JR
ISBN: 9784336063199

JR

11歳の少年JRが巨大コングロマリットを立ち上げて株式市場に参入、世界経済に大波乱を巻き起こす!? ミステリ作家・殊能将之も熱讃した、世界文学史上の超弩級最高傑作×爆笑必至の金融ブラックコメディがついに奇跡的邦訳!! 第27回全米図書賞受賞作。

¥ 8,800
国書刊行会, 単行本 940頁
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著者:ウィリアム・ギャディス

(1922年12月29日 - 1998年12月16日)は米国の小説家。ハーバード大学を中退後、「ニューヨーカー」誌の校正者などを経て、『認識』(1955年)でデビュー。ジェイムズ・ジョイスを継ぐ作家と激賞された。その後、社内文書作成の仕事の傍らに書き上げた『JR』(1975年)と『自己責任の遊び』(1994年)で全米図書賞を受賞した。1998年死去。寡作ながらも、トマス・ピンチョンやドン・デリーロ、ジョゼフ・マッケルロイなどにも決定的な影響を与えた、現代アメリカ文学の最重要作家の一人である。

ウィリアム・ギャディスの本
JR
2019.
11.26Tue

JR

決して難しくはない。活き活きとした登場人物、滑稽かつ起伏に富んだ緻密なプロット。構成にしても王道の三幕構成で、娯楽性は高く飽きさせない。しかし正直なところ読みやすくはない。語りの流儀が独特なのだ。たとえばヒッチコック『ロープ』のように冒頭から結末まで切れ間なく場面や時間が移り変わる。翻訳のおかげか名人の落語のように声の調子で聞き分けられるものの地の文と台詞が渾然一体となって語られる。注意深く読めば何もかも明示されているけれど、注意深く読まねばあらゆることを読み落とす。読みこなすのにコツや技術、慣れや経験が要る。ひとつひとつのプロットは決して難解でも複雑でもない。しかしバックグラウンドで並行して動作するそれらは計算高く錯綜し、プロットAが語られるさなかにさりげなくプロットBの顛末が語られたり、そうかと思えばラブシーンだけはサービス過剰、こってり詳細に長々と叙述されていたりする。幸いにも日本語版には配慮の行き届いた注釈や登場人物紹介が添付されている。素直に頼って正解だった。それらを手がかりに読みすすめれば慣れない読者でも道に迷うことはない。ないけれど、周到に織り込まれた景色を存分に楽しむにはやはり何度も読み返さねばならないだろう。一度ですべてを理解できる読者は病的な水準の天才だ。あいにくおれは知能にも注意力にも障害があるので、たとえば転送実験の失敗で雲散霧消したのがだれかわからなかったし、読了後に登場人物一覧をざっと見返しても「こんなやついたっけ」と首をひねる人名が多かったりした。読み返す体力はない。タイトルロールの少年はおれとは違う種類の障害で、情緒に発達の遅れが見られ、それがゆえのサヴァンからこち亀の両さんのごとく、荒唐無稽な偶然の重なりであれよあれよという間にのぼり詰め、同様のくだらぬ偶然からあっという間に転落する。巻き込まれる冴えない貧乏音楽家も、美人小学校教師もJR少年のサヴァンを理解せず、子どもらしくあれと情緒を説くがその理屈にはまるで説得力がない。他人の暮らしや人生や感情を理解せず、雪だるま式に商売を膨れ上がらせる子どものやり口も、月が綺麗ですねとか名曲を魂で感じろとか、根拠のない空疎な言葉でしか語れぬ大人たちも、目の前の人間を見ないことにかけてはどっちもどっちで、だれもがてんでに勝手に暴走しエントロピーは増大する。実体のない会社はゴミ屋敷となり、芸術家は何者にもなれず、夢見るヒッピー少女は騙されて転落死し、元夫に子どもを奪われた美人教師はつまらぬ再婚をし、電気のない土地で家電を贈られた原住民は反乱を起こし、わらしべ長者のコングロマリットは一夜にして瓦解する。書けない作家が書こうとして書けなかった作品が、実際に著者が書こうとして生きているうちに書き上げられなかった作品だとさっき知った。貧しい音楽家が書こうとした作品が、どちらもどのみち現実の音にはならずとも、金のために書きながら金にならなかったゴミと、クレヨンで書き殴ったゴミにしか見えないが大切な作品とに、明確に区別されたのが印象に残った。女には利用されるばかりで愛されなかったけれど、彼は教え子のJR少年には、利用されるばかりではなくそれなりに愛されてもいたのかもしれない。リムジンの幸福な夢を思い描かれる程度には。この小説ではだれもが目の前の相手ではなく、実在しないものを求めている。人生や世の中を支配する金という概念であったり、何かほかのものであったり。なんであれそれは大差ないのだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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