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偉業
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偉業

ロシア育ちの多感で夢見がちな少年マルティンは、両親の離婚とともに母に連れられクリミアへと移る。その後、革命を避けるようにアルプスへ、そしてケンブリッジで大学生活を送るのだが…。


¥1,210
光文社 2016年, 文庫 435頁
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どこに転がっていくの?

偉業

紛争に翻弄される生活を空想とない交ぜにするうちに空想の国へと消えてしまう青年の話時節柄関心をもって読んだ頭のおかしい人物の主観がジャンル小説の定石によって語られるさまは絶望にも通じるヴェルヴェット・アンダーグラウンドの音楽がそうであるように通俗的なジャンル小説をばらばらに分解し寄せ集めてまったく別物として再構築するのがこの作家でロシア語時代はそのやり方がまだ洗練されておらず主題を実現する手段として統一された感じがなくちぐはぐな印象を受けるその一方でそれからどうなるの?という物語の求心力に対しては素直で人物描写も鮮やかで活き活きしており面喰らうほど普通におもしろく読める彼の小説が心底気色悪いのは蝶だのチェスだの言葉だの光学現象だのには病的な執着や感性を示すくせに性欲の解消を最終目的とする恋愛においてだけは定型発達者めいた社会性を発揮するところで本書もまたそうした普通に身を置くかのように装われておりあるいは本気でそう錯覚し信じ込んでいるのではないかと不安にさせられもするおなじみの同性愛嫌悪に対してはあんたの異性愛も大概キモいよといってやりたくなるほどだ肩書きだけでわかった風に片づける死亡記事に些細なディテールの積み重ねこそが人間性を語るのにと主人公が不平を述べるくだりにはまさに些細なディテールの積み重ねで鮮やかに浮かび上がる人物描写とあいまってあたかも本当に人間性を理解する普通の作家の小説であるかのようにさえ思わされる興味ぶかいのは謀略ものの定石を使いながらもその扱いは投げやりなまでに粗雑で政治からは明確に距離をおいていることそれが意図されたものであることは作中人物によってもあからさまに言及され強調されている自身の経歴をもって政治的に語ろうとすればいくらでもできるところをあえてそうしないのが作家の姿勢なのだろうむしろ意地でも政治にしてやるものか空想的な物語のおもしろさだけを追求するのだといった執念が窺える図書館でいっしょに借りたブルガーコフ白衛軍はどうにも入り込めず序盤で挫折したのとは逆にこちらは一日であっさり読み終えたのはそうした書き方のせいかもしれない通俗的謀略小説の作家イアン・フレミングに影響を与えたどこに転がっていくの林檎ちゃんと読み比べるとナボコフの作家性がよくわかるような気がした

(2022年03月26日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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ウラジーミル・ナボコフ
1899年4月22日 - 1977年7月2日

帝政ロシアで生まれ、欧州と米国で活動した作家・詩人。米国文学史上では亡命文学の代表格の一人。自作の翻訳も手がけ、大小を問わず改作を多く行ったのみならず、その過程で新たに生まれた作品も存在する。