おもしろいかつまらないかでいえば、 おもしろかった。 読む価値があるかと問われたらないと答える。 いわゆる 「変な話」 なのだがもっと変な話をおなじくらいうまく書くアマチュアを何人か知っている。 91 年頃の SF マガジンにはこんなのがいつだって何本も載っていた。 それがあたりまえだった。 カルトの事件と西の街の震災があってから日本人は見慣れないものや異なる価値観を警戒するようになった。 それから四半世紀あまりで SF は恵まれたひとたちがそうでないひとたちを貶めるジャンルに変質した。 仕事のできないやつが混乱に陥れた世界を仕事のできるやつが救う話なんてだれが読むものか。 ファンがスランだった時代は遠い昔になった (註: 「ファンはスランだ!」 は定型発達者から迫害されるミュータントに SF ファンが自分たちをなぞらえた標語)。 あの頃を知っている人間にいわせればこの本はそんなにありがたがって読むほどのもんじゃない。 おなじくらいおもしろい何本もの別の話と一緒くたに SF マガジンに載っていて、 あー今月もおもしろかったと読み棄てられるのにちょうどいい種類のおもしろさだ。 つまらなくはないんだよ。 装幀だって素敵だ。 でもざらにあるはずのおもしろさであって、 そんなものにさえ珍しい価値が生じてしまうほど現代の読書はつまらなくなった。
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文学会議
by: セサル・アイラ
奔放なウィットと想像力の炸裂する、アルゼンチン作家の衝撃作。小説家でマッド・サイエンティストの〈私〉は、文学会議に出席する文豪のクローンを作製しようと企む。しかし小さな手違いから大惨事が――。奇想天外な表題作のほか「マオとレーニン」というパンク少女たちと街角で出会った〈私〉がスーパーを襲撃するまでを描く「試練」を併録。世界的名声を誇る作家による、渾身の2篇。
¥1,870
新潮社 2015年, 単行本 190頁
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読んだ人:杜 昌彦
(2018年10月06日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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