イシュマエル・ノヴォーク
バラクーダ・スカイ
第1話: 星条旗
インペリアル・ビーチに違法駐車されたトレーラー・ハウスの天井を虹色スペクトルの紫煙が漂う。ジェイクはマリファナを口にくわえたまま、ヤシやパイナップルがプリントされた半袖のシャツを脱いで床に放った。窓辺から垂れ下がるラジオ […]
第2話: テキサス人
厚く、広い胸をしたクウォーターホースから降りたエミールは背丈ほどの樹木に手綱を結んだ。樹木は落雷にあったのだろう、幹は所々が黒ずんでおり、再生した樹皮は古傷を覆い隠そうとしている。エミールが指笛を吹くと、繁みから同僚の […]
第3話: 保釈保証書不要につき
ハーフパンツにゴルフウェア姿の男が街路樹の幹に手を置いた。男はペインティングナイフで厚塗りされたような樹皮を爪で引っ掻き、髪色と異なるつけ髭を撫でた。片足を上げた男は焦げ茶色をした革靴の靴底を見る。視線を上に逸らして、 […]
第4話: バロース社製電動タイプ前にて
崖の上に建つ、ビーチを一望できる豪邸。大きなガラス窓は開け放たれ、潮風に揺られたカーテンがひらめく。毎晩の乱痴気騒ぎ、カフェイン、アンフェタミン、コカイン、惰性のセックス。夜毎漂う享楽の粒子は暖炉の上に飾られたゴールド・ […]
第5話: アスク・ミー・ナウ
初めて会った日のことはよく覚えている。イースト・ヴィレッジの二番街にあるカフェだ。彼はウェイトレスが運んできたコーヒーカップを真剣な眼差しで見ていた。隣のカフェは昼間から演奏しており、バスドラムの低音の衝撃が壁越しに伝 […]
第6話: ユートピアを求めて
一四歳になったばかりのアビゲイル・ヘルダーリンにとって、すべては退屈で馬鹿げたもののように感じられる。彼女の人生が大きく変わったのは英国のケイソープに本部を置く人口上位二パーセントの知能指数を有する者たちの交流を主目的 […]
第7話: ヴェクサシオン
七五号線、エミールはサウス・サンディエゴの手前でハンドルを切ってピックアップトラックを停止させた。エミールは白いカウボーイハットを脱ぎ、助手席に置いた制帽をかぶってつばを撫でた。自動車を降りたエミールは季節外れのアカシ […]
第8話: フィジカル
トラウトマンが四方をヤシに囲まれたデューンズ・パークの隣にあるフェイ・ラングーンの事務所の前にやって来たのは一七時丁度だった。薄桃色の背広にギリシア神話の神がプリントされたシャツ、ライトカラーのサングラス姿のトラウトマ […]
第9話: バロース社製電動タイプ前にて ~テイクⅡ
ブラインドサックスの名手、フリーランチは害虫駆除剤で脳漿旅行の真っ只中。ヘドロとカドミウムの上澄みに首まで浸かったフリーランチが九生地区にあるゴミ溜めアパートで目を覚ましたのは午前一時。空より高いHCTIB放送局がサイ […]
第10話: ジェリーとルーシー
海岸線をひた走る黄色のフォード・ランチェロの助手席ではダッシュボードに両足をのせたルーシーが長いブロンドの髪を掻き上げ、大きな欠伸をした。ルーシーは素肌の上に羽織っただけのレザージャケットのポケットからコカインを吸引す […]