われわれはひとりひとり異なる個人です。 生きて生活する以上それぞれの事情があります。 その多様性を恥ずべき 「誤った」 もの、 排除されるべきものとする論理がこの国ではまかり通っています。 あるひとの言葉を借りればそれが 「ニーズ」 であり、 従わないものは 「淘汰」 されてしかるべきなのだそうです。 いまわたしが書いているこのような文章はいずれ取り締まられるかもしれません。 「道徳」 による個人への暴力が正義とされる時代に、 何を書いて出版し読むことができるのでしょうか。 それぞれの事情に寄りそう言葉を、 だれもが自由に得られるよう出版したい。 当レーベルが独立系という手段を選択したのはそのためです。 今後は機能を少しずつ出版社に近づけていく予定です。 さしあたり ISBN と JAN を取得する手続を進めています。 認可されれば独自のレーベル名で印刷版を出版できます。 電子版には ISBN がなくても流通の制約は生じません。 あえて取得するならストアごとに別の ISBN が必要となります。 知るかぎり日本の出版社は電子版に ISBN を付与しません。
ISBN (と JAN) がなくても Amazon などで販売することは可能です。 ただし流通に制限が生じますし電子版に紐付けられません。 CreateSpace で割り振られる無料の ISBN を利用すれば、 出版社名が CreateSpace になり洋書扱いになります。 CreateSpace は日本語に対応していないため PDF の版下を逆順にしなければなりませんし、 表表紙にはバーコードが印刷され、 背表紙が商品画像として表示され、 Look inside には結末が表示されます。 CreateSpace で制作すれば KDP と異なり、 商品と著者の紹介を区別して表示できますが、 記載した英文は紐付けた電子版にも表示されるためチグハグな印象が生じます。 さらに海外の受注生産であるため入荷未定と表示され、 国内では売れ行きが見込めません。 POD の代行業者を使えばそれらの問題は解消しますが、 あいだに業者を挟めばそれだけ作品に対するコントロールが損なわれます。 多ストア展開の経験から、 読者とのあいだに挟む業者はひとつに絞るのが理想だと考えます。 そしてその業者は集客力があり、 購入への障壁が低く、 著者・出版者の手間が最小限で済むストアでなければなりません。
オンデマンドのみ BCCKS のような業者に発注することも考えました。 その場合は大別してふたつの方法があります。 Amazon 経由で受注し、 外部業者に発注して、 届いた商品を手作業で梱包し送付するのがひとつ。 次にあらかじめ在庫を確保して Amazon に託す方法です。 いずれも手間、 時間、 コスト、 リスクの面で実現性に乏しく思えます。 著者でもある個人が生活の傍らで行うには手には余ります。 そもそも、 そこまでして売りたい本があるのか。 目の前に人生であと一冊しか読めないひとがいて、 選ぶ責任があれば自著は候補に入れません。 しかし家内制手工業のような単純にして最小のスケール感で出版社と書店をやれたら、 すでに述べたように 「道徳」 や 「ニーズ」 の制約から逃れて、 読書の自由や豊かさが確保できるはずです。 変なレコードばかり揃えた中古盤屋が、 独自レーベルで聞いたことのないバンドのカセットテープを扱っていたら、 わたしは買います。 そこでしか聴けない音楽だからです。 それはわたしのための音楽かもしれません。 そういう出版をやりたいのです。