D.I.Y.出版日誌

連載第317回: 人間であってはいけない世界

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
04.24Sat

人間であってはいけない世界

与えられたプレイリストがすべてで自分の好みという概念や発想を持たない生徒が一般的になり四半世紀つづけた仕事に不安を抱いたギター講師の話を読んだ示唆に富む記事だ現代では企業の理屈こそが正義とされ個人の嗜好はないがしろにされがちだ関連付けには本来人力によるキュレーションが必要でなぜならそこには生の実感に基づく視点や文脈が不可欠だからだところがたとえば Amazon ではあまりに嗜好がないがしろにされておりそこでの関連付けは単に彼らの経済効率しか考慮しない日本の電子書店実質イコール漫画販売所ではこの問題を改善するために内容のタグ付けを導入しているあるいは書店ではなく電子取次がやっていることかもしれないそのあたりの詳細はわからない)。 これはこれで出版社の都合でしかなく読者にとって有益な視点や文脈が提供されているとはいいがたいそこで BookLive! では現在感情タグなるものを募集するキャンペーンをやっているこのデータがどのように利用されるのか詳細はわからないがたとえば電子取次によって別の配信先で二次利用されるのかもしれないしそうでないかもしれない)、 しかしこれも実際にはAmazon よりまし程度のものでしかないだろうヘンリー・フォードは顧客の需要に耳を傾けていたらより速い馬をとの回答を得ていたろうといった言葉を残したとかほんとうに望むものを読者は理解していないまだ手にしていないからだだから水先案内人が必要となるそれが書評だただの読者には見いだせない視点や文脈を提供するのが書評家の仕事なのだが残念ながら現代の書評家にその仕事がやれているとは思えないやれていたら出版の現状がここまで偏ることはなかったはずだ人格 OverDrive で本の網なる関連付けを試みているのはそれが理由だだれにも理解されていないし現状うまく機能しているともいえないけれど少なくとも集客には役立たないソーシャルメディアでうまく立ちまわることなしに出版は立ちゆかないtwitter は自己宣伝の戦場であの空気に被曝するとメンタルが削られるはてなハイクが懐かしくなったぐぐったら常連は散り散りになっているようだしかし考えてみればあの場にも適応できなかったからやめたんだよなどこにも居場所がない人格 OverDrive なり ATP なりが居場所だといえばそうなんだが自分しかいないから居場所たりえるのであって他人がいるところに生き恥を忍んで出て行って乞食のように顔と名前と愛想を売らねばどうにもならないしそうすれば決まって四人囃子おまつりのように袋叩きにされて追い出されるプロフェッショナルな広告のやり方を身につけなければとも思うがプロフェッショナルになるだけの資本はないtwitter アカウント運用ツールについて調べた使えそうだがそもそも適正な投稿内容ってどんなだろうあの場に適したライティングって作家性と真逆なのは明らかだ自動生成するツールがあればいいのにサンクス DM なるものがあるのを知ったあれは自動化されていたのかどうりで妙だと思った実際あそこに人間なんているのかなうまくやれている連中はみんな自動化されているんじゃないのうまくやれずに叩かれているやつだけが人間なのかもしれないいやそもそも自著やサイトの宣伝自体が不適正だなモーメントカレンダーを使って適正な内容を投稿する⋯⋯うーん⋯⋯やっぱりこれ完全に自動生成でよくね? 生身の人間がやったら疎外されるわけだろ? AI が投稿して AI が読むんでよくね? いまのユーザって AI なの? きっとそうなのだろうもう地上から生身の人間は消え去ったのだおれ以外の他人はみんな AI に違いない機械でなければ不可能なことをだれもがあまりに簡単に完璧にこなしすぎるツールを使ってプロフェッショナルな twitter アカウント運営をするのは本気で考えていてとにかく問題は何を投稿するかでここに書いているようなこととは真逆でなければならない作家としての生身の人間性は極限まで排除殺菌消毒し脱臭し漂白せねば性別が明らかなアヴァターやアカウント名は反感を招くのでロゴと出版社名にするかといって告知だけではスパム扱いされて凍結される経験済みだ計算され尽くした人工的な人間味といったものでなければ気軽に消費できる個別包装されたプラスティックで安全無害完全無臭だれでも理解できる既存の型にはまっていながら個性があるかのように映るキャラでなければそれを実現するライティングでなければ作家ではなくライター人間ではなく AI人力でそれをどうやって模倣するかだぜったい売ってると思うんだよな安全無害でコンバージョンするツイートを自動生成するソリューション的なやつ生身の人間にやれる世界ではないいや⋯⋯やっぱり他人に認知されようとする努力は浅ましいというか向いていないなメンタルが悪化するばかりだコントロールできないものを自己満足の手段にすべきではない他人に媚びたり気兼ねしたり自分をあたかも自分でないかのようにご立派に見せかけようとしたり空気を読んだり話題や言葉を選んだりそういうのは向いていないそんなことよりいまは亡き CreateSpace で出版した本をいずれは再出版せねば数年のあいだ一冊も買わなかったら Amazon のアルゴリズムが価格をつり上げてしまった千円以下で売るためにわざわざ苦労して CreateSpace を使ったのに何倍もの価格がついているPOD の意味がない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。