ガルヴェイアスの犬
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ガルヴェイアスの犬

ある日、ポルトガルの小さな村に、巨大な物体が落ちてきた。異様な匂いを放つその物体のことを、人々はやがて忘れてしまったが、犬たちだけは覚えていた――。村人たちの無数の物語が織り成す、にぎやかで風変わりな黙示録。デビュー長篇でサラマーゴ賞を受賞し「恐るべき新人」と絶賛された作家の代表作。オセアノス賞受賞。

著者:ホセ・ルイス・ペイショット

(1974年9月4日 - )2000年『無のまなざし』でサラマーゴ賞を受賞。『ガルヴェイアスの犬』でオセアノス賞を受賞。作品はこれまで20以上の言語に翻訳されている。現代ポルトガル文学を代表する作家の一人。

ホセ・ルイス・ペイショットの本
2018.
09.16Sun

ガルヴェイアスの犬

宮城県の田舎から都会に出てきた大学生が出身地を訊かれて、正直に答えればぽかんとされるだけだとわかっているし、説明もめんどくさいので不本意ながら、子どもの頃に三時間かけて電車やバスを乗り継いで何度か遊びに行っただけで、正直よく知らないのに仙台と嘘をつくような、喩えるならそういう感じの村らしいです、ガルヴェイアス。滅びてもよそのだれも気づかないような、わずか数行の記事にすらならないようなこの田舎に、なんだかよくわからない邪悪なものが落ちてきて、その夜を境に村中がどこもかしこも強烈に臭くなる。隕石なのか謎の宇宙生命体なのか、放射性物質でも積んだ軍事衛星なのかはたまた悪魔か、なにが邪悪ってとにかく臭いんですね。たいした事件のない退屈な村なので、その夜はみんなびっくりしてわらわらと寝間着姿で表に飛び出したり、いったいなにが起きたのと話し合ったり、そのせいでつまらない不倫が露呈したりするんだけど、考えたところでわからないしどうにもならないし、なにせだれも知らない田舎、テレビで政治家が記者会見をしたり都会から軍隊がやってきたりマスコミが殺到して国中の注目を浴びたりするわけでもないので、なんとなくそのまま忘れ去られる。というか本当は忘れようにも無視できない悪臭なのだけれども、消臭も万策尽きたし話題にしたところでどうにもならないし日常生活をつづけなければならないから、無視するしかないんですよ。あまりの臭さに村人たちはみんなおかしくなる。村中の食卓と村中の男にとって唯一の娯楽ともいうべき娼館兼パン屋のパンがまずくなる。よその女に夫を盗られたおばちゃんは冷凍して溜め込んでおいた糞でキャットファイトを演じる。実家暮らし守衛バイトの若者はカービン銃で娼婦を誤射するわ、アル中の神父はプレッシャーでげろを吐くわ。しまいには雨乞いの儀式と称して村民みんなで強烈に臭い粥を食べ、あんのじょう全員が腹を壊してひと晩苦しみ、あたかも村中で陣痛を共有したかのように翌朝、臭くない赤ん坊が生まれる。赤ん坊のにおいしかしない赤ん坊なんか見せられた日には、それまでないかのようなふりをしてきた悪臭にいやでも気づかされ、おい、やっぱりおかしいだろ普通じゃねえだろこの臭いは、となって村中がついに我慢ならなくなり、邪悪な物体にむかって歩きはじめる。詰め寄ったところでどうなるんだよとは思うけれども、まぁ概ねそういう話のようでした。なにしろ異国の人名に親しみがないし、おれは生まれてこのかた仙台しか知らないんで仙台よりも田舎というのがうまく想像できないし、もっといえばよその土地には関心もないので、巧みな文章には感心したのだけれど、次から次へとおかしな村人が登場してもだれがだれやら、いまひとつ身の入らない読書でございました。はげしい痛みってのは個人的なもんだ、という指摘はなるほどそうかもと思いました。流された結果の痛みであってもそれは個人的な体験になる、そこから生まれた動きは政治的になり得るのにね。


杜 昌彦

(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。