杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第30回: あなたは嗤って淘汰する

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
02.03Fri

あなたは嗤って淘汰する

職場の近くに大好きな書店がありました多くの棚から個性が消えてつまらなくなり目利きのセンスが光る外国文学の棚が縮小されアート関連が奥に追いやられ漫画コーナーを前面に出しついには文房具を扱いはじめたので不安を感じていました文房具を置くようになったら書店は末期という自分のなかでのジンクスがあるのですあんのじょう潰れましたやむなく同じ系列の別店舗へ向かいました外国文学の棚はありませんでしたハードカバーのミステリにまぎれてごくわずかだけ扱っていました文脈もセンスも皆無ただ狭い場所に押し込められていました

その店もご多分に漏れず文房具を扱っていました雰囲気も雑然としていて客に見える場所に段ボール箱がいくつも積まれていましたおそらくは潰れた店舗から移した在庫がまだ整理できていないだけなのでしょうが⋯⋯しかし本を何かの象徴やそれぞれの私的な世界を内包したものとしてではなく単にモノとして扱っているかのような印象を受けました生命力を感じさせる猥雑さというのなら大いに結構なのですが郊外モールに出店するようになる前のヴィレヴァンのように)、 それとは違いますその場ならではの視点文脈一貫性が欠如しているのです猥雑には猥雑なりの感性があります

その系列店の品揃えや棚づくりは大好きだった店舗と違ってほかのどの書店とも区別がつきませんでしたその書店ならではの視点文脈が感じられませんでしたそれがない書店はネット書店のランキング表示と変わりないのでわざわざ足を運ぶ理由を見いだせませんたとえ同じ本であってもそのように死んだ場からは買いたくありません魅力的な場の一部を切り取って持ち帰りたいのですそこには魔法があります書店で本を買う大きな愉しみですよそと区別がつかなくなったり雑然としてきたり何屋だかわからなくなったりしたらもうその店はだめです系列店もだめとなれば魅力ある書店はわたしの暮らす街から絶滅したことになりますがっかりしました

異質なものとの出逢いで自分が変えられる体験やほかのだれとも異なる孤独と向き合う経験は読書の大切な役割ですだれとも同じで何も変えられないようなものをなんのために出版しなんのために読むのですか読書や出版を勝ち負けの概念で語りたがるひとにばかり遭遇するのでおかしいとは思っていましたわかりやすい無難なだれでも知っている当たり前分類可能、 「売れ筋⋯⋯そんなものばかり並べて独自の視点が入り込む余地がなくなればそこに魔法は生じません効率よく大量のクリックを発生させつづければ商売としては成り立つので出版に関わるひとたちはそれでいいのでしょう

愉しみにしていた本は買えませんでした


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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