いやーおもしろかった! 獅子文六は女性を書くのがほんとうにうまい。 いつもふしぎなのだけれど時代の空気をだれよりも巧みに取り入れながらもどこか距離をおいて眺めているような、 超越した感じがある。 時代のモラルから当然のように自由ではないのに、 同時にそんなことはどうでもいいと思っているかのような自由さ。 平然と矛盾するのだ。 この小説の舞台や登場人物たちにしたって、 恋愛すら罪悪として咎め立てられるような価値観を正義としながらも、 その正義を説く教師たち自身がどう考えても、 当時のあるべき女性像とは思えない。 ごくあたりまえの、 等身大の、 現代のわれわれとおなじような生身の女たちなのだ。 印象的なふたりの教え子にしても、 あの時代にああいう視点でもって書けるとは、 そして当時のふつうのひとびとに共感をもって読ませてしまうとは、 どういうことなんだろう。 『坊ちゃん』 のやりすぎなくらいのオマージュというか、 古典のコード進行を借りて現代的な超絶技巧のプレイを聴かされてしまうというか。 看板、 の話はなるほどなぁと唸った。 屋号や筆名をどうしようかと悩んでいたところだったからね。 やっかいなひとたちに絡まれて筆名は泥まみれになってしまったけれど、 書くこと自体をやめたからそれは別にかまわない。 屋号はこのままにしようと腹を決めた。 十年これでやってきたからね。 信用も何もないけれど血も汗も想い出も染みついてるわけだ。 あとこの本にしても元ネタの 『坊ちゃん』 にしても西部劇のプロットなんだよね。 型破りな主人公がある土地を訪れてそこの腐敗と闘って去っていく。 そういう意味では 『坊ちゃん』 も 『信子』 もハメットの 『赤い収穫』 と似ている。 宇垣さん、 というのがどういう人物か知らなかったので調べて、 評価を知り、 なるほどと唸った。 うまいね。
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読んだ人:杜 昌彦
(2017年08月31日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『信子』の次にはこれを読め!