きゅーのつれづれ
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きゅーのつれづれ

アヒルのオーナメントであるきゅーちゃんの独言。小さなアパートの一室で起こる、住人や訪問者たちとの出来事をつづります。

(Kindle版: 2018-06-23)
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著者:戸田 鳥

学生時代より児童文学を学ぶ。長い休みをはさみつつ創作を続け、2014年より、Webサイト「note」にて作品を公開。代表作に『きゅーのつれづれ』『手品師の弟子』『にんぎょばなし』など。2019年現在『鳥の国のはなし』を連載中。愛読書はダイアン・セッターフィールド『13番目の物語』、谷崎潤一郎『細雪』。好きな作家は小林信彦、庄野英二、イタロ・カルヴィーノ。

戸田 鳥の本
2019.
01.23Wed

きゅーのつれづれ

「信頼できない語り手」の傑作。熱心に追いかけていたつもりはなかったけれど完結したときは感慨深かった。四年間。どうやら作中でもそのくらいの時間が経過したらしく上京したばかりの心細そうな女の子がほとんど大人の女性になっていた。最終回が発表されたときに読み返したら意外にも読み落としはなく、どの話も印象が鮮やかに残っていた。一話分が追加された単行本を読み終えた。計三度読んだことになる。発達障害の中年男性であるおれには本当のところはわかりようもないけれど、否応なしに重ねていかなければならないステージが女性の人生にはあるらしく、どうしたらいいかだれにも教わらないままひとりでそれらの場面を切り抜けていかなければならない、そういう成長を部屋の置物たちはもの言わず(実際には騒ぎ立てているのだが彼女には聞こえない)見守っている。過去のしがらみを放り出して自由に生きているらしい隣のお姉さんも、じつはこっそりその視線を共有している、おそらく彼女にもそんな時期があったのだ。主人公はそのように見守られ励まされ、ときに疲れはてて氷の触手に脅かされたりもしながら、ひとりの女性として強く成長していく。そういう話だとはじめて気づかされたのは中盤の、幼馴染みの親友からもらった貯金箱が割れてしまう場面だ。そのときまでほんわかしたファンタジーを読んでいるつもりでいたからその視点の残酷な鋭さ、冷ややかさに驚かされた。でもその時点でさえまだおれはわかっていなかった、彼女は彼女でしたたかに自分の人生をつかみはじめていたのだ。しまいこまれていたオーナメントが部屋に戻されたとき、彼女は親友の結婚式に自分の将来、それも近い将来を重ねている。お隣さんが旅立っても彼女はもうひとりではない。すでに部屋の外に自分の世界を持っている。けれども贈られた新参者より置物たちのほうが自分を理解してくれていることを、彼女はきっと理解しているのだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的な作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『逆さの月』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。最新恋愛小説『ぼっちの帝国』連載中。
ぼっちの帝国

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