現代の出版はストアのアルゴリズムを利用するゲームになりつつあります。 反射的なクリックを誘発する画面表示で得点を稼ぐゲームです。 世渡りの技術もまた現実社会のアルゴリズムを利用したゲームであり、 画面表示と組み合わせたハックによってプレイヤーは高得点を得ます。 セルフパブリッシングは実情としてその効率を先鋭化したものにすぎず、 ゲームの素養と技術が要求されます。 それは読書の本質である孤独や 「自分自身であること」 とは相容れません。 作品ではなく 「つながり」 「絆」 が求められる時代に、 出版レーベルとして何ができるでしょうか。
当レーベルは 「ひらかれたつながり」 よりは閉 (綴) じた孤独をめざします。 ebook よりも (扱いが不便なモノであるという点で) 印刷物に適しているようにも思えますが商業出版の論理とは相容れません。 リトルプレスや ZINE は作家性や、 胸をえぐるような重み、 痛みといったものよりは、 都会の美しい若者がカフェで眺めるお洒落な雑貨にふさわしい。 オンデマンド出版も日本ではやはり同人的な交流の証か、 ソーシャルのつながりで消費されるお洒落雑貨の位置づけのように見えます。
Amazon の出版サービスは日本では一部の機能しか使えません。 埋め込みビューワ Kindle instant previews も、 印刷版の出版機能 (正確には連携サービス CreateSpace の一部) も日本語には対応していません。 そこでほかのサプライヤーを利用することになりますが、 残念ながらどの業者も一長一短です。 インプレスの POD サービス NextPublishing は 「お金を払って業者に任せる」 サービスである印象を受けました。 また CreateSpace と異なり ISBN 付与に別途料金を要します (追記:別途料金を支払っても自分の出版社名は使えません)。 ISBN を簡便に利用できるのが売りの MyISBN には魅力を感じませんでした。
BCCKS は表現力豊かなオーサリング機能が売りで、 epub と印刷版をほぼ同時に作成できます (版下 PDF のダウンロードや転用は不可)。 しかしながら作成した印刷版は、 e 託販売サービスや密林社を使うか、 自力で取扱先を開拓するなどしないかぎり、 集客力のない BCCKS 内でしか販売できません。 また埋め込みビューワには設定方法の解説がありません。 PHP や JavaScript の知識が要求されるためサポート対象外だそうです。 ビューワが機能する twitter からの集客を想定しているのでしょう。 ここでもやはり閉 (綴) じた作品ではなく 「ひらかれたつながり」、 対社会的なゲームの技術が求められます。 答えは出ません。