年末年始に読んだ。 ミャンマーや香港で起きていること、 ウクライナで起きていること、 あるいは COVID-19 を巡るあれこれがちらついて古い絵空事とは思えなかった。 女性の描き方も当時の男性としてはまっとうだ。 権力や世間の価値観に流されずに物事を公平に観察する作家だったのだろう。 着想やプロットの風刺といい、 カメラアイ的な客観描写と意識の流れが自然に溶け合う語り口といい、 皮肉に満ちた人物描写といい、 他人とは思えないほど共感できる書き方がされている。 逆にいえば、 政治によってひとびとの暮らしが抑圧された時代に書かれ、 発禁になった小説がこれほど自然に共感できる一方で、 現代の日本で出版される小説にまるで共感できないのは、 何かよくないことの表れであるような気がする。 思い過ごしならいいのだけれど。
ASIN: B01FRVHITW
犬の心臓・運命の卵
by: ミハイル・ブルガーコフ
ヒトの脳を移植された犬が、大量発生したアナコンダが、人々を戦慄させる――。
ソ連体制下で全作品発売禁止! 問題作2作を新訳で。
ヒトの脳下垂体と睾丸を移植された犬が名前を欲し、女性を欲し、人権を求めて労働者階級と共鳴し、ブルジョワを震撼させる(「犬の心臓」)。繁殖力を高める生命光線を浴びて、大量発生したアナコンダが人々を食い荒らす(「運命の卵」)。
奇想天外な空想科学的世界にソヴィエト体制への痛烈な批判を込めて発禁処分となった、20世紀ロシア語文学の傑作二編を新訳で収録。用語、背景などについての詳細な注解および訳者解説を付す。
¥624
新潮社 2015年, Kindle版 307頁
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読んだ人:杜 昌彦
(2022年02月07日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『犬の心臓・運命の卵』の次にはこれを読め!