杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第17回: 初売りの街で

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
01.02Mon

初売りの街で

城下町の伝統で商店街は今朝から初売りでした元旦の朝仕事帰りのアーケード街で寝袋やテントを見ましたダウンロード販売や通販が当たり前の時代にあっても商店街での買い物にはまだまだ魅力があります行列がどうなっているか楽しみにして出勤しました寝袋やテントの行列を背に普段からそのような暮らしをされているお爺さん平たく言えばホームレスベンチに悠然と座っていましたベテランの風格を感じました漁師さんに無料で貸与して履き古してもらったジーンズを高値で売るサービスを思い出しました異なる人生に思いをはせるロマンが評判を呼びよく売れているのだそうですだれかの日常は別のだれかにはワクワクする夢なのですね買い物は単にモノを手に入れるばかりではなく物語を楽しむ体験でもあるのかもしれません

一時間残業して職場を出ました戦利品を手にして帰宅する闘志たちとすれ違いました店によってはまだ長い行列が粘っていましたそこにはまた別の物語があるのでしょう多くの店先に福袋が並んでいましたまだ見たことはありませんが書店でも福袋はあるのでしょうか本でそのような売り方をするには客と目利きである店員との信頼関係が大切です何を読めるかわからないけれどもきっといい本に違いないとワクワク夢みる体験こそが商品となるからですつまらないものを読ませて失望させては成立しませんそれぞれ異なる人生がどのように世界を切り取っているのか垣間見せてくれるのが読書です異質さに驚いたり逃れようもなく似ている痛みに共感したりそれぞれの切り取り方を提示するのが読書体験であるならば、 「選ぶことこそが価値を決めるのは当然です

選ぶからには切り棄てられるものもありますそこに反感を持つひともあるかもしれませんあるいはすべてを陳列したまたま生じたわずかな差違を拡大することで自動的に選別するやり方もあるでしょう大規模ストアの読み放題を見るかぎりそのアルゴリズムはあまりうまく機能してはいないようです混沌から何かを切り取り物語を浮かび上がらせる力こそが本や書店に求められているのだと思いますそのためには独善的であることに責任と自負を持たねばなりません


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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