イシュマエル・ノヴォーク

コイディシュ・ブッフ

謎の作家、イシュマエル・ノヴォーク氏の世界。

第1話: イディッシュ語新聞ができるまで

シャバタイ・ギンプルは二五歳になったばかりの青年だが、まめまめしい性格で仕事ぶりは既に老練の域に達している。

第2話: コーヒーとサッカリン

 カフェにやってくるなり彼女はコーヒーを注文し、折り畳んでいた新聞を広げた。  新聞は〈フォアヴェルツ〉、ぼくは、この新聞について知っている。  デスクで年寄りみたいに身体を丸めてタイプするギンプルほどでないけれど。   […]

第3話: ベルゲンソンよりギンプルへ

 親愛なるシャバタイ・ギンプル  ヨハネスブルグの生活、なにより商売が順調だ。順調極まりないとすら言える。かつて、君は反対したけれど、今でも反対しているのかな? ここは素晴らしい。ワルシャワに比べれば遥かに暑いが、それで […]

第4話: カウボーイ・イン・ニューヨーク

 ラフ・ベルは農作業用の真っ赤なトラックを運転してテキサス州はエルパソからニューヨーク、サウス・ブロンクス地区にやってきた。ラフはトラックの中で真っ黒い上下に着替え、靴を探したが、見つからないので車輪がついたブーツのまま […]

第5話: バップ・カバラ

 サウス・ブロンクス地区の〈骨折アパート〉と呼ばれる前世紀に建てられたアパートの一室でイツホク・フェルドマンは苦虫を噛み潰したような顔で紙巻煙草を吸っている。やがて、煙草を吸い終えたフェルドマンは鞄に譜面を放り込み、アル […]

第6話: ボタンかがり

 ザベルのカフェに来るのは好き。  料理は凄く美味しいわけじゃないし、コーヒーがぬるくなっているのも、三回の注文のうち、二回ぐらいはだけど。それでも好き。  カフェに来るのはポーランド、リトアニア、ハンガリー、ウクライナ […]

第7話: プレイズ・ドミノ

 サウス・ブロンクス地区にある〈骨折アパート〉の中庭には、いつ、誰が植えたのか住人も知らないシュロが生えている。おそらくは、どこかで黒い果実をついばんだ野鳥が糞と一緒に運んできたのだろう。  中庭に置かれたテーブル、テー […]

第8話: クーズーの角

 あたしと、目の前に座っているシャルロットは全然違う。あたしはワルシャワにあった、小さくて黒ずんだ家で生まれて、彼女は南仏のゆったりした、多分、お城みたいな家。そんなあたしたちがどうしてカフェで向かい合って座って、こうや […]

第9話: 摩天楼のシュテートル

 一九三九年の一〇月の夜。私と二つ年下の弟、ユゼフが部屋で眠っているとドアが激しく叩かれた。誰がドアを叩いているかは顔を見なくてもわかった。私たちは上着を着ると窓を開け、窓枠を大道芸人のようにつたって地面に下りると走り出 […]

第10話: 小麦人形

 アスネの額から汗が滴り落ち、六芒星の汗が生地に練り込まれた。その様子を後ろで見ていた亭主のベリルは綺麗に剃られた口髭を一撫でするなり 「ネショメーニュ(わがたましい)、ご機嫌いかが?」と言ってアスネの腰を人差し指で突い […]