杜 昌彦

崖っぷちマロの冒険

僕は世界の忘れられた子。照らし出しては殲滅する——放課後に呼び出された11歳の僕が見たものは、中指を立てて木に縛りつけられたお嬢の屍体だった! 杜昌彦、25歳(当時)の自伝的習作。

第1話: お嬢にさよならをいう方法

廊下で見かけたとき、寺井玲子はまだ生きていた。  五年生の全教室が帰りの会を終えていた。行き交う生徒のなかを、裾の長い菫色のワンピースが近づいてきた。  他人なんだ。意識しないよう自分にいい聞かせた。図に乗って家庭の事情 […]

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第2話: 血の収穫

「死んだ? 何が」  職員室で教務主任の山本をつかまえた。席が戸口に近かったからだ。耳元に小声で打ち明けた。うまいやり方とはいえなかった。彼は事務作業を中断し、振り向いた。 「体育館の裏? 寺井玲子がどうしたって?」   […]

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第3話: おじけ

愛される子供は説かれるまでもなく知っている。そうでない子供は自力で学ぶしかない。生命の価値とはそういうものだ。  パキ教頭は全校生徒に、「悲しいお知らせ」を告げた。「思いがけない事故で亡くなったお友達」について語った。少 […]

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第4話: 裁かれるのは僕だ

植田次子はいつもシャンプーの使いすぎに思えた。銀杏の臭いに紛れて、近づかれたのに気づかなかった。  僕は走り去る高級車を見つめていた。幻覚でも見ていた気分だった。銀杏ロードが見慣れぬ景色に思えた。黄色にただれた道は、種を […]

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第5話: 探偵は二度呼び鈴を鳴らす

「ここにあったの」  クロゼットのハンガーには、高価そうなお洒落着が並んでいた。算数セットの上に靴箱が積まれていた。さらにブーツが二足。画用紙の筒には、平仮名の名前が鉛筆で記されていた。  級友らの脅迫が脳裏をかすめた。 […]

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第6話: たったひとりの死にざま

校門をめざす子供の群。黒と赤の弾む鞄。騒がしい声。小さな靴に踏み固められる、黄色い堆積物。  僕が登校の列に加わると、男子たちは顔をこわばらせた。女子たちは白い眼で囁きあった。いきなり泣きだす下級生もいた。朝はお勤めで忙 […]

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第7話: ミスリードの蘭

翌日、仁美は欠席した。体調を崩したので休ませる、と家族から連絡があった。ブラジルはそう説明した。  彼女の家族について知る者は少なかった。教団との関わりを知るのは僕だけのはずだ。父親の帰還の報せは、学校には伝わったろう。 […]

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第8話: 影なき子供

神の息子を生け贄の山羊として扱う。それは確かに変わったカルトだった。教団内には、僕が何者か知らない信者さえいた。父上と同様の狂人に生まれつけば、事情はまた違ったかもしれない。僕は勘違いしたまま育ち、犯罪者になっていたろう […]

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第9話: さらば苦き口づけ

後任者が来るまで、教頭が担任を務めたのは憶えている。同級生が訃報にどう反応したか。生活の変化にクラスがどう適応したか。そうしたことがまるで思い出せない。教団での暮らしも同じだ。身内と部外者とでは、死の意味が異なるはずなの […]

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