D.I.Y.出版日誌

連載第291回: 99階のブルース

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
10.26Mon

99階のブルース

TIME 誌の表紙を Shepard Fairey2008 年にバラク・オバマの肖像画を描いたストリートアートの画家でバンクシーの映画にも出ているアンドレ・ザ・ジャイアントの奇妙なステンシル画はあなたもどこかで一度は目にしたはずだによるアートワークが飾った有名な誌名ロゴは投票せよのスローガンに取って代わられているマスクで口許を覆った女性が描かれており柳楽先生のツイートによればだからといって黙らされたわけじゃないといった意味だそうないっぽう日本で人気の漫画は口に棒きれをくわえさせられて黙らされることで男の子の遊びに混ぜてもらえる少女を描いて大人気その漫画では日本刀で斬殺される若い女性やばらばらに解体された人体が意図的かつ過剰に性的なニュアンスで描かれるまた死によって登場人物の人生が語られる泣きの演出もまた執拗にくり返されるそうしたプロパガンダ商品の意図するところは明確だそのような洗脳教育によって幼少期に性癖を刷り込まれた世代が十年後日本刀による斬殺にいかなる関心を示すかはたまた国家や企業が成人した彼らをどのように利用するかお楽しみだフィクションが個人や社会に影響を与えぬというのならアンクル・トムの小屋と南北戦争は無関係だとでもいうのかナチスやかつての日本国家が映画を利用した事実をどう説明するアトムやガンダムに憧れて長じてロボット工学者になる者や実物大ガンダムをつくる者がいるのに性的昂奮を求めて女性を惨殺する大人が生じないとなぜ断言できるのか人気絶頂で連載終了となったのは著者がそのような物語を描かされることに嫌気がさしたからではないか連載開始当初は登場人物の人間性や交錯するバックストーリーが丁寧に描かれていた)。 一流企業の男性編集者に強いられて描きたくないものを金のために描かされる女性とだれにも読まれぬ稚拙な小説を書いて出版する貧しい中年男性のどちらが幸せか作家の幸福はひとつだが不幸は作家それぞれだそしてわたしは現実には作家ではないし身分不相応に天才たちの玉稿を預かっていながら編集者ですらない職場では現場管理者のふりをしているが実のところただの無能で何もできないいかなる場いかなる役割においても何者でもない福祉の世話になれぬ程度の中途半端な知恵遅れでしかない何者かになろうとする承認欲求について書かれた若林さんの文章を読んだわたしはそういうのはわからない他人が当たり前にやれることを何ひとつやれず貶められたり蔑まれたり嘲笑われたりするのが厭なだけだわたしには常識はないが病識はあるし知的障害を自覚できるほどの知能も不幸にして持ち合わせている他人が当たり前のように理解できることがわからない他人が何気なくやれてしまうことが血の滲む努力をしてもなし得ない解決法は単純なことで他人を視界に入れなければいい生活のためには表へ出ねばならないがそれ以外は洞窟のような場所に閉じ籠もってだれともかかわらず一生を終えたい書いて出版し自分にはこれだけの仕事がやれるのだと実感したい両親に奪われた踏みにじられた自己肯定感を取り戻したいそれだけが重要であって他人は徹頭徹尾どうでもいい得たいものを阻害するだけの迷惑な要素でしかないところが出版によって自己肯定感を阻害されるPublish というだけあって他者や社会という自分の無能を断罪する物差しとかかわらざるを得ないからだ堂々巡りだ書いて出版するのも生計を立てるのも何ひとつ人並みにやれないPA-API の制限で書誌情報はいまだに取得できないし人格 OverDrive の ActivityPub はある日とつぜん動作しなくなったATP 側からリムーブして再フォローするとフォローリクエストの状態になるので人格 OverDrive 側の問題のように見えるけれどもActivityPub プラグインのフォローは承認制ではないし更新は半年前で設定も変えていないほかのプラグインの影響も疑って検証したがそのような事実はなかっただとすると不具合の生じた日に Mast.host が行った更新に起因する可能性は高いがポルトガル語も英語もできないので弱り果てている他人任せにするからこんなことになる出版の大半をそうしてきたように自力で建てるべきだった人並みの知能があったならまともになれたろうかと夢想するいやばかだからかえってどうにかなったのかもしれないなあんな家庭にこんな遺伝子を持って生まれたらばかでもなければ発狂するか自殺するかさもなくば受け継いだ遺伝子で異常者になっていたろう愛は遠い他人に起きるだけの絵空事だ評価であり金であり絶対の物差しだばかだからなのか異常者の家庭に育ったためか生まれてこの方だれからも愛された経験がない書くものもそうだ洩れなく憎まれ蔑まれ貶められ嘲笑されるだれにも愛されない人間の書くものはだれにも愛されない自己肯定感は取り戻せない最初からそんなものはなかった限られたひとびとが握り締めて生まれてきて死んでも放さない遠い他人に生じる絵空事なのだもっと信じられる確かなものを手にしたい自分の力で努力によって


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。