インディゴ
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インディゴ

オーストリア・シュタイアーマルク州北部に、ヘリアナウという全寮制の学校がある。インディゴ症候群を患う子供たちのための学園だ。この子供たちに接近するものはみな、吐き気、めまい、ひどい頭痛に襲われることになる。新米の数学教師クレメンス・ゼッツはこの学園で教鞭をとるうちに、奇妙な事象に気づく。独特の仮装をした子供たちが次々と、車でどこかに連れ去られていくのだ。ゼッツはこの謎を探りはじめるが、進展のないまますぐに解雇されてしまう。その15年後、新聞はセンセーショナルな刑事裁判を報じる。動物虐待者を残虐な方法で殺害した容疑で逮捕されていた元数学教師が、釈放されたというのだ。その新聞記事を目にした画家のロベルト・テッツェルはかつての教え子として、ゼッツが手を染めたかもしれない犯罪の真相を追いかけていく──軽快な語り口と不気味さが全篇を覆い、独特な仕掛けがさまざまな読みを可能にする。既存の小説の枠組みを破壊して新しい文学の創造を目指した、神童クレメンス・J・ゼッツの野心溢れる傑作長篇。

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読んだ人:杜 昌彦

インディゴ

正直なところナボコフのような化物級の天才もデイヴィッド・フォスター・ウォレスほどの技量もどちらも感じないし彼らのような読者を笑わすことへの尋常ならざる熱意もみられない技法上の意匠についても小説を読み慣れていない読者なら驚くかもしれないけれどさして珍しい手法ではないしうまく機能してもいないように感じられる。 「既存の小説の枠組みを破壊して新しい文学の創造を目指したというよりはどちらかといえばそのような宣伝文句を適用しやすい既存の技法や枠組が上手に用いられた印象だ帯文が何をいいたいかはわかるある種の暴力の加害者側に立つかのように読めるべく意図して視点が操作された小説なのだ登場する男はいずれも他者への共感能力をいっさい持ち合わせず世界に対して独善的で偏った認識をしときに人間や動物が虐げられる事象に極端な反応を示しながらもそれは単に強迫的な発作として描写されるにすぎない男たちはその欠陥を母親なり恋人なりがまるごと受け止めてくれるのを当然とみなし虐げられることを喜んで受け入れるのが愛情というものでありその愛情を受ける価値すなわち加害する価値が自分にあるのだと信じて疑わない女性を自分に隷属する所有物と捉え感情や人権や独立した人生を持つひとりの人間であることを許さないだから身勝手な自己愛に基づくその世界観が少しでも裏切られるとそれを自分の価値を毀損しようとする攻撃とみなして、 『インフィニット・ジェストに登場する社会病質さながらの暴力をふるうその暴力が明確に強迫傾向と関連づけられるところからも技巧上の意図は明らかだ無邪気に虚構として愉しむには気の重い小説だったそれこそがまさに意図された仕掛けではあるわけだしだからこそあの惹句なのだろう

(2021年06月23日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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クレメンス・J・ゼッツ
1982年11月15日 -

オーストリアの作家。2007年に小説『息子らと惑星たち』でデビュー。2011年ライプツィヒ・ブックフェア賞、2019年ベルリン文学賞、2020年クライスト賞など数々の主要な文学賞を受賞。小説や短篇集、詩集のほか、演劇や映画の脚本、英米文学、エスペラント語文学の翻訳など多方面で活躍している。

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