杜 昌彦
Pの刺激
第11話: 過去の亡霊
「PUNKだ」 「確かに頭は破裂寸前すけど」 「このビラだよ」郁夫は紙片をびらびら、と振ってみせた。ポルノまがいの描写が書き連ねてある。「この子の祖父さんが書いた話の一部なんだ。上から何も知らされてないのか」 「先輩」丸 […]
第12話: 「悪夢潜り」の悪夢
炎は渦を巻いて弾け、逆流する瀧のように天井を焦がし、舐めるように這い拡がった。黒い毒気を吐いて火の粉を胞子のごとく撒き散らした。四方八方から壁のように迫り、頭を庇う郁夫の両腕に降りかかった。刺激臭のある煙が体内へ侵入しよ […]
第13話: 家捜し
若様は立ち止まって郁夫に向き直った。揺らぐ熱気と逆光で表情は見えない。 「羅門の言葉に近づくな、郁夫」 「何すかそれ。どういう意味だよ」 「人々の認知は遷移しつつある。青葉市は湧出点となった。おまえの手に負える事態ではな […]
第14話: 『妄想老人日記』
「羅門生之介さん行方不明 深夜、埠頭で高波に呑まれる」 今朝午前二時過ぎ、『街で最凶の美女』『洟垂れ! 少年時代』などの著作で知られる作家、羅門生之介さん(72)が青葉埠頭で大型バイクを運転中、高波に呑まれて消息を絶っ […]
第15話: 特務班との対決
椎奈が失踪したおかげで郁夫は堂々と事務所に寝泊まりできるようになった。とはいえ手をこまねいていたわけではない。彼女の親は金持ちだ。無事に連れ戻せば金を請求できる。写真機材屋へ赴くと若い男が陳列棚にハタキをかけていた。すぐ […]
第16話: 再会
「若様……」 「警告したはずだ。手を煩わすな」 薄暗い大食堂で若き教祖は月のように浮かび上がって見えた。青ざめた膚と白い司祭服のせいだ。歳月が声も風貌も変えていた。薄い眉、ナイフで切り込んだかのような鋭い眼。病的に骨ば […]
第17話: 失踪者発見
炎は渦を巻いて弾け、逆流する瀧のように樹々を焦がし、茂みを舐めるように這い拡がった。黒い毒気を吐いて火の粉を胞子のごとく撒き散らした。四方八方から壁のように迫り、頭を庇う郁夫の両腕に降りかかった。郁夫はむせて涙を流した。 […]
第18話: 『妄想老人日記』その2
青葉大学付属図書館所蔵。未発表作品。『妄想老人日記』最終回の草稿か。B5コピー用紙にレーザープリンタで印字。二十字×二十行。左下に通し番号が付されている。冒頭六枚、中間三枚の計九枚が散逸。保存状態は悪く、原稿のすべてに丸 […]
第19話: 開かれた扉
三人組が侵入したのは、私家版をちょうど読み終えたときだった。椎奈は大音量でデスメタルを聴いていた。二階へ上がってくる足音は聞こえなかった。PDFでの議論にざっと眼を通し、私家版のひとつを「了」まで読んだとき気配を感じた。 […]