D.I.Y.出版日誌

連載第46回: 『悪魔とドライヴ』印刷版を正式リリースします

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
05.03Wed

『悪魔とドライヴ』印刷版を正式リリースします

試験的に出した旧版とは異なり日本の ISBN を取得して InDesign で版下をつくりなおしましたCreateSpace では PDF を逆順にすることで右綴じの本もつくれます参考:InDesign から逆丁 PDF を書き出す)。 バーコードは表紙の版下を PDF で提出し裏表紙にバーコード用の空白を含めることで正しく配置されますただし彼らが挿入するバーコードは日本のものとは形状が異なり価格を示すバーコードが ISBN バーコードの右に並びます価格が円相場で変動するため定価ではなく価格 1000 円と表記したのですがそれとは別に価格表記がついてしまう日本で通用するか微妙な仕上がりになりましたまた裏表紙ではなく本来の表紙を商品画像とするようサポートに頼む必要があります英語ができないので珍妙なメールを送りました。 「あなたのいいたいことを理解しましたと迅速に対応してくれました末尾に添えられたI hope you have a great day ahead!との文言に日本のサービスに勝ち目はないなと感じ入りました本来英語にしか対応していないはずのサービスでさえ日本語という極めてローカルな個別事情にこれほど寄り添ってくれるのですから

単に ePub やオンデマンド本を作成するだけなら BCCKS のほうが優れていますただし CreateSpace と違って折の制約で決まったページ数しか選べないそれはただモノを作成するサービスでしかありません一方 CreateSpace や KDP Print ではひとたび出版すれば全世界の Amazon や eBayその他さまざまなストアに並びます本当かどうかわかりませんが図書館にまで納本すると謳われていますCreateSpace が提供する無料 ISBN を利用した場合)。 このように流通までデザインしたサービスは日本では実現不可能でしょう商売として実現するだけの旨味が何もない電子書籍であれば画面表示とクリック率のゲームでしかないのにひきかえ印刷版を読者のもとへ届けるとなれば物流網を構築する必要があり労力もコストも制度上の障壁も大きく異なりますヘルプやランディングページこそ奇妙なほど整備されつつありますがおそらく KDP Print も CreateSpace も日本には来ないでしょうこの予言が覆される日が一刻も早く訪れるのを夢みています)。 サポートに問い合わせるとco.jp でも com でも印刷版は出さないでください」 「POD を使いたければ出版社を通してくださいと回答されました

BCCKS と同じで CreateSpace に集客力はありません旧版の販売履歴を見ると欧州の Amazon 経由で売れています米国では Amazon ではなく eBay のような外部業者で一冊装画のくみた柑さんは海外で評価されていますが主に米国での人気なのでそこから読まれたわけでもなさそうですおそらく最初のだれかが買ったことにより関連書籍として表示され欧州在住の日本人に少しずつ読まれているのでしょう米国に口座を開設するまでは小切手しか受取手段がなく換金には 5000 円もかかるのでこれまでの利益は受け取れていませんKDP Print が日本に来ることの最大のメリットは商品配送時間の短縮に加えて報酬受取が日本の口座に一本化されることです海外送金の受取は新生銀行で試しましたが swift のみでは受け付けてもらえませんでした三菱東京 UFJ 銀行カリフォルニアアカウント・プログラムを利用するしかないようですオンデマンド本は一般的な印刷本よりどうしても割高になります旧版は海外でしか売れていません今回も大差ないでしょうから価格を抑えるためにも最低価格にしました直接 CreateSpace から購入されたらわずかな利益が生じますが日本の Amazon で売れても一銭にもなりません

また日本の Amazon は集客力こそ巨大であるものの機械的なアルゴリズムに終始してキュレーションが機能しておらずあてになりません問題は自動化ではなく精度の低さです)。 とりわけ独立出版物は埋もれさせられるか低品質のアマチュア作品と関連づけられやすく客筋のマッチングに深刻な不具合があるのが現状ですこの問題に対しては同じ Amazon でも本家と co.jp とで認識にかなりのひらきがあるようですB&N は書店を減らしアマゾンは増やすという EBOOK2.0 Magazine の記事によれば米 Amazon の実店舗では店舗ごとのオペレーションの自由度おそらく地域・消費者に最適化)」 を高め独立系小書店の復活現象に注目するといった動きがあるそうですアルゴリズムによるランキングをそのまま面陳しただけという話も耳にしましたどちらが正しい情報なのかはわかりません)。 しかしながら co.jp では精度の低いアルゴリズムに依存するばかりでむしろ大衆消費社会の幻想から脱却しきれていないかに見えます思うに人材が足りなすぎるのでしょう本来やれるはずのさまざまなサービスを日本では機能限定版でしかリリースできないのもローカライズ以前に人的資源が障壁になっているのではないかと思われます

自分のサイトで売る方法を考えています調べたかぎりで現実的な方法として海外で行われているのは注文と支払いは自サイトWordPress と PayPalで受け著者割引価格で CreateSpace で購入して届け先を客の住所に設定するというものでしたなるほどそれなら実現可能です印税のために海外口座を設ける必要もありませんその方法なら BCCKS でもやれるんじゃないかとも一瞬考えました配送に二週間かかる海外のサービスをわざわざ利用する必要はないんじゃないかしかし最小限の作業フローで理想に近いものを実現するなら BCCKS は選択肢から外れます実際の購入には直販を利用してもらうにしてもAmazon に商品が並んでいることは信用を得るのにも役立ちます現実的な解決法としては Amazon インスタントストアでしょう電子版と異なり印刷版ならインスタントストアで扱えます流通に手数料を取られるので利益は目減りしますしそれ以前に利益を受けとる海外口座を開設しなければなりませんが直販を実現できるのは大きなメリットです

本を置いてくれるリアル店舗を募集しようかとも考えています最初の数冊は見本として無料で著者から店へ進呈というか頼み込んで置いてもらいその数冊が捌けたら次からは実費のみこちらがもらうもしくは店がオンラインで注文して転売するのでもいい。 「価格」 (定価ではないを 1000 円と記載したので 100 円くらいは店の取り分になるはずCreateSpace から買ってもらえればこちらにもわずかながら利益が生じます実行するかどうかは別として電子版ではできなかったさまざまな展開が考えられます名刺代わりに配ることができるのも印刷版の利点です

日本の Amazon にはまだ印刷版が表示されていません引き上げたはずの旧版は外部業者が値上げしていますこれもまたアルゴリズム至上主義の弊害です


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。