お前らの墓につばを吐いてやる
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お前らの墓につばを吐いてやる

すべてに反抗して閃光のように世を去った呪われた天才が戦後まもなくアメリカ人を偽装して執筆、ベストセラーとなったが発禁処分をうけたデビュー作が切れ味のいい新訳で復活。黒人であるがために殺された弟の復讐を誓った白い肌の黒人である「俺」は田舎町の白人社会に溶け込んでその機会を狙い、ついに白人娘二人を「叩きのめそう」としたが…差別への憤怒を結晶させたノワールの傑作。

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著者:ボリス・ヴィアン

(1920年3月10日 - 1959年6月23日)フランスの作家、音楽家。前衛的な作風の小説で知られる。1940年代後半には脱走兵の黒人作家と称して通俗ハードボイルドを執筆した。ジャズ批評やアメリカ文学の紹介などの分野においても顕著な功績を残した。

2018.
10.07Sun

お前らの墓につばを吐いてやる

人種差別関係なくね? 要するに小児性愛のサイコパスが十代の姉妹を強姦し殺害する話。とってつけたように差別への復讐を口実にする身勝手がいかにもサイコパス。『うたかたの日々』でも感じたのだけれどボリス・ヴィアンは定型発達者ではなかったのかもしれない。郵便配達夫はあれでちゃんと恋愛小説で、暴力的な恋愛で自滅する男女の話がよく書けていた。『ミス・ブランディッシの蘭』は古本を若い頃に積ん読にしていて、読まずに棄てたのかつまらなくて忘れたのか記憶にない。この本はそれらに影響を受けながらも暗黒小説というほどの娯楽性はない。娯楽として成立させるだけの客観性が欠けている。当時のフランス社会ではアウトサイダー・アートとしてではなく娯楽小説として読まれたらしい。それもじつによく売れたそうだ。妻や娘を持つ白人男たちが性的な気晴らしとして暴力描写を愉しんだのだ。第二次大戦で人命の価値が極端に低下したせいかもしれない。フランスでも日本でもファシズムは人権を便所の紙以下にした。虫のいい屁理屈で子どもを残虐になぶり殺す黒人を書いて偏見を強化しておきながら、それを差別への抗議だとうそぶく白人も、人権意識が多少はましになったはずの現代において、強者の暴力をあたかも理屈の通ったことであるかのように宣伝する日本の帯文もやりたい放題だなと思う。ボリス・ヴィアンに影響を受けたセルジュ・ゲンスブールの映画でもDVがあたりまえの恋愛であるかのように描かれていて、現代の日本の女の子たちがそれをお洒落だとみなしている事実を思い出す。売春婦の殺害現場にこの本があったからという理由で、十万部の発行部数に対し十万フランの罰金が処せられたということだけれど、なぜ著者が支払わされたか理解できない。人類に一定の割合でサイコパスが発生するのも、人権を蹂躙する文章を書くやつがいるのも仕方がない。まともな人間が無知や誤解やなんらかの事情でひどいことを書いてしまうこともあるだろう。罪と責任はあたかもいいものであるかのように刷って広めた企業にある。もちろん半世紀も批評に晒されて残ったものであるからいまこの本を出版することに当時のような暴力性はない。むしろおもしろい解説を読ませてくれた出版社には感謝したい。解説のためだけにでも買う価値はある。装幀も美しい。本文はそれらを愉しむための口実にすぎない。


杜 昌彦

(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。