D.I.Y.出版日誌

連載第31回: 疎外された恋のはなし

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
02.05Sun

疎外された恋のはなし

去年は鬱で一年を無駄にしてしまったので今年の後半は何か書くつもりでいます恋愛小説の技術を身につけたいのですが若く美しい男女の話に興味はありません社会から疎外された男女について書きたいと考えていますしかし年齢を大人に設定すると通常はそれなりの金や地位のある世慣れた男女のいわゆる大人の恋のようになるのが普通でしょうしそんなものは読みたくない登場人物はあくまで社会から疎外されて孤独でいなければなりませんかといってあまり愚直にそれをやると読むのがつらくなります

ちょっといま考えているのはこんな話です幼い姉妹が公園で遊んでいる姉が妹を滑り台から突き飛ばす通常なら滑り落ちるだけの軽い悪戯のはずだったところが妹はいつものようには滑り落ちない縄跳びの縄が手摺にひっかかり宙づりのようになって窒息する幼い姉は動けなくなる偶然通りかかった高校生が蘇生を試みるきみのせいじゃないと幼い姉にいうその言葉が記憶に刻まれる大人たちが彼らを見て騒ぐ通報される妹は助からないそればかりか高校生は幼女を暴行したと誤解される姉が証言しないので妹の死は高校生の暴力によるものとされる事件がふたりの人生をまるで違ったものにする姉は罪の意識を抱えて育つ進学校の優等生だった高校生は幼児性愛の殺人者とされてその後の人生を生きる数十年後にふたりは再会するかかわることが否応なしに互いの損なわれた人生やその原因となった死と向き合うことになるその先は考えていません

それとは別に不安定な生活をしながらずるずると老いてしまった男女の話を書きたいような気もします正しいとされる人生を生きられるひとなんてごく一握りだと思いますそういうリアリティのない恋愛を読まされてもピンとこないので正しい人生を生きる若く美しい男女ではなくどこにいて何をしてもどうにも認められないような種類の老いた男女が社会的にはなんの価値もないだれにも理解されない気持を通い合わせるほうがなんとなく現実味があるような気がしますそもそもひとがだれかを大切に思うことそのものが美しい嘘ですそれを信じられる絵空事を生きられるのは小説だけです少なくともわたしやもしかしたらあなたにとっても

何を書くことになるかまだわかりませんいずれにせよその物語は淘汰される側のひとの営みを扱うことになるでしょう


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。