
CLOUD 9
by: 杜 昌彦
第11話 : Cloudburst(2)
翌朝は九日だった。疲労困憊して泥のように眠りこけた僕は、聞き憶えのあるふたりの声で目を醒ました。別々の世界に属していて同時に聞こえるはずのない声は階下から聞こえてきた。緊迫した調子でやりあっていたかと思うと次の瞬間には […]
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第12話 : Cloudburst(3)
しかし一九六〇年一二月九日の夕方にそんな途方もない幻覚ハルシネーションはひとつも話題に出なかった。甘ったるい酒で口の軽くなった僕は独り言のように喋りつづけた。Mはあの間の抜けた顔で肯き、相槌を打ち、先を促したり僕のいわ […]
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第13話 : Over the Rainbow(1)
同級生から母のことを持ち出されて、死んだよとだけ告げたように、なんにも知らない脳天気な連中にSがどうしているか問われて、脳出血で死んだよ、とだけ答えた僕の脳裏には、かけがえのない親友の頭を力任せにこっぴどく殴りつけた場 […]
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第14話 : Over the Rainbow(2)
前年末に地元での成功のきっかけになったリザーランド市民講堂で、ちょっとした余興が地獄のような惨事を招いたのはその五日後だ。Pが僕ら四人の名前を刺繍した赤サテンのハートを上着につけ、プレスリーの映画主題歌「さらばふるさと […]
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第15話 : Over the Rainbow(3)
日増しに悪化する頭痛や眩暈に苦しみながら、Sは絵だけは休まず描きつづけ、六月には返済不要の毎月百マルクの奨学金を得て、ハンブルク美術大学に編入した。時を同じくしてザ・Bには先輩歌手の伴奏役として録音する機会が訪れた。ド […]
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第16話 : Devil’s Haircut(1)
幸福とはそのさなかにあっては気づけないものだ。何年もあとになって僕は、友人のように親しいファンだけに囲まれて演奏していた「洞窟」時代を懐かしむようになる。あれがザ・Bの歴史でもっとも幸せな時代だった。落ち着きのなさをた […]
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第17話 : Devil’s Haircut(2)
帰国の翌日、一五キロ北への遠征のために、モナBが六五ポンドの割賦で買ったカマー製ヴァンで迎えに来たNは(未成年のかれは車庫の契約を結べなかった)、まずメンディップスで僕の髪型に眉をひそめた。ついでフォースリン通り二〇番 […]
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第18話 : Devil’s Haircut(3)
まさにこの瞬間からBEの精神と前途は、間抜けな笑みの東洋人と黒革上下の強面ロッカー、ふたりの男に引き裂かれることになる。恩知らずの僕らがとうに見限っていたマネージャから(おれみたいに痛い目を見たくなきゃしっかり契約を交 […]
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第19話 : Peppermint Twist(1)
昼前にようやくはじまった録音は休憩を挟んで午後にまでずれ込んだ。幅十メートル、奥行六・四メートルで窓がなく、同じ階に調整室があるこの録音所では、爆音は無用の長物だった。かといって音量を下げると「棺桶」は雑音を発するばか […]
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第20話 : Peppermint Twist(2)
Sは頭痛と眩暈に苦しみながらも、寸暇を惜しんで情熱的な色をひたすら画布に叩きつけ、ナイフで切りつけ、粘土をこねてキャメラをまわし、僕に負けじと長文の手紙を書き送った。わずかなりとも治療費の足しにすべく、楽器を借りて地元 […]












