試験的に出した旧版とは異なり、 日本の ISBN を取得して InDesign で版下をつくりなおしました。 CreateSpace では PDF を逆順にすることで右綴じの本もつくれます (参考: 「InDesign から逆丁 PDF を書き出す」 )。 バーコードは表紙の版下を PDF で提出し、 裏表紙にバーコード用の空白を含めることで正しく配置されます。 ただし彼らが挿入するバーコードは日本のものとは形状が異なり、 価格を示すバーコードが ISBN バーコードの右に並びます。 価格が円相場で変動するため、 定価ではなく価格 1000 円と表記したのですが、 それとは別に価格表記がついてしまう。 日本で通用するか微妙な仕上がりになりました。 また裏表紙ではなく本来の表紙を商品画像とするようサポートに頼む必要があります。 英語ができないので珍妙なメールを送りました。 「あなたのいいたいことを理解しました」 と迅速に対応してくれました。 末尾に添えられた 「I hope you have a great day ahead!」 との文言に、 日本のサービスに勝ち目はないな、 と感じ入りました。 本来英語にしか対応していないはずのサービスでさえ、 日本語という極めてローカルな個別事情にこれほど寄り添ってくれるのですから。
単に ePub やオンデマンド本を作成するだけなら BCCKS のほうが優れています (ただし CreateSpace と違って折の制約で決まったページ数しか選べない) が、 それはただモノを作成するサービスでしかありません。 一方 CreateSpace や KDP Print ではひとたび出版すれば全世界の Amazon や eBay、 その他さまざまなストアに並びます。 本当かどうかわかりませんが図書館にまで納本すると謳われています (CreateSpace が提供する無料 ISBN を利用した場合)。 このように流通までデザインしたサービスは日本では実現不可能でしょう。 商売として実現するだけの旨味が何もない。 電子書籍であれば画面表示とクリック率のゲームでしかないのにひきかえ、 印刷版を読者のもとへ届けるとなれば物流網を構築する必要があり、 労力もコストも制度上の障壁も大きく異なります。 ヘルプやランディングページこそ奇妙なほど整備されつつありますが、 おそらく KDP Print も CreateSpace も日本には来ないでしょう (この予言が覆される日が一刻も早く訪れるのを夢みています)。 サポートに問い合わせると 「co.jp でも com でも印刷版は出さないでください」 「POD を使いたければ出版社を通してください」 と回答されました。
BCCKS と同じで CreateSpace に集客力はありません。 旧版の販売履歴を見ると欧州の Amazon 経由で売れています。 米国では Amazon ではなく eBay のような外部業者で一冊。 装画のくみた柑さんは海外で評価されていますが、 主に米国での人気なのでそこから読まれたわけでもなさそうです。 おそらく最初のだれかが買ったことにより関連書籍として表示され、 欧州在住の日本人に少しずつ読まれているのでしょう。 米国に口座を開設するまでは小切手しか受取手段がなく、 換金には 5000 円もかかるのでこれまでの利益は受け取れていません。 KDP Print が日本に来ることの最大のメリットは商品配送時間の短縮に加えて、 報酬受取が日本の口座に一本化されることです。 海外送金の受取は新生銀行で試しましたが swift のみでは受け付けてもらえませんでした。 三菱東京 UFJ 銀行カリフォルニアアカウント・プログラムを利用するしかないようです。 オンデマンド本は一般的な印刷本よりどうしても割高になります。 旧版は海外でしか売れていません。 今回も大差ないでしょうから価格を抑えるためにも最低価格にしました。 直接 CreateSpace から購入されたらわずかな利益が生じますが、 日本の Amazon で売れても一銭にもなりません。
また日本の Amazon は集客力こそ巨大であるものの、 機械的なアルゴリズムに終始してキュレーションが機能しておらず、 あてになりません (問題は自動化ではなく精度の低さです)。 とりわけ独立出版物は埋もれさせられるか、 低品質のアマチュア作品と関連づけられやすく、 客筋のマッチングに深刻な不具合があるのが現状です。 この問題に対しては同じ Amazon でも本家と co.jp とで認識にかなりのひらきがあるようです。 「B&N は書店を減らし、 アマゾンは増やす」 という EBOOK2.0 Magazine の記事によれば、 米 Amazon の実店舗では 「店舗ごとのオペレーションの自由度 (おそらく地域・消費者に最適化)」 を高め 「独立系小書店の復活現象に注目」 するといった動きがあるそうです (アルゴリズムによるランキングをそのまま面陳しただけという話も耳にしました。 どちらが正しい情報なのかはわかりません)。 しかしながら co.jp では精度の低いアルゴリズムに依存するばかりで、 むしろ 「大衆消費社会の幻想」 から脱却しきれていないかに見えます。 思うに人材が足りなすぎるのでしょう。 本来やれるはずのさまざまなサービスを日本では機能限定版でしかリリースできないのも、 ローカライズ以前に人的資源が障壁になっているのではないかと思われます。
自分のサイトで売る方法を考えています。 調べたかぎりで現実的な方法として海外で行われているのは、 注文と支払いは自サイト (WordPress と PayPal) で受け、 著者割引価格で CreateSpace で購入して、 届け先を客の住所に設定するというものでした。 なるほどそれなら実現可能です。 印税のために海外口座を設ける必要もありません。 その方法なら BCCKS でもやれるんじゃないか、 とも一瞬考えました。 配送に二週間かかる海外のサービスをわざわざ利用する必要はないんじゃないか。 しかし最小限の作業フローで理想に近いものを実現するなら BCCKS は選択肢から外れます。 実際の購入には直販を利用してもらうにしても、 Amazon に商品が並んでいることは信用を得るのにも役立ちます。 現実的な解決法としては Amazon インスタントストアでしょう。 電子版と異なり、 印刷版ならインスタントストアで扱えます。 流通に手数料を取られるので利益は目減りしますし、 それ以前に利益を受けとる海外口座を開設しなければなりませんが、 直販を実現できるのは大きなメリットです。
本を置いてくれるリアル店舗を募集しようかとも考えています。 最初の数冊は見本として無料で著者から店へ進呈、 というか頼み込んで置いてもらい、 その数冊が捌けたら次からは実費のみこちらがもらう。 もしくは店がオンラインで注文して転売するのでもいい。 「価格」 (定価ではない) を 1000 円と記載したので 100 円くらいは店の取り分になるはず。 CreateSpace から買ってもらえればこちらにもわずかながら利益が生じます。 実行するかどうかは別として、 電子版ではできなかったさまざまな展開が考えられます。 名刺代わりに配ることができるのも印刷版の利点です。
日本の Amazon にはまだ印刷版が表示されていません。 引き上げたはずの旧版は外部業者が値上げしています。 これもまたアルゴリズム至上主義の弊害です。