンがかかり、低速で後ろをついてくる。遠回りして何度も角を曲がる。コンビニに入り、何も買わずに出る。車はいない。自 […]