ひさびさにいい小説を読めた。 中編小説の切れ味はあえて踏み込まずに瞬間を切りとって見せることにあるのかもしれない。 その一瞬からすべてを読者に悟らせるような。 その意味でニヴン氏の造形と描き方はすごくよかった。 エセルと対比する配置にもなっている。 そう考えると相手の男がどんな人物なのかよくわからないのは掘り下げなかったのではなく見せ方なのかもしれない。 死に向かう人間が何をどう考えているかなどくだくだと描くものではない。 他家の使用人に手をつけるという遊びだったはずの関係が案外本気の苦しみになったのではないか、 あのふるまいは死に化粧のようなものだったのではないかと推察させるにとどめるのが中編の鋭さだ。 男が死んで女はしたたかに生きつづけるあたりいかにも男性作家による恋愛小説だなと思う。 中編はやはり短い長編でも長い短編でもなく独自の佇まいがある形式だ。 十代において自分を形づくったのは中編だと思うし書くならやはり中編の鋭さが好みだ。 しかしそうではあっても長編の豊かさがこの作家の本領であるのもまた事実。 未訳の長編をもっと読ませてほしい。
ASIN: 4105901451
マザリング・サンデー
by: グレアム・スウィフト
あの秘密の裏道を通って、わたしは本当の人生を漕ぎはじめる。一九二四年春、メイドに許された年に一度の里帰りの日曜日(マザリング・サンデー)に、ジェーンは生涯忘れられない悦びと喪失を味わう。孤児院で育ち、帰る家のない彼女は、自転車を漕いで屋敷を離れ、秘密の恋人に逢い、書斎で好きなだけ本を眺める。そこに悲報が――。のちに著名な小説家となった彼女の、人生を一変させた美しき日をブッカー賞作家が熟練の筆で描く。 2017年 ホーソーンデン賞受賞作
¥2,145
新潮社 2018年, 単行本(ソフトカバー) 176頁
特集: 道ならぬ恋
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読んだ人:杜 昌彦
(2018年10月12日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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