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ロリータ 魅惑者
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ロリータ 魅惑者

読み直すたびに新たな発見がある20世紀文学に聳える最高傑作の完全版。少女への倒錯した愛を描く恋愛小説であり、壮大なロード・ノベルであり、ポストモダン小説の先駆でもある。数々の謎を孕み多様な読み解きを可能とするナボコフの代表作「ロリータ」。ロシア語版との異同の注釈を付したその増補版に、少女愛モチーフの原型となった中編「魅惑者」を併録。ナボコフ・コレクション全5巻完結!

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都合よく読むなよ

読んだ人:杜 昌彦

ロリータ 魅惑者

30 年ぶりに読み返したこんな小説だったとは読めてなかっただろうなとは思っていたけれど予想以上同じ本について他人と話が噛み合わないことがよくあるけれど、 「読めないってこういうことなんだと過去の自分を通じて改めて理解したナボコフは変質者の心理を描くのが異常にうまいただ真実味があるだけではない歪んだ認知の一人称で語っていながらそれを通じて読者にその向こう側にある本来の現実を伝えることのできる文体なのだ読み返すまでは子どもへの性暴力を正当化する側から書かれたかのように誤解し、 「にもかかわらず傑作であることに居心地の悪さをおぼえていた実際はそうではなかった加害者の自己愛や欺瞞被害者の絶望と無力感そういったものが冷徹に記述されていた虫のいい認知の歪みも含めて何もかも客観的で正確な描写だった被害者がわずかな自由を舞台上の架空の生に見出そうとして周囲からも才能を期待されたのに加害者によって無残に踏みにじられ諦めさせられて人生に何も期待できないことを思い知らされるくだりは若い日の経験と重なって他人事とは思えなかった大人の女性に相手にされない変質者がその揺り戻しとして容易に蹂躙することのできる子どもへの執着を募らせる流れが何度もくりかえされる興味深いのは結末に至るくだりが明確に加害者の妄想として処理されていた点だこれはロシア語版との比較が注釈として付されていたおかげで愚鈍なわたしにもわかった日付によって明示されるばかりか念押しのごとく夢の中という言葉がくりかえされるただしどこで逮捕され鑑定用の精神病棟に入れられたのかどこから幻想なのか明確な境目はわたしにはわからなかった)。 結末では加害者がこれは現実にはありえないことだが被害者の人生を踏みにじった罪の重みを自覚するそういう意味では勧善懲悪に近いプロットにもなっている被害者が惨めな人生を惨めなまま終えるのでだれも救われはしないが。 『郵便配達は二度ベルを鳴らすの出版は 1934 年数年後の映画化と同時期に、 『ロリータの原型となった魅惑者が書かれている直接の関係はないにせよ流行としてはそのような時代だったナボコフが通俗ノワールのプロットを手管として意識したりそのような文脈で読まれたりした部分は少なからずあったのではないか。 「ある査読者の意見のいう短くて強烈にリアリスティックな文体というのはケインのような文体をほのめかしているそしてナボコフもそのことを理解しおもしろがっているように思われた通俗的なノワールや異常者向けポルノからプロットを借用しそうしたジャンル小説の娯楽性も手管として成立させておきながらそれを用いてこのように豊かな傑作を書いた小説ではこのようなこともできるのだと改めて感心し昨年の映画ジョーカーはやはりナボコフ的な物語だったと思い返した短編魅惑者はそれほど感心しなかったプロットには起伏がないし技巧もそれほどではない登場人物もロリータほど活き活きしては感じられず文体にも言葉遊びの渦に引きずり込まれるような魅力はない習作とまではいわないが将来の跳躍のための技術的な試行錯誤のひとつといった印象だった内容的にはノワールよりホラーに近くプロットの単純さゆえ醜悪さはより際立って感じられた異常者の心理を探究するその踏段があったからこそ執筆の一年前に報じられた醜悪な事件との化学反応で真の傑作が生まれたのだと思う自己愛的な変質者によって人生が踏みにじられる寓話をいま読むのは人権を憎む為政者らによって生命と暮らしが脅かされる昨今あるいは適切なタイミングだったのかもしれない

(2020年04月24日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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ウラジーミル・ナボコフ
1899年4月22日 - 1977年7月2日

帝政ロシアで生まれ、欧州と米国で活動した作家・詩人。米国文学史上では亡命文学の代表格の一人。自作の翻訳も手がけ、大小を問わず改作を多く行ったのみならず、その過程で新たに生まれた作品も存在する。

ウラジーミル・ナボコフの本