D.I.Y.出版日誌

連載第27回: おっさんアイドル

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
01.18Wed

おっさんアイドル

作家の写真は必要かという話題がタイムラインに流れてきました個人的には作家の写真や映像は大好きです文章は息継ぎとか力の入れ方とか身体的な要素が大きいので書いた生身の人間と切り離せないものに思えますなので作品を生み出した身体を見ることができると嬉しいのです肉声もいいですね作家の朗読 PV みたいなものが日常的に見られる世の中になってほしいです

ブコウスキーが実家で子ども時代に虐待されていた場所に立って目を細めて当時を懐かしむ映像にはぐっとくるものがありましたそういうのがいいんです作品と作家を混同する読み方には反対ですがそれはそれこれはこれです書いている場面なら最高ですが書いていないときでも作家は無意識にせよ自覚的であるにせよ脳みそでは仕事をしているものなのでただ生きてそこにいるだけでもやはり魅力を感じます音楽が好きなひとは PV で演奏者の手元をアップで映してほしいものでしょう似たようなものです

タレントが書いた本くらいしか売れない世の中ですが逆に作家がもっとテレビに出て野坂昭如さんや中島らもさんのように歌ったり筒井康隆さんのようにクラリネット吹いたりしてもいいんじゃないでしょうか極端な話泥酔した姿を公共の電波で晒すだけでもいいタレントじゃないんだから無理におもしろいこと言ったり芸をしたりしなくていいのですただ書いてるところや書けないところを延々撮ったアンディ・ウォーホルの映画みたいなやつでもいいし喰えないと愚痴る飲み会の中継でもいい

どうせ作家なら見目麗しい美人ではなく醜い中年が望ましいですお布施として本も買いますし朗読会にも赴きます黄色い声援ならぬ野太い罵声も浴びせましょうブコウスキーとか小説は一作しか書いていませんがセルジュ・ゲンスブールとかあんな感じのおっさんをアイドルとして消費したい昨年亡くなったレナード・コーエンはアイドルとしては落第ですねスーツや帽子を颯爽と着こなす老人はかっこよすぎるルー・リードは偏屈だから OK偏屈で小汚いおっさんがよいのですトム・ウェイツは若いときからかっこいいおじさんをめざしていた節があるのでだめイギー・ポップは⋯⋯老いてなお江頭な芸風がかっこよくて大好きだけれども何か違う最近だとアントン・ニューコムがいい感じヴェトナムの密林で途方に暮れる開高健さんなんて最高ですね

自分が老いて感じたのは加齢はひとを変えないということでした魂はそのままで器が劣化するばかり挫折はひとをだめにするしずるい人間はひとや社会を欺く力に磨きをかけるけれどもいくら歳を重ねたところで落ち着きや深みや知恵や洞察力を身につけることはない若い女性がアイドルとして消費されるのは生殖の搾取対象になり得るからですそんなものは老いた人間にはどうでもよいそのような力関係の場からはあらかじめ永久に疎外されています中年男はただおっさんであり老人はただ老いぼれですなんら肯定的な要素がないしかし老いて醜ければ醜いほどそれでもしぶとくふてぶてしく生きる姿には勇気づけられるものがあります社会的によしとされるありようから遠く離れてもそれでも堂々と誇らしく立っているあるいは杖や歩行器や車椅子に頼ったり寝たきりだったりする)。 そういう人間の生き様を見たいのです

作家という存在自体がエンターテインメントだと思うんですよ投獄されても書きますからね彼らはトイレットペイパーに書いて看守に見つかりそうになったら流してまた最初から書き直しますから銃を突きつけられて書くなといわれても書きますからねそういうひとたちが生きて動く姿を見たいあわよくば不遜な台詞を吐くのを聞きたい世渡りなんぞ糞くらえどうせあとわずかの命とばかり自分自身であってなお恥じぬ姿を見たい醜い人間でもふてぶてしく生きてよいのだと憧れの偶像に証明してほしいのです生殖の夢や希望をうたう美少女なんかよりずっと勇気づけられる気がしませんか?

最後にこのサイトを立ち上げた当時に書いたおっさんアイドルなる文章を再掲します

おっさんアイドルという新ジャンル商品を提案したいもう歳だからうたったり踊ったりはできない加齢臭と安ウィスキーと両切りたばこの煙を発散し仏頂面でカウンターにくすぶるだけだだれにも寄りつかれないようにときおりセクハラまがいの冗談を胴間声でわめいて女たちを遠ざけるかれの人生に恋愛はないもちろん家族団欒も友情も存在しないおっさんアイドルは徹底的にいけてないぶっちゃけ醜い。 「ちょい悪なんてスタイリッシュな存在とは対極に位置するくどいようだが恋人はおろか家族も友人もない偏屈だから当然だしたがってスキャンダルもないピュアだ加齢臭がピュアと呼べるならの話だが下手すると仕事もない独身男性者向けの生活用品や嗜好品の広告にでて生活している何にも関心がなくて人生にうんざりしているだれからも愛されないしひとかけらの誇りもない暴力をきらうが平和主義などではけっしてなく単に腕力が弱いだけだたいていのものはめんどくさいからきらいだが憎むのもめんどくさいかれが何かを愛してるかどうかはだれも知らないそんなキャラ設定だがだれもかれの人間性なんかに関心もたないし本人も期待してないたださっさとこの番組おわってくんねぇかなぁという顔でめんどくさそうに喫煙か飲酒かその両方をしているかといってショウが終わったところでかれにやることはないやっぱしカウンターでくすぶるだけだある日その醜いおっさんアイドルは合成であったことが判明するほぅほぅスキャンダルだよ! マーサーの荒野はかきわりで石つぶては発泡スチロールだったよかった汚いおっさんはいなかったんだ視聴者は安堵してチャンネルを替えるそして自然ドキュメンタリー番組でライオンの交尾を見る

まぁ現実にアル中と暮らしたらいいんだぜとはいえませんけれどもね


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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