オールタイム・ベスト50
母なる夜
カート・ヴォネガット
第二次大戦中、ヒトラーの宣伝部員として対米ラジオ放送のキャンペーンを行なった新進劇作家、ハワード・W・キャンベル・ジュニア―はたして彼は、本当に母国アメリカの裏切り者だったのか?戦後15年を経て、ニューヨークはグリニッチヴィレジで隠遁生活を送るキャンベルの脳裡に去来するものは、真面目一方の会社人間の父、アルコール依存症の母、そして何よりも、美しい女優だった妻ヘルガへの想いであった…鬼才ヴォネガットが、たくまざるユーモアとシニカルなアイロニーに満ちたまなざしで、自伝の名を借りて描く、時代の趨勢に弄ばれた一人の知識人の内なる肖像。
読んだ人: 杜 昌彦
オリガ・モリソヴナの反語法
米原万里
1960年、チェコのプラハ・ソビエト学校に入った志摩は、舞踊教師オリガ・モリソヴナに魅了された。老女だが踊りは天才的。彼女が濁声で「美の極致!」と叫んだら、それは強烈な罵倒。だが、その行動には謎も多かった。あれから30数年、翻訳者となった志摩はモスクワに赴きオリガの半生を辿る。苛酷なスターリン時代を、伝説の踊子はどう生き抜いたのか。感動の長編小説。第13回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
インフィニット・ジェスト
デヴィッド・フォスター・ウォレス
過去に夢見られた未来。中毒者更生施設エネットハウスの住民と、その近所のエンフィールドテニスアカデミーの学生は、視聴者を耽溺させ発狂に至らしめる映画『インフィニット・ジェスト』、及びそれを生み出した家庭の歴史を巡る謀略に巻き込まれる……世界的ベストセラー、本邦初訳成る!
読んだ人: 杜 昌彦
長い別れ
レイモンド・チャンドラー
テリー・レノックスという酔っぱらい男と友人になった私立探偵フィリップ・マーロウは、頼まれて彼をメキシコに送り届けることになった。メキシコからロスに戻ったマーロウは警官に逮捕されてしまう。レノックスが妻殺しの容疑で警察に追われていたのだ。しかし、レノックスが罪を告白して自殺したと判明。マーロウのもとにはレノックスからの手紙が届いた。ギムレットを飲んですべて忘れてほしいという手紙だったが……。『大いなる眠り』、『さらば愛しき女よ』と並ぶチャンドラーの代表作。愛と友情を描いた不朽の名作を名手渾身の翻訳で!
読んだ人: 杜 昌彦
骨の袋
スティーヴン・キング
ある暑い夏の昼下がり、妻が死んだ。最愛の妻を襲った、あっけない、なんのへんてつもない死。切望していた子供を授からぬまま、遺されたベストセラー作家のわたし=マイク・ヌーナンは書けなくなり、メイン州デリーの自宅で一人、クロスワード・パズルに没頭する。最後に妻が買ったもの―妊娠検査薬。なぜ。澱のように溜まっていく疑い、夜毎の悪夢。作家は湖畔の別荘を思い出し、吸い寄せられるように、逃れるように妻との美しい思い出が宿る場所、“セーラは笑う”へと向かう。そこでわたしを待っていた一人の少女が、すべての運命を変えていく―。『グリーン・マイル』のスティーヴン・キングが圧倒的な筆力で描く、哀切なまでに美しい、重量級のゴースト・ラヴ・ストーリー。
読んだ人: 杜 昌彦
スキャナー・ダークリー
フィリップ・K・ディック
カリフォルニアのオレンジ郡保安官事務所麻薬課のおとり捜査官フレッドことボブ・アークターは、上司にも自分の仮の姿は教えず、秘密捜査を進めている。麻薬中毒者アークターとして、最近流通しはじめた物質Dはもちろん、ヘロイン、コカインなどの麻薬にふけりつつ、ヤク中仲間ふたりと同居していたのだ。だが、ある日、上司から麻薬密売人アークターの監視を命じられてしまうが……
読んだ人: 杜 昌彦
あの本は読まれているか
ラーラ・プレスコット
一冊の小説が世界を変える。それを、証明しなければ。冷戦下、CIAの女性たちがある小説を武器に超大国ソ連と戦う! 本国で出版契約金200万ドル(約2億円)のデビュー作。2020年海外ミステリ最高の話題作!! 冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。──そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な極秘任務に挑む女性たちを描く話題沸騰の傑作エンターテインメント!
読んだ人: 杜 昌彦
ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇
DBCピエール
コロンバイン高校の銃乱射事件からヒントを得たらしい高校での大量殺人を背景に、15歳の少年が国境を越えて逃げ回る。痛快無類な文体で、現代アメリカを黒い笑いの連打で駆け抜ける! 賛否両論まっぷたつ、ブッカー賞受賞の大問題作ついに刊行。
読んだ人: 杜 昌彦
JR
ウィリアム・ギャディス
11歳の少年JRが巨大コングロマリットを立ち上げて株式市場に参入、世界経済に大波乱を巻き起こす!? ミステリ作家・殊能将之も熱讃した、世界文学史上の超弩級最高傑作×爆笑必至の金融ブラックコメディがついに奇跡的邦訳!! 第27回全米図書賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
マザーレス・ブルックリン
ジョナサン・レセム
フランク・ミナは、ぼくらの兄貴で、父で、恩人で、ボスだった。孤児院暮らしのぼくらを雇い、稼がせ、成長させ、大人にしてくれた。そんなミナが、ゴミ箱のなかで血にまみれ…無免許探偵のぼくらは、殺されたミナのため、奥さんのため、仕事のため、ぼくらのため、町へ出る!言葉の魔術師の異名を取る著者が魅力を全開させた、超個性脈ハードボイルド。
読んだ人: 杜 昌彦
淡い焰
ウラジーミル・ナボコフ
詩から註釈へ、註釈から詩へ、註釈から註釈へ……。幾重もの層を渡り歩きながら奇妙な物語世界へといざなう、『ロリータ』と並び称されるナボコフの英語小説の傑作! 架空の詩人による九九九行の詩、架空の編者が添えたまえがき、註釈、索引。
読んだ人: 杜 昌彦
巨匠とマルガリータ
ミハイル・ブルガーコフ
焼けつくほどの異常な太陽に照らされた春のモスクワに、悪魔ヴォランドの一味が降臨し、作家協会議長ベルリオーズは彼の予告通りに首を切断される。やがて、町のアパートに棲みついた悪魔の面々は、不可思議な力を発揮してモスクワ中を恐怖に陥れていく。黒魔術のショー、しゃべる猫、偽のルーブル紙幣、裸の魔女、悪魔の大舞踏会。4日間の混乱ののち、多くの痕跡は炎に呑みこまれ、そして灰の中から〈巨匠〉の物語が奇跡のように蘇る……。SF、ミステリ、コミック、演劇、さまざまなジャンルの魅力が混淆するシュールでリアルな大長編。ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」にインスピレーションを与え、20世紀最高のロシア語文学と評される究極の奇想小説、全面改訳決定版!
読んだ人: 杜 昌彦
驚異の発明家(エンヂニア)の形見函
アレン・カーズワイル
骨董の”函”が語る自動人形発明家=フランス版平賀源内の数奇な運命! 1983年、パリの骨董品オークションで手に入れた、がらくたの詰まった函。それは産業革命以前のフランスで、自動人形の開発に心血をそそいだ天才発明家の「形見函」だった。10の仕切りのなかには、それぞれ、広口壜、鸚鵡貝、編笠茸、木偶人形、金言、胸赤鶸、時計、鈴、釦、そして最後のひとつは空のまま。フランス革命前夜、のちに発明家となる少年クロード・パージュの指が、ジュネーヴの外科医によって“故意”に切り落とされる事件が起こる。ここに端を発する彼の波瀾万丈の生涯について、函におさめられた10の想い出の品は、黙したまま雄弁と語りはじめるのだ――。18世紀という好奇心にみちた時代を鮮やかに再現し、世界の批評家たちを唸らせた驚異のデビュー作!
読んだ人: 杜 昌彦
赤い収穫
ダシール・ハメット
1929年の探偵小説。サム・スペードと並ぶ有名な探偵コンチネンタル・オプものの最初の長編であり、ハメットにとっても処女長編である。血のふきすさぶ壮絶なバイオレンス小説として、また黒澤明監督の時代劇映画『用心棒』の下案となったことでも有名。コンティネンタル探偵社サンフランシスコ支局員のコンチネンタル・オプ(本名は作中語られず不明である)が、とある鉱山町「パースンヴィル」俗称“ポイズンヴィル”にはこびる暴力に対し、毒をもって毒を制すのやり方で、それらを粉砕していく。オプの一人称で語られる。ハメットの得意とする叙情を排した乾いたスピーディな文体で物語は進められる。荒っぽいがリアルで味のある会話や人物描写は、探偵小説にリアリズムを持ち込んだものとも評され、ハードボイルド探偵小説の嚆矢として、多くの作家たちに影響を与えた。
読んだ人: 杜 昌彦
踊る黄金像
ドナルド・E・ウェストレイク
南米から密輸されてきた百万ドルの黄金像がちょっとした手違いから十五体の模造品にまぎれこみ、ニューヨーク中にばらまかれてしまった。一獲千金をめざす悪党たちが次から次へと登場し、一大争奪戦が始まるが――マルクス兄弟のパワーを凌ぐ究極のスラップスティック大作。
読んだ人: 杜 昌彦
うたかたの日々
ボリス・ヴィアン
純粋無垢、夢多き青年コランが出会った少女クロエは、肺の中に睡蓮が生長する奇病にかかっていた――パリの片隅で儚い青春の日々を送る若者たちの姿を、優しさと諧謔に満ちた笑いで描く、現代で最も悲痛な恋愛小説。39年の短い生涯を駆け抜け、様々なジャンルで活躍した天才ヴィアンの代表作。
読んだ人: 杜 昌彦
ガール・クレイジー
ジェン・バンブリィ
ふとしたことから、貴重な古本を手にしたジル。すぐに売りとばして中古バイクを買った彼女だが、それがあらゆるトラブルの始まりだった。かくして24時間以内に本を取り戻さなければならなくなった彼女の前に本を狙う奇妙な輩が次々と現れ、ジルのタフな旅は続く…タランティーノ世代によるキュートなハードボイルド。
読んだ人: 杜 昌彦
パターン・レコグニション
ウィリアム・ギブスン
ケイスは新製品の売れ行きを直感的に判断できる「クールハンター」。ファッション業界を中心とした企業から相談を受け、そのジャッジにより生計をたてている。彼女の興味の中心は“フッテージ”。“フッテージ”はネット上にランダムに流されている断片的な映像で、ストーリーもないが、抜群の完成度を誇る。クライアントからロンドンでの仕事を得たケイスは友人のフラットに居をかまえる。最終的なタスクは“フッテージ”の正体を探ること。広告界の新しい分野を切り開きたいというのが目的だ。半強制的に探索に協力することになったケイスは、タキという日本人が“フッテージ”の正体の一部を解読したという情報を仕入れ、日本へと旅立った…。サイバーパンクの王者ギブスンが、現実世界を舞台に描いたスピード感あふれる極上のハイブリッド・エンタテインメント。
読んだ人: 杜 昌彦
ドゥームズデイ・ブック
コニー・ウィリス
14世紀にタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生キヴリンを待ちうける恐るべき試練とは? 歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代をじかに観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の史学生キヴリンは実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった……はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか? ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞したタイムトラベルSF。
読んだ人: 杜 昌彦
ボトムズ
ジョー・R・ランズデール
80歳を過ぎた今、70年前の夏の出来事を思い出す―11歳のぼくは暗い森に迷い込んだ。そこで出会ったのは伝説の怪物“ゴート・マン”。必死に逃げて河岸に辿りついたけれど、そこにも悪夢の光景が。体じゅうを切り裂かれた、黒人女性の全裸死体が木にぶらさがっていたんだ。ぼくは親には黙って殺人鬼の正体を調べようとするけど…恐怖と立ち向かう少年の日々を描き出す、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
重力が衰えるとき
ジョージ・アレック・エフィンジャー
おれの名はマリード。アラブの犯罪都市ブーダイーンの一匹狼。小づかい稼ぎに探偵仕事も引きうける。今日もロシア人の男から、行方不明の息子を捜せという依頼。それなのに、依頼人が目の前で撃ち殺されちまった!おまけになじみの性転換娼婦の失踪をきっかけに、血まなぐさい風が吹いてきた。街の秩序を脅かす犯人をつかまえなければ、おれも死人の仲間入りか。顔役に命じられて調査に乗りだしたものの、脳みそを改造した敵は、あっさりしっぽを出しちゃくれない。…実力派作家が近未来イスラーム世界を舞台に描く電脳ハードボイルドSF。
読んだ人: 杜 昌彦
メイスン&ディクスン
トマス・ピンチョン
世は植民地時代。領地紛争解決のため、天文学者チャールズ・メイスンと測量士にしてアマチュア天文学者のジェレマイア・ディクスンは大地に境界を引くべく新大陸に派遣される。後世にその名を残す境界線、すなわち、のちにアメリカを南部と北部に分けることとなるメイスン‐ディクスン線を引くために―。アメリカの誕生を告げる測量道中膝栗毛の始まり始まり。驚愕と茫然が織りなす、飛躍に満ちた文学の冒険。ノーベル文学賞候補常連の世界的作家の新たな代表作が、名翻訳家の手によりついに邦訳。
読んだ人: 杜 昌彦
低地
ジュンパ・ラヒリ
若くして命を落とした弟。身重の妻と結ばれた兄。過激な革命運動のさなか、両親と身重の妻の眼前、カルカッタの低湿地で射殺された弟。遺された若い妻をアメリカに連れ帰った学究肌の兄。仲睦まじかった兄弟は二十代半ばで生死を分かち、喪失を抱えた男女は、アメリカで新しい家族として歩みだす――。着想から16年、両大陸を舞台に繰り広げられる波乱の家族史。
読んだ人: 杜 昌彦
キャッチャー・イン・ザ・ライ
J・D・サリンジャー
高校を放校となった17歳の少年ホールデン・コールフィールドがクリスマス前のニューヨークの街をめぐる物語。口語的な文体で社会の欺瞞に対し鬱屈を投げかける内容は時代を超えて若者の共感を呼び、青春小説の古典的名作として世界中で読み継がれている。
読んだ人: 杜 昌彦
ソラリス
スタニスワフ・レム
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。
読んだ人: 杜 昌彦
アーダ
ウラジーミル・ナボコフ
美しい11歳の従姉妹アーダに出会ってまもなく、14歳のヴァンは彼女の虜となった。青白い肌の博学なアーダと知的なヴァン。一族の田舎屋敷で、愛欲まみれの恋を繰り広げる二人はしかし、ある事情により引き裂かれる。著者の想像力と言語遊戯が結実する傑作長篇!
読んだ人: 杜 昌彦
2666
ロベルト・ボラーニョ
謎の作家アルチンボルディを研究する四人の文学教授、メキシコ北部の国境の街に暮らすチリ人哲学教授、ボクシングの試合を取材するアフリカ系アメリカ人記者、女性連続殺人事件を追う捜査官たち……彼らが行き着く先は? そしてアルチンボルディの正体とは? 2008年度全米批評家協会賞受賞。
読んだ人: 杜 昌彦
フェルマータ
ニコルソン・ベイカー
Hで愉快な電話小説『もしもし』と、極微的身の回り品考察小説『中二階』で読者の腹をよじらせた著者が、今度はどんな手で面白がらせてくれるのかと思えば、なんとこれが、時間を止めて女性の服を脱がせる特技をもつ男の自伝(!?)である。もちろんあの桁外れの想像力と微細な描写も健在。
読んだ人: 杜 昌彦
ベティ・ブルー―愛と激情の日々
フィリップ・ジャン
ベティとぼくは、出会った日から毎晩セックスした。ベティは野性味あふれる魅力的な娘で、海辺のバンガローで単調な生活を送っていたぼくの人生を一変させた。…時として激しすぎる彼女の性格が至るところで衝突をひきおこしたが、ぼくらの愛は深まった。ある日彼女は偶然に何冊ものぼくのノートをみつけ、ぼくを作家にしようと思いたつ。タイプに打ち直しては出版社へ送りつづけ返事を待つ日々のなかで、彼女は次第に精神的トラブルにおちいってゆく…。狂気の愛を描く新しい世代の青春小説。
読んだ人: 杜 昌彦
郵便配達は二度ベルを鳴らす
ジェームズ・M・ケイン
街道沿いのレストランで働き始めた俺は、ギリシャ人店主の美しい妻コーラに心を奪われてしまった。やがていい仲になった彼女と共謀して店主殺害を計画するが……。一人称の語りの迫力、その裏に秘められた繊細さや社会性が注目され、近年「ノワール」の傑作として注目される20世紀アメリカ犯罪小説の金字塔!
読んだ人: 杜 昌彦
ツ、イ、ラ、ク
姫野カオルコ
地方。小さな街。閉鎖的なあの空気。渡り廊下。放課後。痛いほどリアルに甦るまっしぐらな日々--。給湯室。会議。パーテーション。異動。消し去れない痛みを胸に隠す大人たちへ贈る、かつてなかったピュアロマン。恋とは、「墜ちる」もの。
読んだ人: 杜 昌彦
私の男
桜庭一樹
私は腐野花(くさりの・はな)。着慣れない安いスーツを身に纏ってもどこか優雅で惨めで、落ちぶれた貴族のようなこの男の名は淳悟(じゅんご)。私の男、そして私の養父だ。突然、孤児となった十歳の私を、二十五歳の淳悟が引き取り、海のみえる小さな街で私たちは親子となった。物語は、アルバムを逆からめくるように、花の結婚から二人の過去へと遡ってゆく。空虚を抱え、愛に飢えた親子が冒した禁忌、許されない愛と性の日々を、圧倒的な筆力で描く直木賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
オンリー・フォワード
マイケル・マーシャル・スミス
スタークは、未来都市のトラブルシューター。彼だけが、ある特殊な能力を備えていた。あるとき彼は、誘拐された重要人物を探し出すよう依頼される。しかし、事件は単なる捜索だけでは終わらず、スタークは次々と新たなトラブルに巻き込まれていく。だが、スタークにもうあと戻りは許されない。オンリー・フォワード―すべてを終結させるために、ただ前進するしかないのだ。2001年フィリップ・K・ディック賞受賞作。
読んだ人: 杜 昌彦
魔法
クリストファー・プリースト
爆弾テロに巻きこまれ、記憶を失った報道カメラマンのグレイ。彼のもとへ、かつての恋人を名乗るスーザンが訪ねてきた。彼女との再会をきっかけに、グレイは徐々に記憶を取り戻したかに思われたのだが…南仏とイギリスを舞台に展開するラブ・ストーリーは、穏やかな幕開けから一転、読者の眼前にめくるめく驚愕の異世界を現出させる!奇才プリーストが語り(=騙り)の技巧を遺憾なく発揮して描いた珠玉の幻想小説。
読んだ人: 杜 昌彦
夏の闇
開高健
ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひたすら眠り、貪欲に食い、繰返し性に溺れる嫌悪の日々をおくる……が、ある朝、女と別れ、ヴェトナムの戦場に回帰する。“徒労、倦怠、焦躁と殺戮”という暗く抜け道のない現代にあって、精神的混迷に灯を探し求め、絶望の淵にあえぐ現代人の《魂の地獄と救済》を描き、著者自らが第二の処女作とする純文学長編。
読んだ人: 杜 昌彦
ウォーターランド
グレアム・スウィフト
妻が引き起こした嬰児誘拐事件によって退職を迫られている歴史教師が、生徒たちに、生まれ故郷フェンズについて語りはじめる。イングランド東部のこの沼沢地に刻まれた人と水との闘いの歴史、父方・母方の祖先のこと、少女だった妻との見境ない恋、その思いがけない波紋…。地霊にみちた水郷を舞台に、人間の精神の地下風景を圧倒的筆力で描き出す、ブッカー賞受賞作家の最高傑作。
読んだ人: 杜 昌彦
人喰い鬼のお愉しみ
ダニエル・ペナック
パリのデパートに勤めるマロセーヌの仕事は苦情処理係。客の前で上司に叱られ派手に泣いてみせるという毎日だ。ところがそのデパートで謎の連続爆破事件が起こり、彼に疑いの目が向けられる。かくてはならじと捜査に乗り出すのだが。ベストセラーの痛快コミック・ミステリ。
読んだ人: 杜 昌彦
ガラスの鍵
ダシール・ハメット
賭博師ボーモントは友人の実業家であり市政の黒幕・マドヴィッグに、次の選挙で地元の上院議員を後押しすると打ち明けられる。その矢先、上院議員の息子が殺され、マドヴィッグの犯行を匂わせる手紙が関係者に届けられる。友人を窮地から救うためボーモントは事件の解明に乗り出す。
読んだ人: 杜 昌彦
冬の日誌
ポール・オースター
いま語れ、手遅れにならないうちに。肉体と感覚をめぐる、あたたかな回想録。幼いころの大けが。性の目覚め。パリでの貧乏暮らし。妻との出会い。自動車事故。暮らしてきた家々。記憶に残る母の姿と、その突然の死。「人生の冬」にさしかかった著者が、若き日の自分への共感と同情、そしていくぶんの羨望をもって綴る「ある身体の物語」。現代米文学を代表する作家による、率直で心に沁みるメモワール。
読んだ人: 杜 昌彦
イリワッカー
ピーター・ケアリー
「イリワッカー」とはオーストラリア口語で「プロのペテン師」のことを指す。当年139歳のおそろしく元気なペテン師が語る滑稽にして感動的なホラ話の中に、親子三代の確執とあの大陸の歴史が浮かび上がる。いま最も生きのいいブッカー賞作家による現代小説の壮大なる傑作、ついに邦訳なる!
読んだ人: 杜 昌彦
幻影の書
ポール・オースター
その男は死んでいたはずだった──。何十年も前、忽然と映画界から姿を消した監督にして俳優のへクター・マン。その妻からの手紙に「私」はとまどう。自身の妻子を飛行機事故で喪い、絶望の淵にあった「私」を救った無声映画こそが彼の作品だったのだから……。へクターは果たして生きているのか。そして、彼が消し去ろうとしている作品とは。深い感動を呼ぶ、著者の新たなる代表作。
読んだ人: 杜 昌彦
また会う日まで
ジョン・アーヴィング
父ウィリアムは教会のオルガニスト。体じゅうにバッハやヘンデルの楽譜を彫りこんだ刺青コレクターでもあり、弾き応えのあるオルガンと腕のいい彫師に吸い寄せられるように、北欧の港町を転々としていた。母アリスは、幼いジャックの手をひいて、逃げたウィリアムの後を追う。コペンハーゲン、ストックホルム、オスロ、ヘルシンキ、アムステルダム…。街々の教会信徒と刺青師のネットワークに助けられ、二人は旅をつづけるが、ついに断念。トロントに落ち着く。父を知らないジャックは、「女の子なら安心」という母の信念のもと元女子校に入学し、年上の女たちを(心ならずも)幻惑しながら大きくなってゆく―。現代アメリカ文学最強のストーリーテラーによる怒涛の大長篇。
読んだ人: 杜 昌彦
くそったれ!少年時代
チャールズ・ブコウスキー
わたしはみんなが嫌いだった。学校に友だちは一人もいなかったし、欲しいとも思わなかった。1930年代、ロサンジェルス。大恐慌に見舞われ失業者があふれる下町を舞台に、少年ハンクのハードでパンクな青春を描く。父親の虐待に対する激しい怒り、容貌への強烈な劣等感に苛まれながら多感な思春期を送った著者の自伝的長編。『詩人と女たち』の後、「この時代に辿り着くには時間がかかった。わたしはただタイプライターの前に座ってじっと待った」、そして一気に書き上げられた最高傑作。
読んだ人: 杜 昌彦
黒い時計の旅
スティーヴ・エリクソン
仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら…。ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え、現実の二十世紀と幻のそれとの複雑なからみ合いを瞠目すべき幻視力で描き出した傑作。
読んだ人: 杜 昌彦
娘と私
獅子文六
文豪、獅子文六が「人間」としても「作家」としても激動の時を過ごした昭和初期から戦後を回想し、深い家族愛から綴られた自伝小説の傑作。亡き妻に捧げられたこの作品は、母を失った病弱の愛娘の成長を見届ける父親としての眼差し、作家としての苦難の時代を支え、継娘を育てあげ世を去った妻への愛、そして、それら全てを受け止める一人の人間の大きな物語である。
読んだ人: 杜 昌彦
百年の孤独
ガブリエル・ガルシア=マルケス
蜃気楼の村マコンド。その草創、隆盛、衰退、ついには廃墟と化すまでのめくるめく百年を通じて、村の開拓者一族ブエンディア家の、一人からまた一人へと受け継がれる運命にあった底なしの孤独は、絶望と野望、苦悶と悦楽、現実と幻想、死と生、すなわち人間であることの葛藤をことごとく呑み尽しながら…。20世紀が生んだ、物語の豊潤な奇蹟。
読んだ人: 杜 昌彦
LAヴァイス
トマス・ピンチョン
目覚めればそこに死体。LAPDの警官の群れ。顔見知りの刑事。んで―おいおいオレが逮捕なの?60年代も終わった直後、街にサーフ・ロックが鳴り響くなか、ロスのラリッ放し私立探偵ドックが巻き込まれた殺人事件。かつて愛した女の面影を胸に、調査を進めるドックが彷徨うは怪しげな土地開発の闇に拉致とドラッグ、洗脳の影。しかも、えーと、“黄金の牙”って?なに?ドックが辿り着いた真実とは―。
読んだ人: 杜 昌彦
西瓜糖の日々
リチャード・ブローティガン
コミューン的な場所、アイデス“iDeath”と“忘れられた世界”、そして私たちとおんなじ言葉を話すことができる虎たち。西瓜糖の甘くて残酷な世界が夢見る幸福とは何だろうか…。澄明で静かな西瓜糖世界の人々の平和・愛・暴力・流血を描き、現代社会をあざやかに映して若者たちを熱狂させた詩的幻想小説。ブローティガンの代表作。
読んだ人: 杜 昌彦
ヴァリス
フィリップ・K・ディック
友人グロリアの自殺をきっかけにして、作家ホースラヴァー・ファットの日常は狂い始める。麻薬におぼれ、孤独に落ち込むファットは、ピンク色の光線を脳内に照射され、ある重要な情報を知った。それを神の啓示と捉えた彼は、日誌に記録し友人らと神学談義に耽るようになる。さらに自らの妄想と一致する謎めいた映画『ヴァリス』に出会ったファットは……。ディック自身の神秘体験をもとに書かれた最大の問題作。
読んだ人: 杜 昌彦