箱根山
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箱根山

箱根の山は天下の嶮か、ケンカのケンか?―足刈にある二軒の老舗旅館、玉屋と若松屋は先祖代々の犬猿の仲だ。だが若松屋の娘、明日子と玉屋の若番頭、乙夫は反発しながらも内心惹かれあっていた。いがみあう旅館、勃発する跡継ぎ問題、親から紹介された見合い相手、旅館の経営不振と大事故、乗り込んでくる都会の大資本…二人の恋の行方と箱根の未来はどうなる?

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著者:獅子文六

(1893年7月1日 - 1969年12月13日)日本の作家、演出家。多くの作品が映像化された。1961年にNHKでテレビドラマ化された『娘と私』は、連続テレビ小説の第1作となった。1963年、日本芸術院賞受賞、1964年芸術院会員、1969年文化勲章受章、同時に文化功労者となる。

2017.
10.30Mon

箱根山

あいかわらず売り方がうまいなぁ。おもしろさは折り紙つきで、エンターテインメントの手管をこれでもかというほど旺盛に投じてくる。酔狂な趣味に打ち込む旦那やら、新しい世代への期待やら、女同士の会話やら、綿密な調査に基づくうんちくやら、活き活きとした人物描写やら、見込みのない演出家志望やら、「獅子文六印」とでもいうべき魅力があますところなく盛り込まれている。「お仕事&恋愛小説」なる売り込みは、まるで的外れとまではいわぬまでも、正直この小説をいいつくしてはいない。経済小説でもあり、観光本のようでもあり、人情ものでもある。要するに娯楽小説のすべてなのだ。

ただ彼の作品に親しみのない読者に読ませるには、やはり冒頭は見せるより語ってしまっているし、主要登場「人物」が出てくるまで長いし、起きている事件ではなく設定というか舞台背景を説明してしまっている。そこで人気のPOP風帯文はあえて「退屈」と断じ、「でも80頁くらいまで読んでみてください」とやる(この80頁という設定がまた、うまい)。そうして先を読みすすめると、実はこの小説の主役は「ケンカのケン」たる箱根山なのであって、つまるところ主役は冒頭から登場しており、その主役を語るにあたって、あのくだりは必然であったとわかる。わかってみれば確かにあれ以外ありえないのだけれども、たとえば『悦ちゃん』などとくらべて取っつきにくいのも事実で、そこを帯文がうまいことやってくれている。

おまけに表紙イラストも見事な販促だ。ご親切に人物相関図までついている。ここまでお膳立てされたなら、薦められたままの読み方を素直に楽しむのがよい。それが小説『箱根山』の観光というものである。しかし恋愛は主題とはいえないのに、そこをクローズアップするのは、恋愛はよほどカネになるんだねぇ。若いひとの主要な関心事だもんね。

娯楽であるからには世相を意欲的に取り入れるもので、個人的に興味をおぼえたのは「17歳」の扱いである。当時その年齢の若者が政治家を襲うテロ事件がつづき、「危険な年齢」と話題になったのをこの小説ではじめて知った。実際、青少年による暴力事件が非常に多く、猟奇殺人も日常茶飯事だった時代である。理解できないのは40年後のリバイバル・ブームで、その頃には青少年犯罪は世界史上でも類を見ないほど激減し、むしろ老人による凶悪事件が激増していたにもかかわらず、わずか数例をもってして「17歳」が大手マスコミ各社によってやり玉に挙げられた。あの意味の通らない、理不尽な差別には歴史的な元ネタがあったのだ。なぜ40年の歳月を経て亡霊のようによみがえったのかよくわからないが、ともかく17年後のいまになってその事実を知り、奇妙な感慨にふけるのである。


杜 昌彦

(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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