青い脂
ASIN: B01EFOCI9W

青い脂

7体の文学クローンの身体に溜まる謎の物質「青脂」。スターリンとヒトラーがヨーロッパを二分する一九五四年のモスクワに、その物体が送りこまれる。巨頭たちによる大争奪戦の後、エロ・グロ・ナンセンスな造語に満ちた驚異の物語は、究極の大団円を迎える。20世紀末に誕生した世界文学の新たな金字塔!!


¥1,485
河出書房新社 2016年, Kindle版 528頁
※価格はこのページが表示された時点での価格であり、変更される場合があります。商品の販売においては、購入の時点で Amazon.co.jp に表示されている価格の情報が適用されます。

読んだ人:杜 昌彦

青い脂

ハリウッドの脚本術に忠実な娯楽 SFびっくりするほどシド・フィールドの教科書どおりに書かれている娯楽小説に慣れた読者にとっては馴染み深い筋運びで構成に無駄はないし挟まれる短編小説もそれなりに愉快だ肉片機関車と人文字の話はよかった)。 しかし残念ながらやはり古い時代の小説といわざるを得ない暴力性を訴える手管として糞尿と性暴力と同性愛をおなじ範疇として一緒くたに扱っている昭和の中学生ならそれでも大喜びだったろうが現代の大人が読むには耐えない意図はわかるんですよ皮肉とか異化作用とか神を引きずり下ろす感じとかよく知らないけれど根本敬みたいにしたかったのだろうと思える筒井康隆も初期はあんな感じだったしかしその発想自体が時代遅れだし肝心の露悪趣味にしても現実の暴力をしのぐほどの醜悪さとはいえないしわざわざ舌下に麻薬注射までして奇声など上げずともかの独裁者がやったことは社会病質ならではの支離滅裂さだと思う)、 同性愛を変態扱いするのがもう何より致命的にだめだ20 年前の作品だから仕方ないのかなとも思うけれども本作が書かれたのとおなじ年にまったくの無名人であるわたしは黒い渦の初稿をさらに前年にはPの刺激を書いていて本作における山場の処理はその二作に極めてよく似ているであればせめて拙作よりもましなものを期待してもばちは当たらぬはずだAI が書いた設定の短編小説はパスティーシュとしての魅力はいまひとつだけれどよくできたパスティーシュは元ネタを知らずとも楽しめるものなのにそれほど感銘は受けなかったし何冊か読んでいるナボコフのパスティーシュでさえもいまひとつぴんとこなかった)、 生身の人間が書いただけあって本物よりも筋が通ってしまっているとはいえ、 『Zone Outハリー・ポッターと巨大な灰の山らしきものの肖像に見られるような統合失調症めいた質感をなかなか正確に予言していてそこだけはちょっと感心させられた当時は現実にはそのようなものがまだ存在しなかったわけだからねしかしその語りよりも上の階層でも大差ない狂いっぷりを見せつけられるとどこに読書の足場を見出せばいいのかわからなくなり辟易するしそれを意図したのだといわれてもいやでもあなた娯楽小説の枠組みは棄てられなかったよねと思ってしまう放り出すほどつまらなくはないけれど発想の古さのせいで中途半端の印象を拭えない

(2021年03月25日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
ぼっち広告

AUTHOR


ウラジーミル・ソローキン
1955年8月7日 -

ロシアの小説家、劇作家。現代ロシアを代表するポストモダン作家。モスクワ州出身。コンセプチュアリズム芸術運動に関わったのち、83年『行列』で作家デビュー。「現代文学のモンスター」の異名をとる。主な作品に、『ロマン』『青い脂』『氷3部作』、短篇集『愛』など。

ウラジーミル・ソローキンの本