ガルヴェイアスの犬
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ガルヴェイアスの

ある日、ポルトガルの小さな村に、巨大な物体が落ちてきた。異様な匂いを放つその物体のことを、人々はやがて忘れてしまったが、犬たちだけは覚えていた――。村人たちの無数の物語が織り成す、にぎやかで風変わりな黙示録。デビュー長篇でサラマーゴ賞を受賞し「恐るべき新人」と絶賛された作家の代表作。オセアノス賞受賞。


¥2,640
新潮社 2018年, 単行本 288頁
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読んだ人:杜 昌彦

ガルヴェイアスの犬

宮城県の田舎から都会に出てきた大学生が出身地を訊かれて正直に答えればぽかんとされるだけだとわかっているし説明もめんどくさいので不本意ながら子どもの頃に三時間かけて電車やバスを乗り継いで何度か遊びに行っただけで正直よく知らないのに仙台と嘘をつくような喩えるならそういう感じの村らしいですガルヴェイアス滅びてもよそのだれも気づかないようなわずか数行の記事にすらならないようなこの田舎になんだかよくわからない邪悪なものが落ちてきてその夜を境に村中がどこもかしこも強烈に臭くなる隕石なのか謎の宇宙生命体なのか放射性物質でも積んだ軍事衛星なのかはたまた悪魔かなにが邪悪ってとにかく臭いんですねたいした事件のない退屈な村なのでその夜はみんなびっくりしてわらわらと寝間着姿で表に飛び出したりいったいなにが起きたのと話し合ったりそのせいでつまらない不倫が露呈したりするんだけど考えたところでわからないしどうにもならないしなにせだれも知らない田舎テレビで政治家が記者会見をしたり都会から軍隊がやってきたりマスコミが殺到して国中の注目を浴びたりするわけでもないのでなんとなくそのまま忘れ去られるというか本当は忘れようにも無視できない悪臭なのだけれども消臭も万策尽きたし話題にしたところでどうにもならないし日常生活をつづけなければならないから無視するしかないんですよあまりの臭さに村人たちはみんなおかしくなる村中の食卓と村中の男にとって唯一の娯楽ともいうべき娼館兼パン屋のパンがまずくなるよその女に夫を盗られたおばちゃんは冷凍して溜め込んでおいた糞でキャットファイトを演じる実家暮らし守衛バイトの若者はカービン銃で娼婦を誤射するわアル中の神父はプレッシャーでげろを吐くわしまいには雨乞いの儀式と称して村民みんなで強烈に臭い粥を食べあんのじょう全員が腹を壊してひと晩苦しみあたかも村中で陣痛を共有したかのように翌朝臭くない赤ん坊が生まれる赤ん坊のにおいしかしない赤ん坊なんか見せられた日にはそれまでないかのようなふりをしてきた悪臭にいやでも気づかされおいやっぱりおかしいだろ普通じゃねえだろこの臭いはとなって村中がついに我慢ならなくなり邪悪な物体にむかって歩きはじめる詰め寄ったところでどうなるんだよとは思うけれどもまぁ概ねそういう話のようでしたなにしろ異国の人名に親しみがないしおれは生まれてこのかた仙台しか知らないんで仙台よりも田舎というのがうまく想像できないしもっといえばよその土地には関心もないので巧みな文章には感心したのだけれど次から次へとおかしな村人が登場してもだれがだれやらいまひとつ身の入らない読書でございましたはげしい痛みってのは個人的なもんだという指摘はなるほどそうかもと思いました流された結果の痛みであってもそれは個人的な体験になるそこから生まれた動きは政治的になり得るのにね

(2018年09月16日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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ホセ・ルイス・ペイショット
1974年9月4日 -

2000年『無のまなざし』でサラマーゴ賞を受賞。『ガルヴェイアスの犬』でオセアノス賞を受賞。作品はこれまで20以上の言語に翻訳されている。現代ポルトガル文学を代表する作家の一人。

ホセ・ルイス・ペイショットの本