D.I.Y.出版日誌

連載第44回: その店にしかない言葉

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
03.25Sat

その店にしかない言葉

われわれはひとりひとり異なる個人です生きて生活する以上それぞれの事情がありますその多様性を恥ずべき誤ったもの排除されるべきものとする論理がこの国ではまかり通っていますあるひとの言葉を借りればそれがニーズであり従わないものは淘汰されてしかるべきなのだそうですいまわたしが書いているこのような文章はいずれ取り締まられるかもしれません。 「道徳による個人への暴力が正義とされる時代に何を書いて出版し読むことができるのでしょうかそれぞれの事情に寄りそう言葉をだれもが自由に得られるよう出版したい当レーベルが独立系という手段を選択したのはそのためです今後は機能を少しずつ出版社に近づけていく予定ですさしあたり ISBN と JAN を取得する手続を進めています認可されれば独自のレーベル名で印刷版を出版できます電子版には ISBN がなくても流通の制約は生じませんあえて取得するならストアごとに別の ISBN が必要となります知るかぎり日本の出版社は電子版に ISBN を付与しません

ISBNと JANがなくても Amazon などで販売することは可能ですただし流通に制限が生じますし電子版に紐付けられませんCreateSpace で割り振られる無料の ISBN を利用すれば出版社名が CreateSpace になり洋書扱いになりますCreateSpace は日本語に対応していないため PDF の版下を逆順にしなければなりませんし表表紙にはバーコードが印刷され背表紙が商品画像として表示されLook inside には結末が表示されますCreateSpace で制作すれば KDP と異なり商品と著者の紹介を区別して表示できますが記載した英文は紐付けた電子版にも表示されるためチグハグな印象が生じますさらに海外の受注生産であるため入荷未定と表示され国内では売れ行きが見込めませんPOD の代行業者を使えばそれらの問題は解消しますがあいだに業者を挟めばそれだけ作品に対するコントロールが損なわれます多ストア展開の経験から読者とのあいだに挟む業者はひとつに絞るのが理想だと考えますそしてその業者は集客力があり購入への障壁が低く著者・出版者の手間が最小限で済むストアでなければなりません

オンデマンドのみ BCCKS のような業者に発注することも考えましたその場合は大別してふたつの方法がありますAmazon 経由で受注し外部業者に発注して届いた商品を手作業で梱包し送付するのがひとつ次にあらかじめ在庫を確保して Amazon に託す方法ですいずれも手間時間コストリスクの面で実現性に乏しく思えます著者でもある個人が生活の傍らで行うには手には余りますそもそもそこまでして売りたい本があるのか目の前に人生であと一冊しか読めないひとがいて選ぶ責任があれば自著は候補に入れませんしかし家内制手工業のような単純にして最小のスケール感で出版社と書店をやれたらすでに述べたように道徳ニーズの制約から逃れて読書の自由や豊かさが確保できるはずです変なレコードばかり揃えた中古盤屋が独自レーベルで聞いたことのないバンドのカセットテープを扱っていたらわたしは買いますそこでしか聴けない音楽だからですそれはわたしのための音楽かもしれませんそういう出版をやりたいのです


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。