虐殺器官
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虐殺器官

9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?現代の罪と罰を描破する、ゼロ年代最高のフィクション。


¥594
早川書房 2010年, Kindle版 432頁
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著者: 伊藤計劃

(1974年10月14日 - 2009年3月20日)日本の作家。武蔵野美術大学美術学部映像科卒業。2007年に『虐殺器官』で作家デビューしてからわずか2年ほどで早逝したが、その処女作はゼロ年代日本SFのベストに挙げられている。

伊藤計劃の本
2020.
09.19Sat

虐殺器官

これだけ目まぐるしく提示されていく新たなものの見方に対して、ほとんど抵抗を感じることなく受け入れさせられてしまった。そのたびに私は、自分の考えが上書きされていくのを味わった。もちろんこのことは私自身が、反証できるだけの頭脳を持ち合わせていないため、ということはおおいに言えるとは思う。それでもやはり、この「考え方は際限なく更新されていく」という事実は、ひとつの救いにはなるまいか。
 結局人はどこまで考えることができ(あるいは他人の考えを受け入れることができ)、そこにピリオドを打つかどうか、がその人の限界であり、それが自己というものを規定しているにすぎない。つまるところ、これは個人の捉え方次第で、気分はハイにもローにもなり得るということだ。作中でも主人公は(ハイにこそなりはしないものの)、他者のイデオロギーに触れるにつけ、その心の針はミドルとローを行き来する。
 上塗りされていく思想。終着のない善悪の彼岸。人類とは、そのようなイタチごっこを繰り返す、哀しく、そして憎らしく、おぞましい、それ故にどうしようもなく同情を誘う生き物ではないか。虐殺の王であるはずのジョン・ポールの思想でさえ、狂人のそれではないということが次第に明らかになる、そのことがさらに物語の絶望を色濃いものにしている。(私自身はそのことを本当に「絶望」だとは思わなかったのだが……。あくまで物語としての「絶望感」の話である)
 そしてひとつ、これまで私が読んできたディストピア小説を通して、ある共通項を見つけたのだが、それは人類の頂点に君臨する者たちや、個人のイデオロギーを世界規模に体現し、支配する人間一人とっても、そこには崇高とさえいえる価値観、「すべての人間にとっての理想的な社会の構築」という飽くなき探求心に根差したものであるという点だ。そう、「物語」の世界においては。これは、私たちが住んでいる「現実」の世界に住む悪党どもには、まるで欠落している考え方だな、と思い、それがリアルな悪党への痛烈な皮肉となっていて、笑いが止まらない。……それともなにか。私が預かり知らぬだけで、その現実の悪党どもにも、人類のためを思った理念があるのだろうか。だとすると、正直私は、その内容次第では抗えなくなるかもしれない。私はどうやら、「理念なき悪党」「私欲に溺れた悪党」が嫌いなのであって、同情できる動機、共感できる動機をもったある意味で「人間らしさ」さえ感じられれば、同調してしまうのかもしれない。
 まあそんなことで思い悩む必要もなく、ただ流れに飲み込まれていくしかない大衆の一部であるだけの私なのだから、案じるだけ杞憂というものだ。


趣味でしかものを書いたことのない、名無しの素人エッセイスト(自称)。 この度、どういうわけか当サイト「人格OverDrive」の主宰者である杜 昌彦氏に「掲載してみませんか」とお誘いいただき、こちらに寄稿することに。 29年間、苦しそうなこと、辛そうなことから逃亡している人生。フリーター。 寄稿するジャンルは妄想エッセイ。虚実交えた物語を書いていきたいと思います。
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