「信頼できない語り手」 の傑作。 熱心に追いかけていたつもりはなかったけれど完結したときは感慨深かった。 四年間。 どうやら作中でもそのくらいの時間が経過したらしく上京したばかりの心細そうな女の子がほとんど大人の女性になっていた。 最終回が発表されたときに読み返したら意外にも読み落としはなく、 どの話も印象が鮮やかに残っていた。 一話分が追加された単行本を読み終えた。 計三度読んだことになる。 発達障害の中年男性であるおれには本当のところはわかりようもないけれど、 否応なしに重ねていかなければならないステージが女性の人生にはあるらしく、 どうしたらいいかだれにも教わらないままひとりでそれらの場面を切り抜けていかなければならない、 そういう成長を部屋の置物たちはもの言わず (実際には騒ぎ立てているのだが彼女には聞こえない) 見守っている。 過去のしがらみを放り出して自由に生きているらしい隣のお姉さんも、 じつはこっそりその視線を共有している、 おそらく彼女にもそんな時期があったのだ。 主人公はそのように見守られ励まされ、 ときに疲れはてて氷の触手に脅かされたりもしながら、 ひとりの女性として強く成長していく。 そういう話だとはじめて気づかされたのは中盤の、 幼馴染みの親友からもらった貯金箱が割れてしまう場面だ。 そのときまでほんわかしたファンタジーを読んでいるつもりでいたからその視点の残酷な鋭さ、 冷ややかさに驚かされた。 でもその時点でさえまだおれはわかっていなかった、 彼女は彼女でしたたかに自分の人生をつかみはじめていたのだ。 しまいこまれていたオーナメントが部屋に戻されたとき、 彼女は親友の結婚式に自分の将来、 それも近い将来を重ねている。 お隣さんが旅立っても彼女はもうひとりではない。 すでに部屋の外に自分の世界を持っている。 けれども贈られた新参者より置物たちのほうが自分を理解してくれていることを、 彼女はきっと理解しているのだ。
2019.
01.23Wed
(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。