
血と言葉
by: 杜 昌彦
第11話 : 手製の銃(3)
「海堂と姦《や》ってるってマジ?」教室へ入るなり男子生徒が叫んだ。仲間の数名が声を上げて笑った。女子の多くは好奇心を押し殺した薄笑いだった。男子の思慮のなさに呆れたようにも、手を汚さずに済んで安堵したようにも見えた。 「 […]
第12話 : 手製の銃(4)
奥の薄暗い席。背中の窓越しに厨房が見えた。炎の柱が上がり、料理人が広東語で叫び合う。ウィスキーのグラスとピースを手にした田崎が暗い面持ちで何事か考え込んでいた。顔を上げて笑顔になった。 用心棒が凰馬のグラスになみなみと […]
第13話 : 女たち(1)
新垣は以前からずっと辻凰馬が疎ましかった。教師とは思えない猫背、眼鏡の奥の何を考えているかわからない目。汚らしい縮毛はつねに床屋へ行くべき時期を過ぎている。一挙手一投足が不快で、意思疎通さえ困難に感じた。生理的に許しがた […]
第14話 : 女たち(2)
ちありは三日間の停学が決まった。凰馬と新垣はお咎めなし。文化横丁へ向かいながら凰馬は本部長と電話で話し合い、ちありを当分のあいだ家に帰すことで合意した。ちありは自室に閉じこもって出てこないという。いずれ様子を見に行きます […]
第15話 : 女たち(3)
原稿は敗戦後の闇市を舞台にした推理ものだった。空襲で行方不明になった女を追う探偵が、子どもを狙った連続猟奇殺人に巻き込まれる。やがて戦時中の悲恋との繋がりが見出され、意外な真相が……という筋だ。Ωのカウンター席で新垣は読 […]
第16話 : 女たち(4)
「警察だ。いるのはわかってるんだ!」扉は執拗に叩かれた。新垣を帰そうと説得していた凰馬は、溜息をついて階下へ降りた。近所迷惑な冗談だ。鍵を外して扉を開けた。本部長の部下ふたり組だった。喋るほうが薄笑いを浮かべ、迎えに来て […]
第17話 : 洗脳(1)
「その格好で行くつもりですか」絵梨子はジャージ姿の同僚をまじまじと見つめた。 「ええ仕事ですから。やだなぁ青山先生、プライベートならお洒落しますよ」 言葉とは裏腹に独身の体育教師は明らかに浮かれていた。デートか何かと錯 […]
第18話 : 洗脳(2)
職員室に固定電話は一本しかない。朝はどの教職員も余裕がなく、欠席の連絡は往々にして担任へ取り次がれる前に忘れられる。この情報化社会に時代錯誤も甚だしいと教職員のだれもが苦々しく思っていた。 コミュニケーションアプリの活 […]
第19話 : 洗脳(3)
昼休み。教室の一隅に男子生徒が五、六名集まって盛り上がっていた。話題は休学がつづいているちありの陰口だった。机に腰かけた男子が大声で話し、仲間がニヤニヤ笑いながら合いの手を入れる。非難がましく見る者や聞こえないふりをする […]
第20話 : 洗脳(4)
「よくある承認欲求だろ。リスカ痕の自撮りでチヤホヤされるタイプ。お気に入りや拡散がほしくて実況やって、しまいには本当に死んじまうんだ」赤ら顔の営業担当が酒臭い息を吐きかけながら水瀬の肩を叩いた。「しっかりしろよアラフォー […]