与えられたプレイリストがすべてで自分の好み (という概念や発想) を持たない生徒が一般的になり、 四半世紀つづけた仕事に不安を抱いたギター講師の話を読んだ。 示唆に富む記事だ。 現代では企業の理屈こそが正義とされ個人の嗜好はないがしろにされがちだ。 関連付けには本来、 人力によるキュレーションが必要で、 なぜならそこには生の実感に基づく視点や文脈が不可欠だからだ。 ところがたとえば Amazon ではあまりに嗜好がないがしろにされており、 そこでの関連付けは単に彼らの経済効率しか考慮しない。 日本の電子書店 (実質、 イコール漫画販売所) ではこの問題を改善するために内容のタグ付けを導入している (あるいは書店ではなく電子取次がやっていることかもしれない、 そのあたりの詳細はわからない)。 これはこれで出版社の都合でしかなく、 読者にとって有益な視点や文脈が提供されているとはいいがたい。 そこで BookLive! では現在、 感情タグなるものを募集するキャンペーンをやっている。 このデータがどのように利用されるのか詳細はわからないが (たとえば電子取次によって別の配信先で二次利用されるのかもしれないし、 そうでないかもしれない)、 しかしこれも実際には 「Amazon よりまし」 程度のものでしかないだろう。 ヘンリー・フォードは 「顧客の需要に耳を傾けていたら 『より速い馬を』 との回答を得ていたろう」 といった言葉を残したとか。 ほんとうに望むものを読者は理解していない。 まだ手にしていないからだ。 だから水先案内人が必要となる。 それが書評だ。 ただの読者には見いだせない視点や文脈を提供するのが書評家の仕事なのだが、 残念ながら現代の書評家にその仕事がやれているとは思えない。 やれていたら出版の現状がここまで偏ることはなかったはずだ。 人格 OverDrive で 「本の網」 なる関連付けを試みているのはそれが理由だ。 だれにも理解されていないし、 現状うまく機能しているともいえないけれど。 少なくとも集客には役立たない。 ソーシャルメディアでうまく立ちまわることなしに出版は立ちゆかない。 twitter は自己宣伝の戦場で、 あの空気に被曝するとメンタルが削られる。 はてなハイクが懐かしくなった。 ぐぐったら常連は散り散りになっているようだ。 しかし考えてみればあの場にも適応できなかったからやめたんだよな。 どこにも居場所がない。 人格 OverDrive なり ATP なりが居場所だ、 といえばそうなんだが自分しかいないから居場所たりえるのであって他人がいるところに生き恥を忍んで出て行って乞食のように顔と名前と愛想を売らねばどうにもならないし、 そうすれば決まって四人囃子 「おまつり」 のように袋叩きにされて追い出される。 プロフェッショナルな広告のやり方を身につけなければとも思うがプロフェッショナルになるだけの資本はない。 twitter アカウント運用ツールについて調べた。 使えそうだがそもそも適正な投稿内容ってどんなだろう。 あの場に適したライティングって。 作家性と真逆なのは明らかだ。 自動生成するツールがあればいいのに。 サンクス DM なるものがあるのを知った。 あれは自動化されていたのか。 どうりで妙だと思った。 実際あそこに人間なんているのかな。 うまくやれている連中はみんな自動化されているんじゃないの。 うまくやれずに叩かれているやつだけが人間なのかもしれない。 いやそもそも自著やサイトの宣伝自体が不適正だな。 モーメントカレンダーを使って適正な内容を投稿する⋯⋯うーん⋯⋯やっぱりこれ完全に自動生成でよくね? 生身の人間がやったら疎外されるわけだろ? AI が投稿して AI が読むんでよくね? いまのユーザって AI なの? きっとそうなのだろう。 もう地上から生身の人間は消え去ったのだ。 おれ以外の他人はみんな AI に違いない。 機械でなければ不可能なことをだれもがあまりに簡単に完璧にこなしすぎる。 ツールを使ってプロフェッショナルな twitter アカウント運営をするのは本気で考えていて、 とにかく問題は何を投稿するかで、 ここに書いているようなこととは真逆でなければならない。 作家としての生身の人間性は極限まで排除、 殺菌消毒し脱臭し漂白せねば。 性別が明らかなアヴァターやアカウント名は反感を招くのでロゴと出版社名にする。 かといって告知だけではスパム扱いされて凍結される。 経験済みだ。 計算され尽くした人工的な人間味、 といったものでなければ。 気軽に消費できる個別包装されたプラスティックで安全無害、 完全無臭、 だれでも理解できる既存の型にはまっていながら個性があるかのように映る 「キャラ」 でなければ。 それを実現するライティングでなければ。 作家ではなくライター、 人間ではなく AI。 人力でそれをどうやって模倣するかだ。 ぜったい売ってると思うんだよな、 安全無害でコンバージョンするツイートを自動生成するソリューション的なやつ。 生身の人間にやれる世界ではない。 いや⋯⋯やっぱり他人に認知されようとする努力は浅ましいというか、 向いていないな。 メンタルが悪化するばかりだ。 コントロールできないものを自己満足の手段にすべきではない。 他人に媚びたり気兼ねしたり、 自分をあたかも自分でないかのようにご立派に見せかけようとしたり、 空気を読んだり、 話題や言葉を選んだり、 そういうのは向いていない。 そんなことよりいまは亡き CreateSpace で出版した本をいずれは再出版せねば。 数年のあいだ一冊も買わなかったら Amazon のアルゴリズムが価格をつり上げてしまった。 千円以下で売るためにわざわざ苦労して CreateSpace を使ったのに何倍もの価格がついている。 POD の意味がない。
2021.
04.24Sat
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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