編集者を殺せ
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編集者を殺せ

探偵ネロ・ウルフを、事故死した娘は実は殺されたのではないかと考える父親が訪ねてきた。娘は出版社に勤める編集者で、亡くなった晩は原稿の採用を断わったアーチャーなる作家と会う約束をしていたという。ウルフはこのアーチャーという名前に聞き覚えがあった。先日、弁護士事務所で起きた殺人事件にも同じ名が登場したのだ。ウルフに命じられて二つの事件を調べるアーチーの目前でさらなる殺人が!アーチーは一計を案じ、関係者の女性たちにウルフ秘蔵の蘭とディナーを贈るが…美食家探偵が苦虫を噛み潰しつつ、狡知な殺人鬼と対決する。


¥1,540
早川書房 2005年, 新書 238頁
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女性に愛嬌をふりまくアーチー、精彩を欠くウルフ

読んだ人:杜 昌彦

編集者を殺せ

五作くらいしか読んでいないにわか読者のおれでさえ、 「いつもの面々に再会すると笑みがこぼれるまともな家庭に育ったひとはきっと実家に帰ったらこんな感じがするのだろう蘭と美食を愛するでぶでひきこもりの偏屈な名探偵と若くて有能ないけめん助手ブロマンスとも読めるしエラリー・クイーン父子みたいにも読める多くの作品では女性が異性愛への敵視とセットで語られがちで男同士でつるんで遊んでいたほうが百倍いいやみたいな子どもじみた憎まれ口をアーチーがしばしば口にするかと思えばオールド・ボーイズ・ネットワークを揶揄し唾棄するかのような書き方がされていたりもする本作はその点さらに様子がおかしい翻訳が新しいせいもあるかもしれないけれど女性たちが主要キャラクターに負けないくらい妙に活き活きと感じられるほんの脇役であってさえもひとりひとりが汗をかき呼吸をしているかのようだふだん人嫌い女嫌いのネロ・ウルフにしても男たちのために下働きをさせられている女たちに明らかに共感を寄せている節があるもとより熱血漢のアーチーに至ってはいささか感情的に突っ走る捜査よりも女たちへのもてなしに精魂を傾けそして彼女らの人間的魅力を困惑しながらも苦笑いで肯定する本作アーチーがおばちゃんたちにきゃーきゃーいわれるだけの話といっていいそれ以外はどうでもいい正直あんまりおもしろくないいけめん助手の活躍に較べると肝心の親方はどうも精彩を欠くふだんは何も考えていないふりをして弟子のはるか先を行っているのに今回は実際にたいして推理もしていないいつにも増して怠惰で息子に実務を任せて引退した老人みたいな雰囲気だ結末の見せ場だけはまだ任せられないとばかりちゃんといいとこ見せてくれるけれど全体を通して事件にあんまり関心がないかにさえ見える本作でいちばん驚かされたのは、 「いつもの面々いつもの展開を楽しむ口実でしかないはずの殺人がちゃんと血の通ったあるいは血の流れたものとして描かれている点だ被害者遺族が紙人形でない当たり前のようでいてこれは案外むずかしいものだ通俗ハードボイルドが茶化されているのにはクスッとさせられた

(2023年05月14日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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レックス・スタウト
1886年12月1日 - 1975年10月27日

米国の推理作家。1934年『毒蛇』を発表。探偵ネロ・ウルフと助手アーチー・グッドウィンが活躍するシリーズを精力的に執筆した。ノンシリーズ作品も警察関係者などウルフ物と共通する要素が散見される。アメリカ探偵作家クラブの会長を務めたことがある。

レックス・スタウトの本

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