特集: 老いと死
瀕死の双六問屋
忌野清志郎
1998年11月~2001年4月にかけて『TV Bros.』(東京ニュース通信社)で連載され、キヨシローが、「俺が唯一(絵本以外で)というくらい、まじめに(ゴーストライターやインタビューおこしではなく)自分で書いた」(「あとがき」より)と語る、「瀕死の双六問屋」を加筆修正した本書は、「理想郷」である「瀕死の双六問屋」で暮らす男が縦横無尽に音楽への愛、社会への怒りを語り尽くすというサイケな作品。君が代、憲法、自殺問題、さらには反核・反原発曲の収録問題を理由としたレコード発禁事件等々エピソードは多岐に亘り、10年以上の時を経ても、その文章はサイコーにクールでホット!
読んだ人: 杜 昌彦
夢見る帝国図書館
中島京子
「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。
知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!
読んだ人: 杜 昌彦
インヴィジブル
ポール・オースター
はじまりは一九六七年のニューヨーク。文学を志す二十歳の青年の人生は、突然の暴力と禁断の愛に翻弄され、思わぬ道のりを辿る。フランスへ、再びアメリカへ、そしてカリブ海の小島へ。章ごとに異なる声で語られる物語は、彼の人生の新たな側面を掘り起こしながら、不可視の領域の存在を読む者に突きつける―。新境地を拓く長篇小説。
読んだ人: 杜 昌彦
終わりの感覚
ジュリアン・バーンズ
穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届く。日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。記憶をたどるうち、その人が学生時代の恋人ベロニカの母親だったことを思い出す。託されたのは、高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記。別れたあとベロニカは、彼の恋人となっていた。だがなぜ、その日記が母親のところに?―ウィットあふれる優美な文章。衝撃的エンディング。記憶と時間をめぐるサスペンスフルな中篇小説。2011年度ブッカー賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
日本人の恋びと
イサベル・アジェンデ
毎週届くクチナシの花、黄色い封筒に入った手紙、お忍びの小旅行…80代を迎えた老人の謎めいた日常の背後に、いったい何があるのか?老人ホームに暮らすアルマ。日系人イチメイとの悲恋を主軸に過去と現代のドラマが展開する、現代版『嵐が丘』。
読んだ人: 杜 昌彦
ドゥームズデイ・ブック
コニー・ウィリス
14世紀にタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生キヴリンを待ちうける恐るべき試練とは? 歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代をじかに観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の史学生キヴリンは実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった……はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか? ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞したタイムトラベルSF。
読んだ人: 杜 昌彦
ボトムズ
ジョー・R・ランズデール
80歳を過ぎた今、70年前の夏の出来事を思い出す―11歳のぼくは暗い森に迷い込んだ。そこで出会ったのは伝説の怪物“ゴート・マン”。必死に逃げて河岸に辿りついたけれど、そこにも悪夢の光景が。体じゅうを切り裂かれた、黒人女性の全裸死体が木にぶらさがっていたんだ。ぼくは親には黙って殺人鬼の正体を調べようとするけど…恐怖と立ち向かう少年の日々を描き出す、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
おばあさん
獅子文六
納富家で隠居生活をおくるおばあさんのもとに、娘婿の浮気に孫娘の婚約騒ぎと心配の種が次々に舞い込む。人生の荒波をくぐり年を重ねた女性の知恵と気骨としたたかさで、おばあさんは厄介事の解決に奔走する。ユーモアあふれる家族小説。
読んだ人: 杜 昌彦
花終る闇
開高健
“漂えど沈まず”。小説のタイトルは決まった。しかし、男はそこから一歩も進めなくなった。焦燥と倦怠の中、男は酒と情事と幻想に耽る―。熱帯の甘い泥に蠢く古代の虫。機関銃の猛射の下、惚けた顔で佇むベトナム兵。みなし児のようにヨーロッパをさまよう女の疲れた首筋。記憶を食いつぶした男は崩壊の手前で辛うじて踏み止まるのだが…。『輝ける闇』『夏の闇』に続く未完の最終篇。
読んだ人: 杜 昌彦
輝ける闇
開高健
銃声が止んだ……虫が鳴く、猿が叫ぶ、黄昏のヴェトナムの森。その叫喚のなかで人はひっそり死んでゆく。誰も殺せず、誰も救えず、誰のためでもない、空と土の間を漂うしかない焦燥のリズムが亜熱帯アジアの匂いと響きと色のなかに漂う。孤独・不安・徒労・死――ヴェトナムの戦いを肌で感じた著者が、生の異相を果敢に凝視し、戦争の絶望とみにくさをえぐり出した書下ろし長編。
読んだ人: 杜 昌彦
夏の闇
開高健
ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひたすら眠り、貪欲に食い、繰返し性に溺れる嫌悪の日々をおくる……が、ある朝、女と別れ、ヴェトナムの戦場に回帰する。“徒労、倦怠、焦躁と殺戮”という暗く抜け道のない現代にあって、精神的混迷に灯を探し求め、絶望の淵にあえぐ現代人の《魂の地獄と救済》を描き、著者自らが第二の処女作とする純文学長編。
読んだ人: 杜 昌彦
チューリップ
ダシール・ハメット
『マルタの鷹』『血の収穫』のダシール・ハメットはパルプマガジン「ブラックマスク」から登場し、ヘミングウェイやフィッツジェラルドと並ぶ二十世紀アメリカ文学の重要な小説家と見なされるまでになった。1961年に亡くなるまで書き続けられ、未完となっている中篇小説「チューリップ」を中心とし、初期の文芸作品風の短篇も収めた小説集。ハードボイルド小説の日本での紹介者・小鷹信光個人訳に、評論・解説を付す。
ハードボイルド精神とは何か? 遺作と編者特選短篇を集めた愛蔵版。
読んだ人: 杜 昌彦
タイムクエイク
カート・ヴォネガット
2001年2月13日、時空連続体に発生した異常―タイムクエイクのために、あらゆる人間や事物が、1991年2月17日へ逆もどりしてしまった。ひとびとはみな、タイムクエイクの起きた瞬間にたどりつくまで、あらためて過去の行為をくりかえさざるをえなくなる。しかも、この異常事態が終わったとき、世界じゅうは大混乱に…!SF作家のキルゴア・トラウトやヴォネガット自身も登場する、シニカルでユーモラスな感動の長篇。
読んだ人: 杜 昌彦
青ひげ
カート・ヴォネガット
元画家の秘密をめぐる物語を、巨匠がシニカルかつ温かく描いた感動長篇 わたしはラボー・カラベキアン。亡き妻の大邸宅に孤独に暮らす老人だ。かつては抽象表現派の画壇で活躍したこともあったが、才能に限界を感じて今では抽象画のコレクターに甘んじている。そんなある日、若くエネルギッシュな女性が現われ、わたしの人生も大きく変わることになった。彼女は、わたしが誰一人入らせない納屋にいったいどんな秘密があるのか、興味を示しだしたのだ……人類に奇跡を願い、奇才が贈る感動長篇
読んだ人: 杜 昌彦
冬の日誌
ポール・オースター
いま語れ、手遅れにならないうちに。肉体と感覚をめぐる、あたたかな回想録。幼いころの大けが。性の目覚め。パリでの貧乏暮らし。妻との出会い。自動車事故。暮らしてきた家々。記憶に残る母の姿と、その突然の死。「人生の冬」にさしかかった著者が、若き日の自分への共感と同情、そしていくぶんの羨望をもって綴る「ある身体の物語」。現代米文学を代表する作家による、率直で心に沁みるメモワール。
読んだ人: 杜 昌彦
内面からの報告書
ポール・オースター
外見は変わっても、君はまだかつての君なのだ――。心の地層を掘り起こして記す回想録。初めて書いた詩。父の小さな噓。憧れのスポーツ選手たち。心揺さぶられた映画。エジソンとホームズ。ユダヤ人であることとアメリカ人であること。学生運動の記憶。元妻リディア・デイヴィスへの熱い手紙――。現代米文学を代表する作家が、記憶をたぐり寄せ率直に綴った報告書。『冬の日誌』と対を成す、精神をめぐる回想録。
読んだ人: 杜 昌彦
ブルックリン・フォリーズ
ポール・オースター
傷ついた犬のように、私は生まれた場所へと這い戻ってきた―ブルックリンの、幸福の物語。静かに人生を振り返ろうと故郷に戻ってきたネイサンが巻き込まれる思いがけない冒険。暖かく、ウィットに富んだ、再生の物語。
読んだ人: 杜 昌彦
プレイバック
レイモンド・チャンドラー
午前六時半。一本の電話が私立探偵フィリップ・マーロウを眠りから覚まさせる。それは、列車で到着するはずの若い女を尾行せよとの依頼だった。依頼主の高圧的な態度に苛立ちながらも、マーロウは駅まで出向く。女はすぐに姿を現すが、彼女には不審な男がぴったりとまとわりつき―。“私立探偵フィリップ・マーロウ”シリーズ、長篇第七作。新訳版。
読んだ人: 杜 昌彦
死をポケットに入れて
チャールズ・ブコウスキー
老人力全開!ブコウスキー、最晩年の痛快日記。老いて一層パンクにハードに突っ走るBUKの痛快日記。五○年愛用のタイプライターを七○歳にしてMacに変え、文学を、人生を、老いと死を語る。カウンター・カルチャーのヒーロー、R・クラムのイラスト満載。
読んだ人: 杜 昌彦
パルプ
チャールズ・ブコウスキー
バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する。伝説的カルト作家の遺作にして怪作探偵小説が復刊。
読んだ人: 杜 昌彦
写字室の旅
ポール・オースター
彼はどこに行くのか。どこにいるのか――未来を巡る、新しいラビリンス・ノベル。奇妙な老人ミスター・ブランクが、奇妙な部屋にいる。部屋にあるものには、表面に白いテープが貼ってあって、活字体でひとつだけ単語が書かれている。テーブルには、テーブルという言葉。ランプには、ランプ。老人は何者か、何をしているのか……。かつてオースター作品に登場した人物が次々に登場する、不思議な自伝的作品。
読んだ人: 杜 昌彦
神秘大通り
ジョン・アーヴィング
サーカスのライオンに殺された妹。宣教師とトランスヴェスタイトの愛情深い養父母。怪しい美人母娘を道連れに、作家の感傷旅行はどこへ向かうのか。待望の最新作!
読んだ人: 杜 昌彦
ベイツ教授の受難
デイヴィッド・ロッジ
言語学の元大学教授ベイツは難聴のため早期退職し、ときおり、やはり難聴で認知症の父親の家を訪問している。再婚した妻のフレッドは自営業で成功し、夫は妻の「付属品」のような存在だ。ベイツは女子学生アレックスの論文指導をすることになったが色仕掛けにうんざりしてしまう。しかもテーマは「自殺の遺書」分析。夫婦仲もますます冷え、何をやっても失敗ばかり。そんな中、ベイツはポーランドへ講演旅行に出かけ、アウシュヴィッツを見学して衝撃をうける。妻からの電話で娘が産気づいたことを知らされた直後、息子から祖父が倒れて入院したと連絡をもらう……。人生の盛りを越えた難聴の主人公ベイツ、老いて一人暮らしの父親、虚言癖のある女子学生など、一筋縄ではいかない登場人物たちが物語を盛り上げる。読者をおおいに笑わせつつ、「老い」「死」というテーマをしんみりと、かつ明るく描く、大御所ロッジ集大成。
読んだ人: 杜 昌彦
Pの刺激 黒い渦
杜 昌彦
『Pの刺激』
呪われた言葉が世界を染める。アヴァンポップな黙示録!
州辻郁夫、24歳。カルト集団自殺事件の生き残り。街は謎の断片群「PCz」に覆われていた。噂では13年前に失踪した無頼派、羅門生之助が作者だという。その孫の家出少女に振りまわされ、渦中へ巻きこまれる郁夫。大量の断片群に刻まれた魔術的想像力は、やがて現実を侵食しはじめ……。硬質な文体で描くダークファンタジー!(2005年)
『黒い渦』
あの渦からは逃れられない。愛と暴力の悪夢世界! 騒乱の夜から十年。かつて天才原型師と呼ばれた宍神は、企業の不祥事を隠蔽する「揉み消し屋」として日銭を稼いでいた。謎の女を救った夜から、黒い幻覚剤を巡る因縁に巻き込まれる。親しい人を「人形」に次々に殺され、過去と対峙した彼が見たものとは? 詩的な暴力描写、予想を裏切るめまぐるしい展開。ウルトラ・ヴァイオレンスな近未来ノワール!(1999年、2006年改稿)
読んだ人: 人格OverDrive 編集部