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箱根山
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箱根山

箱根の山は天下の嶮か、ケンカのケンか?―足刈にある二軒の老舗旅館、玉屋と若松屋は先祖代々の犬猿の仲だ。だが若松屋の娘、明日子と玉屋の若番頭、乙夫は反発しながらも内心惹かれあっていた。いがみあう旅館、勃発する跡継ぎ問題、親から紹介された見合い相手、旅館の経営不振と大事故、乗り込んでくる都会の大資本…二人の恋の行方と箱根の未来はどうなる?

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読んだ人:杜 昌彦

箱根山

あいかわらず売り方がうまいなぁおもしろさは折り紙つきでエンターテインメントの手管をこれでもかというほど旺盛に投じてくる酔狂な趣味に打ち込む旦那やら新しい世代への期待やら女同士の会話やら綿密な調査に基づくうんちくやら活き活きとした人物描写やら見込みのない演出家志望やら、 「獅子文六印とでもいうべき魅力があますところなく盛り込まれている。 「お仕事&恋愛小説なる売り込みはまるで的外れとまではいわぬまでも正直この小説をいいつくしてはいない経済小説でもあり観光本のようでもあり人情ものでもある要するに娯楽小説のすべてなのだ

ただ彼の作品に親しみのない読者に読ませるにはやはり冒頭は見せるより語ってしまっているし主要登場人物が出てくるまで長いし起きている事件ではなく設定というか舞台背景を説明してしまっているそこで人気の POP 風帯文はあえて退屈と断じ、 「でも 80 頁くらいまで読んでみてくださいとやるこの 80 頁という設定がまたうまい)。 そうして先を読みすすめると実はこの小説の主役はケンカのケンたる箱根山なのであってつまるところ主役は冒頭から登場しておりその主役を語るにあたってあのくだりは必然であったとわかるわかってみれば確かにあれ以外ありえないのだけれどもたとえば悦ちゃんなどとくらべて取っつきにくいのも事実でそこを帯文がうまいことやってくれている

おまけに表紙イラストも見事な販促だご親切に人物相関図までついているここまでお膳立てされたなら薦められたままの読み方を素直に楽しむのがよいそれが小説箱根山の観光というものであるしかし恋愛は主題とはいえないのにそこをクローズアップするのは恋愛はよほどカネになるんだねぇ若いひとの主要な関心事だもんね

娯楽であるからには世相を意欲的に取り入れるもので個人的に興味をおぼえたのは17 歳の扱いである当時その年齢の若者が政治家を襲うテロ事件がつづき、 「危険な年齢と話題になったのをこの小説ではじめて知った実際青少年による暴力事件が非常に多く猟奇殺人も日常茶飯事だった時代である理解できないのは 40 年後のリバイバル・ブームでその頃には青少年犯罪は世界史上でも類を見ないほど激減しむしろ老人による凶悪事件が激増していたにもかかわらずわずか数例をもってして17 歳が大手マスコミ各社によってやり玉に挙げられたあの意味の通らない理不尽な差別には歴史的な元ネタがあったのだなぜ 40 年の歳月を経て亡霊のようによみがえったのかよくわからないがともかく 17 年後のいまになってその事実を知り奇妙な感慨にふけるのである

(2017年10月30日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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獅子文六
1893年7月1日 - 1969年12月13日

日本の作家、演出家。多くの作品が映像化された。1961年にNHKでテレビドラマ化された『娘と私』は、連続テレビ小説の第1作となった。1963年、日本芸術院賞受賞、1964年芸術院会員、1969年文化勲章受章、同時に文化功労者となる。