杜 昌彦

Pの刺激

呪われた言葉が世界を染める。アヴァンポップな黙示録! 州辻郁夫、24歳。カルト集団自殺事件の生き残り。街は謎の断片群「PCz」に覆われていた。噂では13年前に失踪した無頼派、羅門生之助が作者だという。その孫の家出少女に振りまわされ、渦中へ巻きこまれる郁夫。大量の断片群に刻まれた魔術的想像力は、やがて現実を侵食しはじめ……。硬質な文体で描くダークファンタジー。(2005年作)

第1話: プロローグ 「悪夢潜り」の誕生

これは世界の終わり の物語が書かれた本 を読み耽る傴僂《せむし》の猿 を閉じ込めている檻 の建つ荒れ果てた丘 が見下ろす小さな街 を覆い尽くす黒い霧 が呼ぶ世界の終わり の物語が書かれた本 ――羅門生之介『PUNK』   […]

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第2話: 怪しい依頼人

州|辻郁夫《すつじいくお》はイグアナに似ていた。眠たげな眼は下瞼があるかに見える。背中の火傷痕は鱗を思わせた。小学校以来、誰もが彼を「いっ君」と呼ぶ。呼ばないのは親友の母親、瑠璃子くらいだ。だらしなく伸びた髪に襟のたるん […]

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第3話: 元天才作家の憂鬱

羅|門椎奈《らもんしいな》は十四にして消費された。ウォーホルのいう十五分間を使い果たしたのだ。  茶川賞を最年少受賞。華々しい文壇デビューで日本中の話題を席巻した。週刊誌のグラビアを飾りワイドショーに取り上げられる。受賞 […]

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第4話: 家出少女の救出

どんな仕事にもお定まりの手順はある。家出少女捜しには刻文町から手をつけるのが定石だ。青葉市一の歓楽街。キャッチとぼったくり、ヤクザと風俗の街だ。駄洒落の店名と毒々しい電飾、アイドルの集合写真を無断転用したパネル、脂っこい […]

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第5話: 負け犬の過去

「あ痛て……」編集者は顔をしかめ、吾朗の椅子で身じろぎした。「お手柔らかに頼みますよ、瑠璃子さん」 「大の男がガタガタいわない。ちょっと染みたくらいで」瑠璃子はアルコール綿で編集者の傷口を消毒した。右手にピンセット、左手 […]

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第6話: 禊ぎを前に

築半世紀にはなろうかという、木造モルタルの四畳半アパート。ジャージに裸足の男たちが、ささくれた黄色い畳に車座になり、陰鬱な顔を突き合わせていた。  独特の臭いが籠もった室内。ボロ布と化したダークスーツが三着、漆喰壁の鴨居 […]

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第7話: 探偵ごっこ

原色のネオンに騒々しい音楽。仕事帰りの人々に付きまとう客引き。埃っぽい排気ガスとラードの臭い。潰れた飲食店と入れ替わりに風俗店が増殖し、中央資本も入り込んで老舗を移転や廃業へ追い込み、この街ができあがった。ただでさえ狭い […]

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第8話: 悪夢潜り

赤黒いトンネルには掃除機のような唸りが脈打っていた。郁夫はそこから白黒世界へ抜け出た。隣に横たわる少女の丸くて広い額から、どす黒い煙の糸が立ちのぼっていた。  郁夫の魂は肉体から遊離した。浮上する気泡のように筋を辿って上 […]

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第9話: 大立て者の脅迫

郁夫と大男に挟まれて椎奈は腕組みをしていた。ドレスは皺になってはいたが乾いている。男たちを待たせて三十分もシャワーを浴び、念入りにドライヤーとブラシを当てた。郁夫はといえば髪は寝癖がついたまま、顔には乱闘の痕跡に加え、疲 […]

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第10話: ビラ撒きの犯人

その用心棒はクローンではなかった。ヘッドハントされるまでは髪を金色に染め、ヴィジュアル系バンドでドラムを叩いていた。新入りにギタリストの座を奪われたのだ。この見てくれでは仕方ない。広い肩幅、分厚い胸板。顔はオルメカの巨石 […]

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