D.I.Y.出版日誌

連載第344回: エクソダス

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2022.
11.08Tue

エクソダス

衛星通信機器を一方の勢力にあたかも慈善であるかのように格安で提供し使いつづけるための大金をあとから要求するのは商売としては当然だけれども武器商人みたいに見えるアパルトヘイトで成り上がった家の出の富豪がハインラインの月を売った男になりたがるのは理解できるSF とカルトは相性がいいんだよなサイエントロジーとかオウムとかQ アノンもその類いだ。 「武器商人にとってはさぞかしエキサイティングな時代だろう民主主義は歪めればポピュリズムとなる扇動されたひとびとの血は商人たちを肥やす

 二年ほど運用した Mastodon サーバを今年の春にやめた直接の理由は円安セキュリティや責任にしても手間にしても複数のサイトを管理するのはめんどうだし人格 OverDrive にソーシャルメディア機能を実装したところで利点はさほどないリスクと汎用性を天秤にかけると Twitter でいいじゃんとなったもしまたやるとしたらホスティング業者の手は借りずに自力でたてるいまは人格 OverDrive に注力したいし次の小説もある何より Mastodon はいろんな意味でおれには too much だった重いし金がかかるし管理を丸投げしたので自由度がないしとりまわしの楽さ加減でいえば GNU Social だレンタルサーバで簡単にインストールできて運用も WordPress より楽だでもあれは UI が古すぎるMastodon のほうが重くても自由度がなくてもまだマシと感じた

 人格 OverDrive + BuddyPress がいちばん使いやすいのは経験上わかっているけれどよそと行き来ができないので汎用性がなさすぎるだれも使わないし外に広がっていかないからソーシャルである意味がないActivityPub で通信したところでコメント欄がなければ RSS フィードと大差ないあれきらいなんだよ一度配信されたら書きなおす前の文章が読まれるからそう考えると人権や民主主義と相容れないプラットフォームを使いつづけるのが最適解な気がした汎用性のための必要悪だかつては本の感想を連投してアカウント開設の三十分後に凍結されたりした一方でおれへの脅迫や人格否定は野放しだ人権侵害に苦情を申し立てても無視され本の感想は凍結される顔の知れた武器商人がやってくる前からそうだった格差を増大させその落差をエネルギーにするプラットフォームは本質的にそういう商売なのだいまは出し抜く書き方を学びつつある

 この日記に何度も書いてきたように議会襲撃事件は民主主義の混乱と弱体化をねらって人為的にひきおこされた動きの雪だるま的に波及したあげくのフラッシュクラッシュだったと考えているこれもある種の陰謀論だけど根拠がないわけじゃない)。 もちろんそこにも増大する社会格差へのひとびとの不満がかかわっている1930 年代のドイツのように武器商人らは格差を増大させ切り棄てられる側がなぜかそれを拍手喝采するひとびとは騙されるのが好きだ何もかも決めてもらえるから自由とは何もかも自分で選びとることでその選択に責任を負うことだ責任を負う権利こそが自由であってそれを多くのひとびとは好まない権利を放棄してわかりやすい物語に身を委ねるほうが圧倒的に楽なのだかくして富豪は祭り上げられまた別の富豪が加担してボロ儲けする世の中はそういう連中に都合よくできている

 公的な組織がきめたイベントではなく市井のひとびとから自然に生じた動き議会襲撃事件は論外としてそういう価値観が醸成されつつあること自体は好ましく思える現時点ではそれが生じて広まる場が営利企業のプラットフォームであるためにかれらの思惑が作用するのは否めないまだひとびとが権力に管理される発想から抜け出せておらず主体的に責任をもつ自由が浸透していないためにときとしてアルゴリズムに操作された場所へやりっぱなしで殺到したりする侵略戦争とそのあげくの自滅はポピュリズムが招いたこの比喩はかつての日本についてともいまのロシアについてとも取っていただいて構わない)。 そういう意味では韓国の事故もまた議会襲撃事件とおなじくプラットフォームの招いたフラッシュクラッシュだったといえるハロウィンが終わったあとの街にはゴミが散乱していると聞く一箱古本市はたぶんそうではないどちらも行ったことないから知らんけど)。 楽しみのために集まるひとびとが安全に楽しむための責任も意識しているそのあたりに何かこれからの社会へのヒントがあるような気がする


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。